「寿司には日本酒」という常識?

20代の頃、初めて一人で行った寿司店でこんなことがあった。その店は名人と謳われる気難しい大将がいることで知られており、初めて高級寿司店を訪れる若葉マークの若者にはかなりハードルが高い店でもあった。

時間は午後5時過ぎ。開店直後とあって先客はいない。席に着くとすぐに「ビールお願いします」と頼んだ。するとである。「チェッ」という舌打ちが聞こえた、ような気がした。「え、なになに? おいらなんかした?」とビビりまくっていると、大将は独り言のようにこう言ったのだ。「最近の若いのはなにかというとすぐビールだ」。

あれ? とりあえずビールはダメなの? と動揺しまくった私は「あのー、すみません、ビールやめて冷酒お願いします」とかろうじて声を絞り出した。すると大将はわかればいいんだという顔でお酒を出してくれたが、寿司の味などもちろん楽しめるわけもなく、ただただ緊張のままにおまかせをいただいた記憶のみが残っている。

といったわけで、その出来事がおそろしくトラウマになり、それ以来、回転寿司でもいきなり冷酒というのが定番となっていたが、ここに来て大きく考えが変わることになった。

そう、「寿司にビールが仮に合わなくても回転寿司には合うのではないか?」と気付いたからだ。そもそも回転寿司で最も飲まれているアルコールはビールであり、日本酒の割合は微々たるもの。全国の皆さんがビールと回転寿司を楽しんでいるのだから、これに勝る組み合わせはないのだろう。

とはいうものの、「天変地異が起きたとしても寿司には純米酒でしょう!」とお考えの寿司通の方は多いであろうし、それはまったくもってその通りだと思う。やはりいまだってあの店に行ったら、真夏日だろうと間違いなく純米酒を頼む。それは寿司の旨さを引き出すのはやはり純米酒だと思っているからだ。
ちなみに個人的に好きな寿司とぴったりの日本酒「鶴齢(かくれい)」

ちなみに個人的に好きな寿司とぴったりの日本酒「鶴齢(かくれい)」


だがである、回転寿司となるとこれはもう話は別。長い間、寿司のまがい物のような扱いを受けてきた回転寿司もいまや格段に進化し、寿司とは違った独自の回転寿司文化をしっかりと築いており、「寿司=日本酒」という公式に縛られることない自由度がある。

 

回転寿司とクラフトビールの共通点

そこでふと思う。最近流行りのクラフトビールってなんか回転寿司に似てないか? いや、ほら、回転寿司って寿司の異端児的な扱いを受けてきたけど、独自のアイディアで創作寿司というジャンルを確立させたし(ちなみに昨年行われた「グローバル寿司チャレンジ2015」という創作寿司の世界大会で優勝したのは回転寿司の職人ですよって!)、クラフトビールも「男は黙ってラガービール」みたいな古典ビールファンには認められていなさそうだし、それこそ様々なアイディアと工夫で想像もつかないような面白いビールを次々と開発してきたという歴史がある。
グローバル寿司チャレンジ

「グローバル寿司チャレンジ2015」で優勝した作品(作・地引淳)


ここでちょっと回転寿司とクラフトビールの黒歴史にも触れておこう。

回転寿司の誕生は1958年と古く、全国的に広まっていったのは誕生から20年後のこと。以降、駅前を中心に10席程度の小さな店が主流となっていくのだが、バブル期を迎えると世の風潮には逆らえず「安かろう悪かろう」の代名詞的存在となってしまった。ここで回転寿司は冬の時代を迎えるのだが、80年代後半にグルメ回転寿司が登場したことにより、ふたたび脚光をあびることになる。それまでの回転寿司にはなかったデカネタや華やかな創作寿司にマグロ解体ショーなどのイベントで新たな世界を作りあげたのだ。

かたやクラフトビールは1994年の酒税法の改正によって、日本に誕生することになる。いわゆる地ビールブームの幕開けだ。この頃、猫も杓子も地ビールと言わんばかりに各地の町おこしで地ビールが次々に誕生したが、このブームは長く続かなかった。なにせ町おこしがメインだったためにビールの品質がおろそかとなっていて、さらに観光地価格でやたらと高い。「高くて不味いビール」というレッテルが貼られたことで、地ビールブームはあっけなく終焉を迎えたのである。

