2017年6月17日に運行開始したJR西日本の豪華クルーズトレインTWILIGHT EXPRESS瑞風の車両が、2017年2月23日に、新大阪駅(大阪市淀川区)近くにある網干(あぼし)総合車両所宮原支所構内で初めて報道陣に公開された。

それまでは、黒いラッピングに包まれ西日本各地で試運転が行われていたが、この日、車庫内から姿を見せた列車は、ダークグリーンのシックな装いで豪華列車にふさわしい麗姿であった。この列車の外観ならびに車内を取材することが許されたので、詳細にレポートしてみたい。

<目次>


瑞風は堂々たる10両編成

瑞風

クルーズトレイン瑞風の編成


列車は、前後にオープンデッキの展望車を配した10両編成の気動車(ディーゼルカー)。電車ではなくディーゼル車両とは言っても、かなり複雑な仕組みになっているので、詳細は本稿の後半で解説しよう。

編成は、ロイヤルツインという2人部屋の寝室が4両、ザ・スイートという最高級の車両が1両、ロイヤルツイン1室とロイヤルシングル2室からなる車両1両、食堂車、ラウンジ各1両、前述した運転台付きの展望車2両の10両である。では、各車両について見ていきたい。



ザ・スイートは1両まるごと独占

ディナーテーブル

ザ・スイート室内には専用のディナーテーブルもある 写真提供=JR西日本


まずは、最高級のザ・スイート(7号車)。1両まるごと独占という度肝を抜くスペースで、「ななつ星in九州」にもJR東日本の「四季島」にも存在しない日本最上級の客室である。海外でも、1両まるごとというのは、インドのクルーズトレイン「マハラジャ・エクスプレス」のプレジデンシャル・スイート」くらいしか思い浮かばないくらいの立派さだ。

ベッドルーム

ザ・スイートのベッドは線路の枕木の方向に配置されている 写真提供=JR西日本


客室はリビング、4人掛けテーブルのあるダイニング、寝室、列車内では珍しいバスタブのあるバスルームに分かれ、豪華そのもの。

バスタブ

ザ・スイートにはバスタブがある 写真提供=JR西日本


トイレとワードローブは各2ヶ所ある。この車両のみダブルデッカー(2階建て)構造で、8号車から6号車へ、あるいは逆方向に他の乗客やクルーが通り抜けるには地階に設置された通路を利用することになる。このため、ザ・スイート利用客のプライバシーが確保されるとともに、車両の両側の車窓が部屋の中から楽しめるという贅沢な配置となり、最高級客室の名に恥じない造りである。なお、ソファをベッドとして使用すれば、4人までの利用が可能となる。


瑞風の標準客室ロイヤルツイン

ロイヤルツイン

ロイヤルツインの昼間の様子


一番多い客室は2人部屋ロイヤルツインで、2,3,8,9号車の4両と4号車の一部で、各車両に3室ずつ(4号車は1室のみ)。ゆったりとしたソファが2つ並び、テーブルや書き物机と椅子も配置された広々としたリビングルームで、隣接して専用のシャワールーム、トイレ&洗面所、ワードローブがある。

ロイヤルツインの寝室

ロイヤルツインの寝室


夜には、ソファ背後の壁を手前に倒すとツインベッドになる仕組みだ。また、通路側の壁は可動式のため、開放すれば左右両方の車窓を楽しむこともできるのは素晴らしい。窓は開閉可能なので、沿線の空気や風を感じることができるのは、古き良き時代の汽車旅の楽しさが蘇るようで嬉しい。窓が開けられない車両にすっかり慣れてしまっているだけに、こうしたサービスは鉄道旅行の魅力アップとなり、ありがたい。


一人旅や車椅子利用者も乗車できる客室

ロイヤルシングル

ロイヤルシングルの昼間の様子


4号車はロイヤルシングル2部屋とユニバーサル対応のロイヤルツイン1室。一人旅のニーズにも対応している。もっとも、ベッドにもなるソファの壁の上部を倒すと2段ベッドになり、2人利用も可能になる。洗面所&トイレ、シャワー室もある。2人で利用する場合は、瑞風の中ではランクが一番下であるが、それほど格安といえる料金設定ではない。あくまでシングルユースが標準であろう。

