交際をして謝礼をもらう女性たちの心理とは
愛人バンク、援助交際、デートクラブ、出会い系……呼び名は変わるが、「謝礼をもらって交際する女性たち」はいつの時代にもいるようだ。
ちなみに、「援助交際」の業者が初めて摘発されたのは、1994年。現在40歳になる女性が18歳のときだから、まさに彼女たちの青春時代に、「援助交際」という言葉が定着したのだ。その価値観が、いまだに女性たちに根づいているのだろうか。とはいえ、私が大学生のときには、「愛人バンク」がまさに流行中だった。実際、苦学生だった知人が愛人バンクに登録していたこともある。
自分に「商品価値がある」なら、それに乗ってしまおうと思う女性は、年齢問わず、いつの時代にもいるのかもしれない。
「まだ“売れる”女だった」という安堵感があった
セックスレスになり、自分はオンナとして価値がない……そう思っていたときに誘われた。
「あるとき、刺繍教室の帰りに、夕飯は何にしようかなと思いながらデパ地下を歩いていたんです。そんなとき、同世代の男性に声をかけられて。いつもならそんなことしないのに、誘われるままに一緒にお茶を飲みました。男性とふたりきりでカフェでお茶をするなんて、何十年ぶりか。彼がけっこう素敵な人だったので、少し舞い上がっていたんでしょうね」
もう少し一緒にいたい、あなたのような素敵な人とふたりきりになりたい。男にそう囁かれて、アヤノさんは全身から力が抜け、頭がぼうっとした。
「気づいたらホテルにいました。こんなことしてはいけないと思ったけど、彼があまりに優しく扱ってくれるので、どうしても拒めなかった。ずっと素敵だ魅力的だと言われ続けて、いい気持ちになってしまったのも事実です。何年ぶりかわからないくらい久しぶりで怖かったけど、彼のテクニックが巧みだったんでしょうね。身体がものすごく反応してしまいました」
終わったあと、快感の余韻で猛烈に身体がだるくなり、睡魔が襲ってきた。うとうとしたらしい。はっと気づくと、彼の姿はなかった。サイドテーブルに彼の携帯メールが書かれたメモと、1万円札が2枚置いてあった。
「何のお金だろうとお札を手にとって、自分につけられた代金だとわかりました。私は自分を売ったのかと愕然としましたが、正直言って、それほどイヤな気分にはならなかった。一緒にいたあの時間が2万円というよりは、私自身が2万円なのだと思った。それでも不思議と嫌悪感はなかったんです。日頃、自分にはまったく価値がないと思っていたせいかもしれません」
ただ、そのことでアヤノさんの気持ちが切り替わった。
「人に言ったら、軽蔑されるかもしれないけど……誤解を恐れずに言えば、2万円が高いとか安いとかいうことではなく、私もまだ売れる女だったんだという安堵感があったんですよね。パートをしているから、2万円を稼ぐのは大変だとわかっている。自分についたその値段を大事にしようと思いました」
アヤノさんは、それ以来、パートに精を出し、子どもたちに精一杯の愛情を注ぐようになった。いや、そうするように努めているというべきかもしれない。
「夫とは相変わらずセックスレスですが、心の中で、いざとなれば私にお金を出す男もいると思える。これは生きていく力になります。何かが間違っているのはわかってる。それでも、そう思えば前向きになれるのだから、いいと思っています、私は」
アヤノさんの気持ちがまっすぐに伝わってくる。いけないと非難するのは簡単だが、そんなことはできない。その一件で彼女はある意味でよみがえったのだから。
謝礼をもらうことで、ドライに割り切れる
謝礼が介在することで、「かえって割り切った関係」になれるという女性もいた。
「一時期、出会い系にはまっていたことがあるんです」
そう話し始めたのは、マキコさん(41歳)だ。結婚したのは30歳のとき。ずっと仕事をしていこうと思っていたが、32歳のときに産まれたひとり娘の体が弱く、会社を辞めざるをえなかった。
「なにより大事なのは娘だったから、自分では納得して仕事を辞めたつもりだった。でも、今はすっかり丈夫になった娘を見ていると、あのとき他に方法はなかったんだろうかと、つい後ろ向きに考えてしまうんですよね。今はパートをしています。夫とも仲が悪いわけじゃないけど、もうすっかり“家族”ですね、男女ではない」
そんな時、パート先の友だちに、「ここなら安心」という出会い系を勧められた。そこで知り合った人と会ってホテルへ行った。見ず知らずの人とスポーツ感覚で交われる自分に驚いた。
「帰り際に、彼が『今日はありがとう』と3万円出したんです。びっくりしたけど、つい手が出てもらってしまったんですよね」
そこで謝礼を受け取った自分に、さらに驚愕したという。
「それまでは、男の人とセックスするのは、イコール恋愛だと思っていたんです。でも、私の心はそういう動きはしなかった。それならば単純にお礼としてお金をもらうのもアリなのかな、と。彼は私と楽しく過ごしたことに対してお礼をした。だったら、私も受け取ったほうが関係がドライでいいじゃないですか」
その彼とはもう一度だけ会った。その後も、他の出会い系で会った人や、その人から紹介された人などにときどき会うという。
「よくわからないけど、みんなお金をくれるんですよね。私からほしいと言ったことはありません。人妻との火遊びにうしろめたさがあるのかもしれないし、相手もお金を払うことで割り切れているところがあるのかもしれない。2万とか3万とかばらつきはありますが、私はいくらでもいいんです。謝礼が介在することで、恋愛だという後ろめたさがなくなる」
マキコさんは、前述のアヤノさんと違い、自分の価値がどうかということは考えない。一緒に楽しんで、それに対して払うというからもらう。それだけにとどめている。それ以上考えると、自分の気持ちがややこしくなるからだ。
「いいとか悪いとかも考えない。そういえば昔、援交が流行っていたけど、私はまったく興味がありませんでしたね。私の周りでもやっている人はいなかった。友だちの友だちが補導されたというのは聞いたことがありますけど」
援助交際と謝礼交際を、マキコさんは全く別のものだと考えている。しかし、ふと思い出したように、こう言った。
「……会社を辞めたとき、私、ものすごく落ち込んだんです。自分を夫に売り渡したような気持ちになった。生活のめんどうを見てもらう代わりに、セックスその他を提供するのが結婚なのかと考えて、愕然としたこともある。何かと引き替えというなら、こういう行為も同じですよね……。考えると闇に落ちるからやめますけど」
ただ、とマキコさんは突然、真顔になった。
「娘が高校生になって援交したら、私は激怒すると思います。勝手ですよね、私。でも、そろそろやめるつもりでいます。刺激はあったけど、その刺激に慣れて惰性になりつつあるから」
数年後、彼女は今の自分を振り返ってどう思うのだろうか。
▼関連記事
・W不倫の末の離婚・妊娠。経験者の男たちは……