「せたが屋」代表の前島氏に、自称「日本一ラーメンを食べた男」が突撃インタビュー!
「吉野家が、せたが屋を買収!」 ーー2016年6月27日、ラーメン業界を揺るがすニュースが流れました。今年の「ラーメン業界十大ニュース」に間違いなく入るであろうビッグニュース。吉野家ホールディングスが創業者の前島司氏から、66.5%の株式を取得したのである。しかし、どうも誤解している人が多いような気がする。そこで、株式会社せたが屋・代表取締役の前島司氏に突撃インタビューを試みました(インタビュー実施日は2016年7月4日) 。
報道直後、前島氏のFacebook投稿には過去最高の反響!
大崎:あの日(報道が流れた日)以来、大変だったんじゃないですか?前島:そうでもないですよ。みんな騒ぎすぎなんじゃないんですか?(笑)
大崎:いやいや、ラーメン業界ではしばらくこの話で持ちきりでしたよ。
前島:確かに僕もFacebook(以下FB)にこの件を書いたら、過去最高の「いいね!」が付きました。(※7月4日現在「いいね!」647、シェア50、コメント63)
大崎:ニュースで流れて、どんな反応が多かったですか?
前島:見出しだけ見て、誤解している人が多かったですね。だから僕も書いておかないといけないな、とFBに書いたわけです。
大崎:なるほど。では、そのFBを引用しながら話を伺いたいと思います。
前島:よろしくお願いいたします。
「吉野家傘下」という誤解
大崎:やっぱり日本有数の吉野家グループに入るので、その資本力を武器にチェーン展開をしていくんじゃないか?と思った人も多かったようですね。前島:そうですね。でも労働人口が減少し、市場が縮小する中、無理な拡大路線を掲げる事は時代に合ってないですね。厳しい労働環境の中、お客様に受け入れられる「地元密着の出店」が少しづつ出来たら良いな、と逆に考えています。
大崎:今回、多くの人が誤解してしまったのは、「吉野家傘下」なのではなく、「吉野家ホールディングス(以下吉野家HD)傘下」が事実だというところですよね。
前島:そうなんですよ。それは大きな違いです。
大崎:吉野家HDの元に「はなまる」(うどん)があり、「京樽」(寿司)があり、「ステーキのどん」(レストラン)があり、そして「せたが屋」(ラーメン)がある、ということですよね?
前島:組織としてはそうなります。これまでもそうですが、それぞれの業態が融合することは滅多にない。吉野家HDは、長期ビジョンで「競争から共創へ」を掲げていて、今回は資本提携で新たな価値を創造し、国内外での発展を加速させるための提携なんです。だからうちの店で牛丼が出るとか、吉野家でせたが屋のラーメンが出るとか、そういうことはまったくないんです。
大崎:ラーメン好きの中には牛丼好きも多いですから、「同時に食べられたら嬉しい」と思った人も多かったようですね(笑)
前島:それとさらに言わせてもらえば、これまでの「はなまる」「京樽」などの展開モデルとは違う、「こだわり」のブランドであり、戦略的なブランドなんです。
大崎:そう言えば、「吉野家は以前にもラーメンに手を出したことがある」という昔の話も掘り起こされていました。
前島:以前のM&Aケースとは戦略的に異なると思います。今回資本提携の目的の一つに「グローバル戦略」があるからです。せたが屋はその際のキラーコンテンツになります。
大崎:それはどういうことでしょうか?
前島:吉野家が海外進出する際に「牛丼」だけより、いま世界中で注目の「ラーメン」という武器があることによって、アライアンスに乗りやすくなるのです。日本で人気のブランドな訳ですから強みもあります。
国内は「せたが屋」主導でこれまで通り、僕が舵を切り、吉野家のリソースを活用しながら展開していきます。しかし、海外では組織力をフル活用して、ASEAN、欧米などに積極的に展開することも考えています。
せたが屋の経営が苦しいわけではない!