ユニバーサル対応のロイヤルツイン

ユニバーサル対応のロイヤルツイン


この車両の隣にあるロイヤルツインは車椅子でも利用可能なユニバーサル対応で、トイレや出入口など他の部屋よりもゆったりと幅を取って車椅子でも不自由なく使える客室としている。


ゴージャスな食堂車

食堂車

食堂車内部の様子


6号車の食堂車は「ダイナープレヤデス」という名称で、大阪~札幌を結んでいた寝台特急「トワイライトエクスプレス」の食堂車の名称を引き継いでいる。4人用テーブルと2人用テーブルがあり定員は20名。時間による交代制でのサービスとなろう。

食の権威・門上武司氏、京料理「菊乃井」3代目主人村田吉弘氏、レストランHAJIMEオーナーシェフ米田肇氏、小山賢一氏、原博和氏、上田幸治氏、広島県の「あなごめし うえの」主人上野純一氏、オーナーパティシエ小山進氏といった一流の食の匠が料理を監修する。インテリアも木版画のアールデコ調ポスターや花瓶などを配し、ゴージャスな雰囲気を醸し出している。


列車旅に彩りを添える魅力的なラウンジカー

ラウンジ

ラウンジの様子


5号車のラウンジカーは別名「サロン・ドゥ・ルゥエスト」。札幌行き寝台特急トワイライトエクスプレスのラウンジカーは「サロン・デュ・ノール」(フランス語で「北のサロン」の意味)だったが、今回は京都・大阪からもっぱら西へ向かうのでノール(北)をルゥエスト(西)に替えたのである。バーカウンターやソファ中心のブティックスペースのほか、立礼の茶の卓という和風のおもてなしがあるのが興味深い。木を多用した落ち着いた高級感あふれる空間で、社交場となるとともに、車内販売も予定し、クルーと乗客、乗客同士での対話も弾みそうだ。

レトロで個性的な展望車

展望車車内

展望車(1号車)車内の様子


列車の前と後ろには展望車がある。乗客の誰もが利用できるフリースペースでドリンクサービスがある。特筆すべきはガラス窓のないオープンな展望デッキ。往年の特急「つばめ」「はと」の展望デッキをモダンにしたものといえるだろう。ただし、走行中に外に出ることができるのは、最後尾となるときのみ。先頭車になるときに外に出て映画「タイタニック」の列車版を演技することはできない。安全上の理由からである。

オープンデッキ

展望車のオープンデッキから外を見た様子


運転台が一段高いところにあり、小田急ロマンスカーのガラス窓がない感じである。遠目にはかつてのボンネット型特急やJR九州の「ゆふいんの森」のような形状にも見える。いずれにせよ非常に個性的な形で、1930年代に流行ったレトロな流線型車両を彷彿とさせる列車の顔である。


瑞風の動力システムについて

キイテ

展望車1号車のサイド。キイテの形式が書かれ、足回りは機器がぎっしり詰まっている


列車は、前後に運転台のある動力分散型車両で「ななつ星」やかつての「トワイライトエクスプレス」「カシオペア」のように機関車が牽引する客車列車ではない。形式称号のあたまに「キ」が付くことで分かるように、気動車(ディーゼルカー)である。とはいっても従来から走っているディーゼル特急のように単純にディーゼルエンジンが動力となる列車ではなく、ディーゼル発電機で発電した電力と蓄電池に貯めた電力によりモーター駆動で走るハイブリッド方式。ディーゼルを主体としながらも電車のような仕組みでもある。電車でないのは、主たるルートの一つである山陰本線のかなりの区間が架線の張られていない非電化区間だからだ。

