祝福されない恋への「落とし前」のつけ方
恥ずかしい恋愛、つらい恋愛でも、過去は変えられない……どう落とし前をつけるか。
生きていれば、人間、ひとつやふたつ、誰にも言えない恥ずかしい過去くらいあるもの。
恋愛だって、今思えば、「どうしてあんなことしてしまったんだろう」という情けなさや、「好きになってはいけない人」を好きになった、かっこわるい顛末だってなくはない。多くの人はそういうことを抱えながら、その後の人生を歩んでいるのだ。
恋愛は、最後は自分との勝負。人には言えない、世間では祝福されない恋に対して、どうやって自分で落とし前をつけていくかが、その後のその人の人生にとって大きな意味をなすのではないだろうか。
不倫の恋をひきずってしまう女性と、意識を変えて次へのステップとしていく女性、それぞれの考え方はどう違うのだろう。
相手への恨みつらみで、がんじがらめに……
別れてもなお、怒りがおさまらない。
「同じ会社の元上司と4年つきあってきたんです。途中で彼が支社に転勤になったんですが、それからも関係は変わらなかった。彼と奥さんの関係はわからないけど、心のどこかでもうバレないものだと油断していたところはあります」
妻からの連絡にびっくりしたが、クミさんは「元上司と部下、ただの友人関係です」とシラを切った。ところが彼のほうは、妻に問い詰められてすべて白状してしまったらしい。
「そのとき思ったんですよね。彼に裏切られた、と。この関係は、彼と私の秘密の共有だったはず。だけど、彼は秘密を秘密のまま守ろうとしなかった。奥さんにバレて申し訳ないというよりは、彼の裏切りに呆然としました」
弁護士を通して、彼の奥さんから慰謝料を請求された。彼女も弁護士をたてたが、結局、話し合いの末、彼女は150万円を支払ったという。その間、数ヶ月。彼女は何度か彼の携帯に連絡をとったが、まったくつながらず、メールひとつくれなかった。
「どうして私だけがこんなひどい目にあわなければいけないのか、彼にはまったく罪がないのか。それ以来、怒りと悲しさで眠れなくなり、この半年あまりは病院に通う日々です。こっちこそ慰謝料をもらいたいくらい。大人同士の恋愛なのに、なぜ私だけが罰を受けるのか、どうしても納得できない。彼はぬくぬくと今まで通り暮らしているわけですよね」
今も彼女の怒りはおさまっていない。
「いつか復讐してやる。彼の社会的信用を失墜させてやる。そう思っています」
クミさんの目は充血していた。いつもキリキリしていると本人が言うとおり、年齢のわりには眉間の縦皺が深くなっていた。
悔しいけれど、すっきりした気分で前へ
踏み込まれ、裏切られ、退職に追いやられ……つらい落とし前をつけさせられたが……。
こちらは仕事関係で知り合った5歳年上の男性と、6年に渡って関係をもっていた。疑いをもった彼の妻に、彼と一緒にいるアパートに踏み込まれた。
「どうやら奥さんが、会社から私のところへ来る彼を尾行したらしいです。探偵さんもびっくりですよね。彼は慌てふためいて、私のところで着ていたジャージのまま帰ろうとして、奥さんに怒鳴りつけられていました。私にはゴメンの一言もなし。裏切られた、と思いました」
その後、彼の妻がコユキさんの会社に連絡、すべて暴露した。コユキさんは責任をとる形で退職を迫られた。
「最初は絶対に辞めないと決めていたんですが、同業他社から誘いがあって、結局、転職しました。今の会社は小さいところで、私の上司も理解があって、『人間、失敗から学ぶことはたくさんあるよ』と慰めてくれたりして。拾ってもらったので、仕事で恩返ししようと、一生懸命働いています」
彼の妻から電話がやたらかかってくるので、彼女は携帯電話の番号を変え、引っ越しもした。
「何もかも新しくやり直したかった。奥さんには悪いと思っていますが、いきなり踏み込まれたときのショックは大きかった。それも含めて、もう過去は振り返らないと決めたんです。たまにあのときの奥さんが夢に出てきてうなされたりしますけど、それだけ奥さんもつらかったんだと思うし……」
コユキさんはつらそうな表情を一瞬、見せたが、すぐにきりっとした顔になった。
「結局ね、誰かを責めるのは筋が違うと思ったんです。彼も奥さんも、もちろん私自身も責めるのは、今はやめよう、と」
今はまだ、あの件を振り返る気にはなれないとコユキさんはいう。
「今は自分がひたすら前に進んで、あの件から離れたいんです。距離が大きくなったときに初めて振り返ることができるような気がするから」
自分がその場から遠く離れてしまえば、振り返ったときに事件は小さく見えるだろう。自分が招いたことではあっても、傷が生々しいうちはそっとしておいたほうがいいのかもしれない。
人を傷つけ、自分も傷ついても、立ち上がれる
逃げてもいい、走り出してもいい。
それでも、同じ場所にとどまって固い表情でいるクミさんよりも、今は何も考えずに前へと走り出してしまったコユキさん。どちらが魅力的かといえば、やはり後者のコユキさんだった。
人間、いけないとわかっていても恋に落ちてしまうことがある。それが思わぬ波紋を呼んで、人を傷つけ、自分も傷つくこともある。だが、そこからでも立ち上がることはできるのだ。前へ進もうという気持ちさえあれば。