免許の自主返納と引き換えに特典が得られる
<高齢の親に免許返納させた3つの作戦>の記事では、「高齢だから認知機能が落ちているから」と説得するのではなく、「費用対効果」を説明したことが功を奏した事例を紹介しました。さらに、「自治体によっては自主返納をすることでタクシーやバスの割引券配布などの優遇措置がある」ことにも触れました。
じつは自治体だけでなく、民間企業も自主返納をサポートしています。
自主返納を行った人に対して特典を設けているのは高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟企業や団体で、具体的には以下のようなサービスがあります。
■引越しを通常料金から10パーセント割引
(日本通運首都圏支店、フコクなど)
■定期預金の金利優遇
(巣鴨信用金庫、東京シティ信用金庫など)
■ホテル内のレストランなどの10パーセント割引
(帝国ホテル東京、渋谷エクセルホテル東急など)
■自宅への配送無料
(高島屋、三越伊勢丹・一部除外あり ※店舗限定)
<そのほか>
■『はとバス』の定期観光コース料金が5%割引 ※一部除外あり
■『明治座』入場券代が10%割引 ※一部対象外公演あり
そのほか、全国の警察では「運転経歴証明書」制度を充実させるなどし、運転免許を返納しやすい環境の整備を進めています。 運転経歴証明書は金融機関などでの本人確認書類としても有効とされるなど証明書として活用することもできます。
こうした取り組みの甲斐もあり、返納者の数は増えてはいます。しかし、警察庁の統計では75歳以上で免許の自主返納をした人は、全国で2.8%にとどまっています。
解決のカギは「人の意識」よりも「テクノロジー」?
2016年10月、横浜市で88歳の男性が運転していた軽トラックが通学中の小学生の列に突っ込み、男子一人が死亡した事故がありました。過失運転致死傷の疑いで逮捕されたこの運転手は、事故の前日、自宅を出た後、車で都内や横浜市をおよそ24時間走っていたといいます。本人は「どこをどう走ったのか覚えていない」と供述しており、鑑定の結果、認知症だと診断されました。検察は認知症の影響で長時間運転を続けてしまい、その結果運転能力が失われていた可能性を否定できないとし、2017年3月31日、嫌疑不十分で不起訴にしました。みなさんはこの処分に対して、どうお感じになったでしょうか。
一連の事故を受け、2016年11月、安倍首相は関係閣僚会議を開催、高齢ドライバーによる事故防止対策を要請しました。国土交通省自動車局技術政策課の担当者は「歩行者も認識できるなど全体の検知レベルが向上するのを受けて自動ブレーキの義務化も検討したい」という旨の発言をしました。
上記のような事故が後を絶たず、自主返納の割合が低い現状では、「人」の意識に訴えかけるだけでなく、「テクノロジー」の力にも目を向けて検討するべきときが来ているのではないでしょうか。
各メーカーの車両搭載支援システム
ちなみに、現在、各自動車メーカーの車両に搭載された支援システムには以下のようなものがあります。■スバル『アイサイト』
人の目と同じような左右二つから成る高性能のステレオカメラにより実現した5つの機能(ぶつからない技術、ついていく技術、はみ出さない技術、飛び出さない技術、注意してくれる技術)を備える
■トヨタ自動車『インテリジェントクリアランスソナー』
駐車時や低速走行時における障害物への衝突のおそれがあるとき、アクセルペダルの踏み間違いや踏みすぎによる急発進などの際、センサーが前後進行方向の障害物を検知するとシステムが作動し、壁などの障害物への衝突を緩和する
■ダイハツ工業『スマートアシスト』(スマアシ)
軽自動車発初の予防安全機能『スマートアシスト』は時代に応じて進化。最新バージョンでは、歩行者を認識してブレーキまでかけてくれる
このほか、自動車用品店のオートバックスセブンが中古車にも後付けができる急発進防止装置「ペダルの見張り番」を発売。カメラやセンサー機能はありませんが、アクセルのペダルを踏んだ量を電気的に制御し、誤発進を防止します。
ドライブレコーダー(ドラレコ)を無償で貸し出す制度も
一方、自主返納を促す取り組みにもテクノロジーが導入されはじめています。ここで紹介したいのが鹿児島県下の全警察署などで実施している『ドライブレコーダーレンタル制度』です。これは映像記録型ドライブレコーダー(以下、ドラレコ)を無償で貸し出す制度です。
ドラレコは急ブレーキなどにより車両に大きな衝撃が加わると、その前後十数秒の前方映像などを記録する車載カメラ装置です。危ない運転をしてしまい「ヒヤリ」したり、「ハッ」としたりといった、いわゆる「ヒヤリハット」の場面を記録することができます。さらに、衝撃がなくても最新の一定時間の映像を記録するものもあるようです。
後からこの映像を見ることにより、運転者は高齢による運動機能の低下を自覚し、自分の好ましくない運転特性を自覚します。運転手や家族は映し出された運転行動を振り返って客観的に確認できるというわけです。
ちなみに、全日本トラック協会が発表した『ドライブレコーダーの導入効果による調査報告書』(平成27年3月)によると、ドライブレコーダーを導入した事業所のうち72.2%が「運転手の安全意識が高まった(危険運転減少)」と回答しています。さらに、「事故(第一当事者)が減った」との回答も5.5%ありました。
悲惨な事故を繰り返さないためには、テクノロジーも活用しながら官民一体となってこの問題に向き合う時期にきているのではないでしょうか。