キサイネ

寝台車の形式はキサイネ


車両の形式を見ると、展望車=キイテ、寝台車=キサイネ、食堂車=キシ、ラウンジ車=キラと食堂車のキシ以外は鉄道ファンにとっても馴染みのない珍しい形式となる。一般のディーゼルカーはキハであるが、「ハ」は普通車のことで、「ロ」がグリーン車、近年では全く使われていなかった最高級車両に付記される「イ」が復活した(もともとは、イ=1等車、ロ=2等車、ハ=3等車で、グリーン車は航空機で言えばビジネスクラスに相当した)。

かつてのサロンカーは「ハ」だったが、普通車の「ハ」では安っぽいイメージがあるとのことで、新規の「ラ」(ラウンジのラ)が初登場し、キラという耳慣れない形式となった。また、「サ」は無動力の意味であり、「サ」の付かない両端の展望車(キイテ)食堂車(キシ)ラウンジ車(キラ)の4両に動力があり、寝台車6両(キサイネ)はすべて無動力である。

従来の鉄道技術では、寝台車は動力のない客車が好ましく、動力が床下にある電車やディーゼルカーは騒音や振動が気になって寝られないので寝台車にはふさわしくないというのが「定説」であったが、今回の瑞風は、技術の進歩はもちろんだが、寝台車をすべて無動力とすることで静謐性を保っている。JRの公式文書では、4M6Tとなっていて、Mは電車の動力車を意味する略号であるが、ある意味、電車に近いハイブリッド車両という位置付けなのであろう。


瑞風に関わった人々について

除幕式

除幕式にて。左から福田氏、浦氏、来島社長、葉加瀬氏


車両のインテリアデザインは、高級ホテルや京都迎賓館の設計をも手掛けた浦一也氏、車両外観は、新幹線N700系などを手掛けた工業デザイナー福田哲夫氏が担当した。また、PR担当ともいうべきアンバサダーには音楽家の葉加瀬太郎氏が就任、瑞風のテーマ音楽を作曲し、車両完成記念式典の際には、自らバイオリンを演奏してテーマ曲を披露した。また、車内クルーの制服デザインについては、ファッションデザイナー稲葉賀惠(いなば・よしえ)さんが監修している。

千家十職の黒楽茶碗

車内に展示される京都・千家十職の黒楽茶碗


そのほか、車内を彩る伝統工芸品については、著名な工芸作家、職人の方々に制作を依頼している。

5つある瑞風の走行ルート

京都・大阪と下関を結ぶのが基本で、山陽本線を経由する瀬戸内海沿岸ルートと山陰本線を経由する日本海側のルートに分かれる。山陽・山陰ともに1泊2日で京都・大阪発下関行きと下関発京都・大阪行きの4つのコースがある。いずれも2ヶ所立寄って観光するスポットがある。

厳島神社

山陽コース(上り)では、立寄り観光として宮島(厳島神社)を訪れる


2泊3日コースは、山陽本線で下関へ向かい、折り返して山陰本線を東へ進むルートを取る。山陽本線と山陰本線以外では、コースによって呉線の一部と伯備線の一部を行きつ戻りつすることもあるが、それ以外の路線には入線しない。

また、単なる移動手段の列車ではないので、夜を徹して走らないときもあり、深夜の長時間停車が設定されている。列車の揺れが気になって寝られない人でも、コースによっては安心して熟睡できることだろう。ただし、どこの駅で長時間停車するかは、保安上の理由から正式には公表していない。

深川湾

山陰コース(上下とも)のビューポイントのひとつは長門市付近の深川湾である


瑞風の運行開始は2017年6月17日(土曜)と決まった。ロイヤルツイン=27万円(1泊2日コース1人分)、ザ・スイート=75万円(1泊2日コース1人分、2泊3日は1人分120万円)と極めて高額にもかかわらず完売、定員以上の応募があったため抽選となったがザ・スイートは何と68倍の競争率だった。お金のみならず運も持ち合わせていないと乗れないようだ。9月以降は、若干値上げとなった上で募集が行われるが、当分の間、チケットの激しい争奪戦が続きそうで、憧れの列車となろう。JR東日本も「四季島」をデビューさせ、JR九州の「ななつ星in九州」と豪華クルーズトレインは3つどもえの競争状態が続く。

瑞風の公式サイト
取材協力=JR西日本

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