スーパースターにのみ許されたシーズン前の引退発表
最近ではヤンキースのデレク・ジーターがそうだった。少し遡れば、オリオールズのカル・リプケンJr.がそう。シーズンが始まる前に今季限りでの引退を発表。そうすることによって、オープン戦からレギュラーシーズンまでの全てが“引退興行”となり、選手もファンも別れを告げることができるのだ。もちろん、こんなことが許されるのは、前述した通り、球団にもMLBにも多大な貢献をした“スーパースター”だけなのだ。
ヤンキースのアレックス・ロドリゲス内野手(40)が、チームとの10年総額2億7500万ドル(約301億円)契約が満了となる2017年シーズン終了後に現役を引退する意向を表明した。
「私は再来年プレーしないだろう。自分の時間を本当に楽しんだ。家に帰って父親になる時間が来たんだ」
21シーズンを振り返って、もっとも楽しめた2年間とは
A・ロッドがスーパースターであることに間違いはない。その点、シーズン前に引退を表明することに何の問題もないだろう。しかしながら、今季限りならいざ知らず、契約が満了となる来季限りでの引退を発表するのは異例の事態だ。このへんが“お騒がせ男”の面目躍如といっていい。メジャー通算3070安打(歴代21位)、2055打点(同4位)、687本塁打(同4位)を記録。ベーブ・ルースのメジャー通算本塁打記録(714本)を抜くまで残り28本、メジャー歴代トップのバリー・ボンズの本塁打記録(762本)を更新するまで76本だ。様々な大記録を打ち立てているのに、常に薬物疑惑が取り沙汰されていたために、近年のヤンキースタジアムでは、声援とブーイングが交錯していた。ついに2014年シーズンは薬物規定違反で1年間の出場停止処分を受けた。しかしながら、2015年シーズンは、打率.250、33本塁打、86打点と復活し、プレーオフ進出の原動力になり、模範的言動もあってファンの信頼を取り戻した感がある。
A・ロッドは昨年までのメジャー通算21シーズンを振り返ってこう言う。
「本当に楽しかった。時に試練もあったが、実り多き経験でもあった。グリフィーとプレーし首位打者を手にした19歳の時と、40歳の去年が一番楽しめた2年間だった。40歳と19歳、このコントラストが信じられないよ」
首位打者1回、本塁打王5回、打点王2回、ゴールドグラブ賞2回。そして、キャリア通算年俸4億ドルオーバーは、アメリカ人のアスリート史上初というA・ロッド。“お騒がせ男”が改心し、有終の美を飾ろうとする2年間は、どんな爆発力を見せるのか。そのバットに全米中が注目する。