いきなり離婚を考えたわけではない
突然突き付けられる離婚届
このような「いきなりの」離婚申し出、「不意打ちの」離婚請求、実は日本でも増加しているのでないだろうか。
男女どちらが先に離婚を申し出るのかというアンケートで、女性が8割という回答を見たことがある。男性はなかなか「結婚している状態」「家庭という形」を壊したがらないので、よほどのことがない限り、自ら離婚を申し出るまでには至らないのかもしれない。
ただ、離婚をつきつけられる状況が、「話し合い」ではないという話も最近、よく聞くのだ。
「いきなり妻に離婚を突きつけられた」とか「急に妻と子どもたちがいなくなり、テーブルの上に離婚届けが置いてあった」など、いったい何が理由かわからないと男性たちは顔を曇らせる。
突然、妻子がいなくなって
突然、妻と子どもがいなくなった、男たちの哀愁
ケンタさん(40歳)は小さな声でそう言った。2年前のことだ。結婚して10年目、7歳と5歳の子を連れて、妻はある日突然いなくなった。
「妻の実家に電話をしても知らないという。警察に届けると言ったら、義兄が渋々、彼女たちが引っ越したと教えてくれた。ただ、引っ越し先は言えない、あとで代理人が書類を届けると。『妹から内緒にしてくれって言われたから。ごめんね』と言われましたが、義兄も理由はわからないと言うんです。僕は家族仲が悪い、夫婦仲が悪いなんてまったく思っていなかったら、本当にびっくりしました」
子どもに会えないのがつらかった。2週間後、ようやく妻の代理人の弁護士と話をした。妻が言うには、結婚当初から夫のものの言い方、態度にいつもびくびくしていたのだそう。
「わけがわからなかった。むしろ友人の間では、僕は恐妻家だと言われていましたから。キツイ言い方をした記憶もない。それなら僕のほうが妻の機嫌を損ねないようにびくびくしていたと言えるはず。弁護士にそう言いましたが、取り合ってもらえなかった。しかたなく、こちらも弁護士を立てました」
代理人とのやりとりから、少しずつ妻の気持ちが見えてきた。
「妻の日記の一部を読むことができたんです。そこに僕が言った言葉でイヤだなと思ったことが書いてあった。たいしたことではありません。たとえば僕の昼食である社食と夕飯のおかずがダブったときに、『あー、昼にこれ食べちゃった』と言ったとか。つまりは、思いやりが足りないということですね。でも、そのときに、『一生懸命作ったのにヒドイ!』とでも言ってくれれば、『ごめんごめん』と言えたのに……。妻は何でも自分の中でため込む性格だった。こちらは気づきませんよ」
結局、協議離婚が成立したが、ケンタさんは今も釈然としない思いを抱えているという。夫婦として仲がよかったはずだと思っていたのに、実は妻側は少しずつ自分に対する悪い感情が募り、元に戻れないくらいに嫌がられていたことを離婚をつきつけられて初めてわかったのだから、当然だろう。
妻は夫に我慢していることを見せない
子どものめんどうを見るといったのに……
「私もそうでした。20年我慢したあげく、いきなり離婚を突きつけてしまった。夫は驚いてポカンとしていました。あの表情が忘れられません」
ユキさん(45歳)はそう言う。きっかけは第一子が産まれてすぐ、ユキさんの父親が交通事故に遭ったという連絡が入ったときだった。
「どういう状況かわからないけど、すぐに行かなければと思った。でも、夜中だったし、幼い子どもを連れては行かれない。夫がめんどうを見ると言うので託したのですが、朝6時ごろ家に戻ったら乳飲み子はぐったりして、おむつもぐじゃぐじゃ。夫はお酒を飲んだらしく、いびきをかいて寝ている。あのとき、夫を諦めたような気がします」
子どもを育てていくことに関して、夫には何も望むまいと決めたのだ。子どもが大きくなるにつれ、夫は父親らしい面を見せるようになったが、いざというときは逃げの姿勢だった。
「たとえば子どもが受験のプレッシャーでちょっと心のバランスを崩したときも、夫は素知らぬ顔でした。励ますこともできないのか、とがっかりした。そういうとき、私はいつも“あの日”のことを思い出していましたね。子どもに対して無責任だったあの日のことを」
そして下の子が高校に入った昨年、彼女はいきなり夫にサイン済みの離婚届をつきつけた。夫は理由を問いただし、「オレは何もしてないのに」と言った。何もしていないから夫婦関係にヒビが入った。そのヒビにも気づかなかった鈍感さがイヤなの、と彼女は心の中で言ったが、口にはしなかった。
「理由は彼が一生かけて考えればいい。私からすれば、我慢の限界はとっくに超えていたのだから」
ユキさんにとって、離婚届をつきつけたのは今までの復讐のようなものだという。夫が知らないうちに、妻の離婚の意志はどんどん固まっていくのだ。
妻が文句を言わないからうまくいっているとは限らない。