麻痺側の手足が頼りない…解決のヒントは脳科学にあり!

脳科学

脳からの指令によって人間の動きは生まれています。

脳卒中の後遺症である麻痺のリハビリというと、「筋力を鍛えなくては」という印象があるようです。確かに、もし麻痺側の手足の頼りなさの原因が「筋力の弱さ」だけならば、毎日、筋力を鍛えるリハビリをしていれば、右肩上がりに力強くなり、問題は解決していくはずです。

しかし、実際に麻痺を持つ方からは「毎日、筋力を鍛えているのに、頼りない手足が一向に力強くなりません」など、筋力を鍛えるリハビリの成果を実感することができないという声がたくさん聞かれます。麻痺側の手足の頼りなさの解決のヒントは、脳科学にあるのです。

今回は、脳卒中の後遺症に対する効果的なリハビリメニューを考える上で重要な「運動の強さ」と「運動の種類」の考え方のポイントを、具体例をまじえて解説します。

麻痺の改善のリハビリには、弱い刺激の運動が有効

毎日、筋力を鍛えているのに、頼りない手足が一向に力強くならない場合、解決の糸口になるのが、運動の強さを調整することです。

脳科学の研究によると、脳卒中を始め、脳がダメージを受ける病気や事故の後には、「機能解離(diaschisis)」という現象が起こると言われています。

機能解離とは、脳損傷からの機能回復過程を説明する概念です。1914年にVon Monakowが言い始め、その後、1960年から1970年にかけてAsratianにより、研究が進められました。ごく簡単に解説すると、機能解離は、「脳卒中など脳にダメージが生じると、ダメージを受けた部位だけでなく、ダメージを受けた部位と機能的に連結している部位の機能が抑制の状態に入る現象」と説明されています(参考文献1)。

つまり、脳卒中などが起こると、直接ダメージを受けた部位だけではなく、直接ダメージを受けていない脳部位も働きにくくなり、それによって実際のダメージ部分によるもの以上に大きな症状が出てしまうということになります。

そのため、ダメージを受けていない脳部位の抑制を取り、再び脳の働きを取り戻すことが、脳卒中の後遺症の回復には重要となります。

Asratianの研究では、これらの脳部位が、抑制されなくなるためには強い刺激ではなく弱い刺激の方が有効になるという知見が発表されています。つまり、無理に力を込めようとする様な強い刺激の運動より、ゆっくり優しく動く弱い刺激の運動の方が、脳卒中の後遺症の回復には有効と考えられるのです。

リハビリ運動の種類は「生活動作として意味のある運動」を選択する

麻痺の回復に有効なポイントとして、体の感覚を意識することについては「頑張らないリハビリ」が脳卒中後遺症の回復に有効」、運動の難しさを調整しながら麻痺側の手足をたくさん使うことが有効であることは、「脳卒中のリハビリ効果につながる3つのポイント」で詳しく解説しました。

それらに加えて、「筋力を鍛えているのに、手足が一向に力強くならない」悩みを解決するポイントは、運動の種類にあります。

1996年にNudoらは、人工的に脳梗塞を起こしたサルに対して、「麻痺側の手を使うリハビリメニューを実施した結果、麻痺の改善が得られたと同時に、損傷側の脳において手や腕を司る部位が大きくなった」という研究報告をしています。また、その時のリハビリメニューの特徴として、「麻痺側の手でエサの入れ物からエサを取り出すという、生活動作としての意味のある運動」であったと解説しています(参考文献2)。

つまり、リハビリメニューを考える上では、生活動作としての意味のない運動よりも、生活動作としての意味のある運動の方が効果が出やすくなる可能性が出てくるということになります。ここでは、生活動作としての意味のない運動と意味のある運動の例をご紹介します。以下に紹介する生活動作としての意味のない運動も、「リハビリ効果がない」ということでは決してありませんので安心してください。

生活動作を取り入れた手のリハビリ例

手

単純に肩や肘を動かすよりも、今の生活において「どの場面であれば麻痺側の肩や肘を使う場面を作れそうか」考えてみましょう


麻痺側の肘を曲げ伸ばしをする運動を例に解説します。写真左側のように、良い方の手で麻痺側の手を持った状態で肘を曲げ伸ばしをする運動をしている方も多いと思います。しかし、この運動は実際の生活で使う場面はありません。つまり、生活動作としての意味のない運動とも言えます。

一方、同じ肘を曲げ伸ばしをする運動でも、写真右側のように肘を曲げながらペットボトルを口に運ぶ、肘を伸ばして机に置いた紙を抑えるという運動は、生活動作としての意味のある運動と言えます。写真のように麻痺側の手だけでペットボトルを持てない方は、両手でペットボトルを持って、両方の肘を曲げて口に運ぶと良いかもしれません。

生活動作を取り入れた足のリハビリ例

足

重りや機械を使って足を鍛えるよりも、日々の生活の中で麻痺側の足を意識して使う方が麻痺の回復には有効です


麻痺側の膝を伸ばす運動を例に解説します。写真左側のように、椅子に座って膝を伸ばして足を持ち上げることで膝を伸ばす筋肉を鍛える運動をしている方も多いと思います。しかし、この運動は実際の生活で使う場面はありません。つまり、生活動作としての意味のない運動と言えます。

一方、同じ膝を伸ばす運動でも、写真右側のように両膝を伸ばして立ち上がる運動は、「どこかに行くために立ち上がる」という生活動作としての意味のある運動と言えます。良い側の手でどこも支えずに両足だけで立ち上がれない方は、良い側の手で手すりや机を支える状態で、立ち上がると良いかもしれません。一人で立ち上がることが不安定な方は、転倒してしまう危険性がありますので、決して無理をしないでください。

麻痺を持つ方の中には今回紹介した生活動作としての意味のない運動をリハビリメニューとして実施していた方も多いと思います。しかし、今のリハビリメニューも決して無駄ではありませんので安心してください。今のリハビリメニューに、ゆっくり優しい弱い刺激でかつ、生活動作としての意味のある運動の要素を少し入れるだけで、効果がさらに出やすくなる可能性があります。

■参考文献

1)Asratian EA:Compensatory adaptation reflex activity and the brain.Pergamon,Oxford,1963

2)Nudo RJ, et al: Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct.Science 271:1791-1794,1996
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