歯・口の病気

歯周病と歯が割れる歯根破折で抜歯が必要になる理由

【歯科医が解説】現在の日本では虫歯が減少し、虫歯経験のない歯が増加しています。それにもかかわらず、60歳までに半数の人が抜歯を経験し、85歳の約半数は総入れ歯です。虫歯減少の一方で、抜歯の原因となっている「歯周病」と「歯根破折」について解説します。

丸山 和弘

執筆者:丸山 和弘

歯科医 / 歯の健康ガイド

早期発見・早期治療で「虫歯による抜歯」は減少傾向に

虫歯の進行

虫歯での抜歯は、神経を抜いた後でも、かなり悪化した状態でなければ、抜歯せずに機能を回復させることができる

歯のトラブルとして最も代表的な「虫歯」。実は近年、虫歯の数が減少していることをご存知でしょうか? 厚生労働省が昭和32年から6年ごとに行なっている『歯科疾患実態調査』でも、調査を行うたびに虫歯が減少傾向になっていることが確認できます。

それだけ虫歯予防や虫歯治療技術の向上が進んだとも考えられますが、一方で60歳までに過半数の人が抜歯を経験し、85歳になれば半数が総入れ歯になっているのが現状です。

虫歯が減少しているのに、抜歯する人の割合が未だにここまで多いのはなぜでしょうか? 考えられる原因について解説します。
 

虫歯が原因の抜歯減少は、正しい虫歯予防知識の広がりから

虫歯が減少している主な原因は、虫歯についての基礎知識が一般に広く普及したことだと考えられます。まず、今や当たり前すぎる知識と思われそうですが、甘いものなどをだらだら間食すると虫歯になりやすいこと、虫歯を予防するために歯磨きが必要であることは、十分に知られていると思います。正しい歯磨きができているかどうかは別としても、歯磨きで虫歯予防ができることは、誰でも知っているでしょう。

しかも虫歯の早期発見のために、保育園や学校、職場、自治体などで歯科検診を行う機会も増加しています。これにより痛みが出る前の初期虫歯の発見ができるようになりました。そして、虫歯になったとしても、歯科医院はコンビニより多いと言われるような現代、歯科を探す苦労はあまりないでしょうし、基本的な虫歯治療は国民健康保険でカバーされるため、受診のハードルはそれほど高くありません。しかも虫歯治療の技術や材料も進化しているので、以前のようにすぐに抜歯する必要はなく、ギリギリまで自分の歯を持たせることができる治療が浸透しています。

注意したいのは、早期発見時に治療すれば、1回の来院で治療ができることでも、虫歯を放置した後に治療すると、数回から1ヶ月程度の治療期間がかかってしまうことが多いということです。せっかく歯科医院に通院するのであれば、できるだけ小さい虫歯のうちに治す方が、時間も費用も節約できるためおすすめです。

増加する新たな抜歯原因は「歯周病」と「歯根破折」

最近の虫歯治療は、抜歯が極力先送りされるようになりました。たとえ歯の頭部分の形態がほとんど崩壊していても、歯ぐき内部の根の部分がしっかり残っていれば、十分に歯としての機能を取り戻すまで治せる可能性は高くなります。歯ぐきの奥の根の部分が深刻に崩壊しない限り、抜歯は避けられることが多くなってきたのです。

虫歯が原因での抜歯が少なくなる一方、新たな抜歯に至る原因として増加しているのが、「歯周病」と「歯根破折」です。虫歯は主に歯の内部を破壊しますが、歯周病は、歯の周囲の骨を破壊して、グラグラにしてしまうことで、抜歯が必要になるケースを起こします。歯根破折は、文字通り歯が薪割りのように割れて、即抜歯になるケースです。どちらも歯が残っていなければ、起こることはありません。虫歯を治療して、抜歯せずに歯を残せるようになったことで、これらのトラブルが目立つようになってきたのです。

歯の破折は「即抜歯」、歯周病は工夫で「延命」

歯のトラブルで最も重症なのは「歯の破折」です。歯が縦に裂けるように割れてしまうわけで、人間でいえば即死の状態です。一度完全に割れてしまったら、どんなに治療しようが、もう元に戻すことはできず、抜歯のみが体を守る最後の治療になります。破折は、いきなり衝撃と共に痛みが出ることもあれば、数十年かけてゆっくりとひび割れを起こして、治療しても治らない歯周病のように見えることもあります。

ひび割れが、歯の寿命の最後と言われるのは、たとえひび割れを強力な接着剤で埋めたとしても、上下の歯で噛み合わせる力が掛かると接着した部分が剥がれて割れるか、別の場所が新たにひび割れることが多いからです。

さらに隙間が目で確認できないようなわずかなものであっても、細菌の大きさから見れば、歯から骨につながる大きな裂け目でしかありません。しかもその隙間には歯ブラシの毛先が入り込むこともできないため、細菌がどんどん歯ぐきの奥の骨にまで入り込んで腫れや膿が出て、さらに噛むと痛いなどの症状が現れます。

これに対して歯周病は、虫歯をきちんと治していても、歯の周囲が完全に溶けてしまえば、歯ぐきから歯が剥がれて自然に抜けてしまいます。一般的には歯が骨に固定されている部分が徐々に溶けて失われるため、グラグラしてきたり、噛むと揺れて痛むなどの症状が出ます。

しかし歯の破折と違うのは、抜歯になるまでには最後まで治療によって延命できるということです。さらに原因が歯の周囲のプラークであるため、歯磨きと定期的な歯石取りなどを行うことで予防することも可能です。

逆にいうと虫歯や歯周病は、治療と予防をしっかり行えば、歯が破折するまでは延命することも可能なのです。
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