3つの特徴が当てはまる人は「がん家系」?
がんと遺伝の関係について考えてみましょう
遺伝的要因が認められるがんには、「家族性腫瘍」と「遺伝性腫瘍」があります。家族性腫瘍は、原因が環境にあるか遺伝にあるかに関わらず、ある家族に集積して発生したがん(腫瘍)のことをいいます。家族集積を認めるがんは、がん全体の5~10%存在するとされています。
この「家族性腫瘍」のなかでも、遺伝性要素がとくに強いものを「遺伝性腫瘍」といいます。遺伝性腫瘍の家系、つまり医学的に正しい意味でのがん家系には、「家系内に若くしてがんにかかった人がいる」、「家系内に何回もがんにかかった人がいる」、「家系内に特定のがんが多く発生している」という3つの特徴があります。
がん発生とがん遺伝子の関係
人間の体は、およそ60兆個にもおよぶ細胞からできています。細胞の核の中には遺伝情報を受け持つDNAがあり、タンパク質をつくる元になる塩基配列が数万個も含まれています。それが遺伝子と呼ばれるものです。遺伝子の塩基配列には、ときに変異が起こることがあります。塩基配列のある部分が入れ替わったり別のものになったり、欠けたりするのです。また、細胞が増殖するときにはDNAを複製していますが、そのときにコピーミスをすることがあり、それによって遺伝子変異が起こります。
遺伝子に変異が起こると、遺伝子を元につくられるタンパク質が本来とは異なる性質をもつようになります。さらに変異した遺伝子は、細胞の増殖を促しつづける状態になることが分かっています。このような遺伝子を「がん遺伝子」と呼びます。何年もかけて体内組織で増殖していったがん遺伝子が、体に害を与える「がん細胞」を形成するわけです。
がん細胞をつくりだす遺伝子の変異は、酸化効果や発がん物質、紫外線、ストレスなど、その人を取り巻く外的要因で引き起こされます。こうした要因のひとつに、親から子へと受け継がれた変異遺伝子もあります。しかしその遺伝子を受け継いだからといって、からなずしもがんが発生するわけではありません。
遺伝性腫瘍の中には、遺伝子検査によってみつかるものもあります。しかし、遺伝子検査ができるがんは限られていますし、すべてが説明できるわけではありません。また遺伝は血縁者すべてに関わる問題を孕んでいるため、検査を受ける場合は細心の注意が必要だといえるでしょう。
最も効果的ながん予防法は、生活習慣の改善
家族性腫瘍の診断には医学的な基準があり、なかには遺伝子検査で原因が分かるものもありますが、がんの要因としての遺伝の影響は、それほど多いものではありません。大腸がんを例にとると、全体のおよそ25%が家族性腫瘍であり、遺伝性と考えられるがんは5%ほどにすぎません。むしろ大多数のがんは、食生活や喫煙、ストレスなどの生活習慣の影響、ウイルスや細菌に感染することで起こります。
またがん遺伝子が発生する要因として、生活習慣などの環境要因が大きく関わっているのです。
それよりも、禁煙や飲酒を控える、緑黄色野菜や繊維質の豊富な食品をとる、紫外線を浴びすぎないなど、ふだんの生活でできることがたくさんあります。さらに感染症のがんであれば、ワクチン接種や細菌の除去などで直接対処できます。このようながん対策を行うほうが、はるかに有益だといえそうです。がん予防や早期発見についてもっと詳しく知りたい方は「あなたをがんから遠ざける3つのポイント」「がんの早期発見を可能にする3つの心構え」もあわせてご覧ください。
(監修:今村 甲彦)