脳卒中による麻痺は発症から半年以上経つと回復しない?

リハビリイメージ

脳卒中後遺症である麻痺のリハビリは、やみくもに頑張るだけでは効果が出にくいようです(リハビリ画像差し替え予定)

脳卒中のリハビリというと、どのようなイメージがあるでしょうか? 一生懸命、汗を流して筋力を鍛えるような「頑張るリハビ」のイメージがありますよね。

しかし、脳卒中による麻痺を持っている方からは、「毎日、立ちあがるリハビリをしていますが、なかなか力がつきません」など、努力しているのに思ったような回復が得られない悩みがたくさん聞かれます。

脳卒中のリハビリによる回復の可能性については、世界的に多くの研究がされてきました。その中で日本において長く注目されているのが、長くリハビリテーションの研究を行った医師である二木が1983年に発表した片麻痺の回復過程に関する研究です(参考文献1)。これによると、「麻痺について、発症から6ヶ月までにプラトーに達した患者は、上肢の麻痺の場合は94.7%、下肢の麻痺の場合は97.1%であった」と述べられています。つまり、発症からの日数が6ヶ月を過ぎると回復が起こりにくくなることが指摘されています。

脳卒中によって麻痺を持った方の中には、入院中に医師から「半年経っても良くならないから諦めましょう」と言われ、深く傷ついた経験がある方が多くいます。医師から言われたとしても、「まだまだ良くなりたい!」という想いを持っている方ももちろんたくさんいます。

脳卒中発症から半年以上経っても回復の可能性はある

医師

脳科学の研究から新たな可能性が分かってきました

それでは、脳卒中発症から半年を超えると回復の可能性はないのでしょうか? その答えのヒントは脳科学に隠されています。

発症後6ヶ月以上経過した脳卒中による麻痺を持っている方を対象に実施したStinearの研究によると、装置を使った運動を行った結果、「運動機能の回復とTMSの評価によって一次運動野の興奮性が増大する」ことが確認されました(参考文献2)。つまり、脳卒中発症から半年を超えていても、リハビリをすることで脳の働きが変化し、麻痺の回復が起こる可能性があることがわかってきたのです。

残念ながら脳卒中によって一度、死んでしまった細胞が生き返ることはありません。しかし、リハビリを通じて死んでしまった細胞の周りの元気な細胞が働くことで、失われた脳の働きが取り戻される可能性があることがわかっています(参考文献3)。

麻痺の回復に有効な”頑張らない”リハビリ

図

麻痺からの回復には、脳の運動の準備と体の感覚の状態が整っていることが重要です


回復の可能性があるとなると、次に知りたいのはその効果的で具体的な方法でしょう。

2012年に様々な研究から麻痺の回復に大切なことを導き出した研究があります。それによると麻痺の回復のためには、脳の運動の準備体の感覚の状態が整っていることが、とても大切ということが指摘されています(参考文献4)。

脳の運動の準備と体の感覚と言われても、具体的にイメージしにくいかもしれませんので、少し詳しく解説します。

人間が手足を動かせるのは、脳が手足の筋肉に動きの信号を送っているからです。この時、実は脳の中では、動きの信号を送る前に「今から送る動きの信号は、ここの関節と筋肉をこれくらい動かす予定です」という運動の準備状態が作られていることが脳科学の研究からわかっています(参考文献5)。

また、体の感覚というのは、関節の動く感覚や手のひらや足の裏の触れる感覚といった、日頃あまり意識しない人間の感覚のことになります。

麻痺の回復のためには、脳の運動の準備と体の感覚の状態が整っていることが大切というこの研究に加えて、脳の運動の準備は体の感覚から作られるという研究もあります(参考文献6)。

つまり、麻痺の回復のためには、関節の動く感覚や手のひら足の裏の触れる感覚といった”体の感覚を意識しながら動く”ことが有効ということになります。

実際に”体の感覚を意識しながら動く”リハビリを試した方からは、「今まで力を抜こうとしても勝手に足の筋肉が突っ張っていましたが、体の感覚を意識してゆっくり動けば、突っ張らないことがわかって楽に歩けました」といったお話を伺うことがあります。

「頑張るリハビリ」を続けてきて、効果が出ずに悩んでいる方は、まずはゆっくり動きながら体の感覚を意識することからはじめてみてはいかがでしょうか?これからの記事で、詳しい方法をご紹介していきたいと思います。

まずはいつもの早い動きでは、体の感覚はなかなか意識できないので要注意です。止まった姿勢でゆっくり体を動かしながら「どこの関節が動いているか?」「どこの触れる感じが変化するか?」ということを、麻痺していない良い側の体と麻痺側の体の違いを見つけてみてください。

違いがわかれば、麻痺側でも麻痺していない良い側と同じ感覚を見つけるように意識してみましょう。ゆっくり動きながら麻痺側の体で、うまく麻痺していない良い側と同じ感覚を意識できれば、楽に動ける可能性があると思います。

■参考文献

1)二木立:脳卒中患者の障害の構造の研究(第1報)片麻痺と起居移動動作能力の回復過程の研究.総合リハビリテーション 11巻6号:465-476,1983


2)Stinear CM,et al:Priming the motor system enhances the effects of upper limb therapy in chronic stroke.Brain 131:1381-1390,2008

3)Nudo RJ, et al: Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct.Science 271:1791-1794,1996

4)Sharma,N.,Cohen L.G.:Recovery of motor function after stroke.Dev.Psychobiol 54:254-262,2012

5)Jeannerod M:The representing brain:Neural correlates of motor intention and imagery.Behav Brain Sci 17:187-245,1994

6)岩村吉晃:タッチ.神経心理学コレクション:p142,医学書院,2001
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