しかし、これで終わるようなクラフトビールではなく、酒造技術などの向上により高品質なビールが次々と誕生していくことになる。そして近年ではクラフトビールの世界大会で数々の賞を受賞するなど日本のクラフトビールへの評価は高まってきている。

といったわけで、歴史的背景もなんとなく似てませんか? 業界的なピンチを迎えたものの、努力とアイディアでジャンルとしてしっかりと確立したところなどなど。なんだかクラフトビールにえらく親近感を覚えますね。


回転寿司×クラフトビールのペアリングを体験

そんな回転寿司とクラフトビールがガッチリとタッグを組んだイベントが、2016年7月9日(土)、10日(日)に開催される。この「寿司×クラフトビールフェス」は、回転寿司店3社とクラフトビール7社が参加して、寿司とクラフトビールのペアリングを楽しもうというイベントだ。2016年2月に第1回が開催され、大好評につき、早くも2回目の開催となった。ちなみ監修はクラフトビール界の重鎮・藤原ヒロユキさんと不肖、私、米川伸生が務めさせていただいています。
回転寿司店3社、ブルワリー7社が寿司フェスに参加する

回転寿司店3社、ブルワリー7社が寿司フェスに参加する


会場のSPRING VALLY BREWERY TOKYOはここでクラフトビールの醸造所を兼ねており、できたてのビールも飲める、代官山でも超人気のスポット。平日でも昼からビールを楽しむ人で賑わっている。
SPRING VALLY BREWERY TOKYO(代官山)

SPRING VALLY BREWERY TOKYO(代官山)


このイベントの楽しみ方はいたって単純。それぞれが提供する寿司とビールの最高の組み合わせをいろいろと試してみて、ベストマッチと思う組み合わせに一票を投じるというものだ。回転寿司側が提供する寿司は各店の特徴が生かされたオリジナル創作寿司。各店4種類の寿司を1皿300円で販売する。それぞれが店の特色を生かしたアイディア寿司を披露している。

さっそく各店のおすすめの寿司を紹介していこう!

金沢まいもん寿司

「日本海の宝石食べ比べ」
日本海の宝石食べ比べ(富山白エビ・赤西貝)

日本海の宝石食べ比べ(富山白エビ・赤西貝)

富山湾の宝石と呼ばれる「白エビ」と富山湾のルビーと呼ばれる「赤西貝」の軍艦をとろろ昆布で巻いた洒落た一皿。加賀蓮根の酢漬けがトッピングされており、味のアクセントとなっている。実にまいもんらしい彩りに気を配った一皿である。個人的にはホワイトビールと合わせてみたい。他にも「のど黒炙り」「能登豚ロースト」などALL北陸寿司で勝負!

佐渡前握り ことぶき寿司

「南蛮海老の沖漬け」
南蛮海老の沖漬け

南蛮海老の沖漬け

新潟が誇る南蛮海老(甘エビ)をさらに甘みが際立つ沖漬けにした一皿。沖漬けの南蛮海老は未体験の味わい!これはエール系でもちょっとひねってフルーツ系と合わせても面白いかもしれない。
もなかサンド寿司

もなかサンド寿司

ことぶき寿司は他にも「佐渡銀鮭レモン〆トリュフ乗せ」や「もなかサンド寿司」などユニークな創作寿司を揃えてきた。いやー、作るの大変そうです。

まぐろ問屋 三浦三崎港 恵み

「塩漬けまぐろ・天然まぐろ 二段仕込み醤油仕上げ」
塩漬けまぐろ・天然まぐろundefined二段仕込み醤油仕上げ

塩漬けまぐろ・天然まぐろ 二段仕込み醤油仕上げ

まぐろ問屋自慢の塩漬けまぐろはこの店の完全オリジナル!独自の製法で生み出されたなめらかな食感はまぐろの新境地を引き出したと言っても過言ではない!天然まぐろもかなりの上質でこれで300円とは恐れ入る。いやー、これは黒ビールやラガー系でいきたいですね!

