エキシビションの曲は、『A Destiny.』。ヴァイオリンの音が美しい荘厳で奥行きのあるこの曲で、ハン・ヤン選手は男子選手としての内面の深まりを感じさせています。
日本人ヴァイオリニスト相知明日香さん作曲のオリジナル曲
この『A Destiny.』、実はハン・ヤン選手のためにつくられたオリジナル曲。しかも作曲したのは、日本人ヴァイオリニストの相知明日香さんです。共通の知人を介して知り合ったのち、ハン・ヤン選手が相知さんに直接、オリジナル曲を作ってほしいと依頼したそうです。今回、『A Destiny.』について、相知さんにお話をうかがいました。
「ハン・ヤン選手から、sadでpassionな曲を作ってほしいという依頼がありました。sadと一言でいってもいろいろなものがありますよね。ただ悲しいのか、恋愛のsadなのか、とか、彼の中にあるイメージを曲にするように、何度も何度もやりとりしました。イメージだけではなくて、『ここにジャンプを入れたい』とか『ここにイーグルを入れたい』とか、曲と技との配分などについても話して。って言っても、お互いに日本語や中国語ができないので、主にメールを介して英語でです。4月下旬にお話をいただいたんですけど、5月にはもう振付けをするので曲が必要だということで、結構スピーディな作業になりました。だから、曲をつくることになってからできあがるまで、彼には一度も会わないままでしたね。
曲をつくる前には彼の演技の動画をたくさん見ましたし、フィギュアスケートをやっている友人たちにも話を聞きました。ある日お台場にいた時にふとメロディが頭の中に浮かんできたので、慌てて五線譜アプリをダウンロードして、その場で書き留めました(笑)。ハン・ヤン選手とやりとりして何度も修正して最終的にできあがった曲を聴いてみたときに、壮大な曲になったなあと思ったんですね(笑)。それで、『A Destiny.』(運命)というタイトルをつけました」
ハン・ヤン選手に『A Destiny.』の感想をうかがうと、「愛にあふれた音楽で、この曲によって、僕の表現が高まると感じます」とのことでした。
ハン・ヤン選手の思いを感じさせるエキシビション
ハン・ヤン選手のエキシビションを見てみると、中盤に長くイーグルを用いていることに気づかされます。アウトエッジに長く乗ってからインサイドエッジに切り変えてイナ・バウアーに移っていくのですが、とても叙情的。また、一瞬無音になる部分があるのですが、ここでヤン選手は3回転フリップを跳んでいます。フリップは、踏み切り直前に前向きから後ろ向きに身体を半回転させるので、一瞬の無音とその半回転からの3回転フリップがとてもドラマティックに響き合います。
コミカルな演技をたくさん見せているハン・ヤン背選手ですが、自分で振付けたというこのプログラムを見ると、彼は今、静かにドラマティックな、こういったプログラムを滑りたいのかもしれない、と感じさせられました。
スケートアメリカの演技を映像で見たあと相知さんは、11月の中国杯は実際に北京に赴いたそうです。ハン・ヤン選手は3位となり、エキシビションに登場しました。
「首都体育館のような大きな会場で自分の曲が流れるのを聴くのも初めてだったし、しかもその曲でスケーターが滑ってくれるのももちろん初めて。とても感動しました。これまで作曲はほとんどしたことがないですけど、これからもスケートの曲を作ってみたいですね。スケートが音楽に合わせるのではなくて、音楽の方がスケートに寄り添えればいいなと思っています」
ハン・ヤン選手は、いくつかのエキシビションナンバーを準備しているようですが、彼の流れるようなスケーティングとヴァイオリンのメロディがとても美しくマッチする『A Destiny.』は、今日から始まる世界選手権のエキシビションでも見られるかもしれません。