大崎:ネットニュースで流れたのが「吉野家が、せたが屋を買収!」というネット特有の短めのタイトルだったので、誤解も多かったようですね。「せたが屋って、そんなに経営が厳しかったのか?」と思った人も少なくないはず。前島:「せたが屋」は創業以来15年間、売り上げ昨対を割り込んだことはないんですよ。緩やかですが右肩上がりで成長してきました。今回の資本提携は、グローバル展開や、ガバナンス強化、労務改善による従業員満足度を上げ、これからの環境の中で生き残れる強い会社にするためなんです。
大崎:いつ頃からそういうことを考えていたんでしょうか?
前島:これまで「モノづくり」として15年間やってこられましたが、今まで、あるいはこの先、僕自身が経営者としてどうなのか?と考えた時にいろいろ悩みました。今までは自分の好き勝手にやってきたことも多かった。しかし、社員も増え、もちろんその家族も含めて守らなければならない。会社も大きくしていかねばならない。そろそろ組織としてもっとしっかり固めていかなきゃダメだな、と思い始めていました。
僕自身もどこか資本提携してくれるところを探していましたし、ラーメン屋とのM&Aを考えている企業は近年増えていると思います。企業が新しくラーメンの業態を開発してもリスクが高いですからね。ストーリーの出来上がっているラーメン屋を買ったほうが賢明なのです。M&Aとは時間を買うということなのです。
大崎:そうなんですね。話し合いを始めてからどれくらいで契約に至ったのでしょう?
前島:1年ぐらいですかね。事務的にはいろいろ大変でしたが、特にお互いの意見が相違する事なく、順調に契約を結ぶことができました。
大崎:本当に今後はラーメン業界でもこういうことは増えていくのでしょうか?
前島:経営者次第だと思いますが、売り手側、買い手側にとっての経営手段として増えていくと思いますね。ラーメンをやる人にとっては夢や目標にもなりますからね。
大崎:「バイアウト」という言葉がありますが。
前島:ネットでそう言ってる人もいましたが、今回はまったく意味合いが違います。あくまでも「共創」、共に創り共に伸びていく、そういう資本提携です。
今後のせたが屋はどこへ向かう?
大崎:資本提携によって、これまでの「せたが屋」のラーメンクオリティや店の雰囲気も変わったりするのか?というのを心配したファンもいたようですね。前島:牛丼チェーンの吉野家というイメージが強いですが、吉野家HDという立派な上場企業です。牛丼とラーメンを同じセグメントだとは思ってないし、こだわりのあるラーメン屋を下手に弄ったらどうなるかの判断は持っています。僕もそれは望みません。自分の意見も言えるようにと33.5%の株式を保有しています。
大崎:なるほど。深く考えてらっしゃるんですね。ところで、前島さんからカタカナ用語がたくさん出てくるのが意外なんですが……。
前島:昨年ビジネススクールに通い、MBA(経営学修士)を取得した際の影響ですかね(笑)。マーケティングや戦略、市場環境などを勉強した事が、今回の決断にもつながっているんです。
前島氏から次々と出てくるカタカナ用語とせたが屋の成長戦略
前島:食材の調達とか、スケールメリットが出てきますね。それと人材採用には大きな変化が出ると思っています。「せたが屋」で募集をした時と「吉野家グループのせたが屋」で募集した時と、そのバックボーンは大きく違います。
大崎:なるほど、WinWinですね。前島さんが社長を交替することはあるのでしょうか?
前島:私は最低でもあと5年はやりますよ。そのあと、できたら生え抜きに社長を譲って、僕は独立し、自分の好きなラーメンを作れる店の厨房に立ちたい。そんな夢を持っています。
大崎:後継者と言えば、息子さんはいらっしゃいました?
前島:うちは女性ばかりなんですが、ファミリービジネスではないし、私が引退してもずっと続いて欲しいので、後継者については考えていきます。できたら社員から出したいので頑張って欲しいですね。そのためにも強い組織にして環境も整えていきたいと思って、今回の提携に至りました。
大崎:提携によって、他に変わることは?
前島:しばりはなく、事務所もこのまま継続です。私へのプレッシャーは強くなると思いますが、当面は今まで通りお客様のために美味しいラーメンを作る事、「せたが屋」のブランドを守る事に専念していきます。
大崎:いろいろとモヤモヤしたものがすっきりしました。お忙しいところ、ありがとうございました。
前島:ありがとうございました。
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