寿司のために開発されたクラフトビールも

それに合わせるクラフトビール陣は16種類。ホワイト系、ラガー系、フルーツ系、ペールエール系などなど。中でも注目はこのフェスのために開発された「鮨祭」(スプリングバレーブルワリー)。
鮨祭(すしまつり)はキリンオンラインショップ「DRINX」でも期間・数量限定発売

鮨祭(すしまつり)はキリンオンラインショップ「DRINX」でも期間・数量限定発売

いや、これ寿司との相性かなりいいっす! さすがキリンが総力を挙げて開発しただけのことはありますね。

他にも柑橘系の「静岡サマーみかんエール」(ベアード)や日本最初のビールを再現した「幸民麦酒」(小西酒造)、白身とばっちりの「スノーブロンシュ」(小西酒造)、コシヒカリを使った「越乃米こしひかり仕込みビール」(スワンレイク)、新鮮果実の味わいのフルーティさがたまらない「僕ビール、君ビール」(ヤッホー)、華やかな香りと鮮烈な苦味が印象的な「TOKYO BLUES」(石川酒造)などなどとにかく個性派のビールが勢ぞろい! こちら小サイズ300円、大サイズ600円でのご提供となります。
7社16種類!クラフトビールの数々

7社16種類!クラフトビールの数々
 

寿司とクラフトビール、ペアリングのコツ

ちなみに寿司とクラフトビールのペアリングを楽しむ際にはどんなことに気をつければ良いのか? 以下、藤原ヒロユキさんの受け売りであるがお伝えしよう。

似た色同士のペアリング
イカや白身などには同じ白色のホワイト系ビールなど

似た風味同士のペアリング
香りの強度レベルが同じもの同士。レモンやゆずがトッピングされた寿司には同じ柑橘系のビール。炙り寿司など濃厚な香りの寿司には強い香りのビールなど。

相乗効果を生み出す究極のペアリング
調味料や出汁の効いた味付けの寿司とラガー系のキレのあるビール。海の幸を存分に味わう寿司にスパイスを加えるようなハーブ系のビールなど。

おぉ、さすが藤原さん、これは試したくなるペアリングだ! 江戸前寿司ではこういう楽しみ方は難しそうだ。やはり、トッピングや洋風感覚など回転寿司ならではの創作があるからこそ、クラフトビールと合うのである。
寿司フェスで提供される寿司

寿司フェスで提供される寿司
 

今回のイベントでは寿司12種類×クラフトビール16種類=合計192種類ものペアリングが楽しめる。上記に挙げたポイントなどを頭の片隅に置いて、いろいろと試してみるのがこのイベントの最大の楽しみ。

「お、マグロに黒ビールって意外に合うんだなぁ」なんて新発見もあるだろうし、偶然発見した奇跡の組み合わせなんてのにも出会えるかもしれない。ただひたすらに飲んで食べて、自分にもっともしっくりくる組み合わせを是非とも発見していただきたい。

回転寿司とクラフトビールのペアリング、いかがでしょうか? 共に似たような境遇を持つもの同士の最強の組み合わせ! これを機に回転寿司店にもクラフトビールブームが来るのを切に願います!


■第2回「寿司×クラフトビールフェス」概要
第2回undefined寿司×クラフトビールフェス

第2回 寿司×クラフトビールフェス

開催日:2016年7月9日(土)11:00~22:00、10日(日)11:00~20:00
開催場所:SPRING VALLY BREWERY TOKYO(代官山)
参加回転寿司店:「金沢まいもん寿司」(石川)、「佐渡前握り ことぶき寿司」(新潟)、「まぐろ問屋 三浦三崎港 恵み」(東京)
参加ブルワリー:石川酒造(東京)、木内酒造(茨城)、小西酒造(兵庫)、スワンレイクビール(新潟)、ベアードブルーイング(静岡)、ヤッホーブルーイング(長野)、スプリングバレーブルワリー(東京)


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