雑貨/ハンドクラフト・工芸

青森の工芸を味わえる「星野リゾート 青森屋」の魅力

青森県三沢にある「星野リゾート 青森屋」は、青森らしいおもてなしが館内全体にふんだんに散りばめられています。温泉、ショー、公園散策など様々なジャンルのお楽しみがあって一日ではとても全て体験しきれないくらいなのですが、今回は、主にお部屋に使われている青森の工芸品に注目してみました。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド


馬車にのって広い敷地内をのんびりお散歩。

馬車にのって広い敷地内をのんびりお散歩。

 
渋沢栄一の住居。和洋折衷のユニークな建物です。公開に向けて準備中。

渋沢栄一の住居。和洋折衷のユニークな建物です。公開に向けて準備中。


「星野リゾート 青森屋」があるのは青森県三沢市。地図で見たら太平洋側の、斧みたいになっている部分の付け根の辺り(と言ったら分かるでしょうか?)が三沢市です。新幹線に乗ったら八戸で降り、青い森鉄道に乗り換えて4つ目が三沢駅(八戸駅や青森空港から無料送迎バスもあります)。約22万坪という広大な敷地にある「星野リゾート 青森屋」には、季節の野菜を育てている農園や、馬との触れ合いが楽しめる牧場、明治から昭和にかけて経済界のトップと言われた渋沢栄一(NHKの連ドラ「あさが来た」でも三宅裕司さんが演じています)の私邸、全国有数の馬の産地だったこの地方特有の馬屋と住居が一体となった古民家「南部曲屋」などなど、様々な見どころやお楽しみ要素が点在しています。正直なところ、広過ぎてとても一日で全部は回りきれません。敷地内をのんびり散策できるよう、馬車も用意されているほどです。さらに館内では、ねぶた祭りや津軽三味線のショーがあり、浴衣に着替えて祭りの縁日のようなアトラクションが盛りだくさんです。この辺をご紹介すると、本当にたくさんありすぎて、たぶん納まり切らないので、今回は、青森の工芸品やインテリアに絞って、ご紹介したいと思います。

囲炉裏をモチーフにしつつ、モダンな空間のラウンジ。

囲炉裏をモチーフにした、モダンな空間のラウンジ。

青森県のかたちをしたテーブル。

青森県のかたちをしたテーブル。

フロント前の寛ぎスペース。南部裂織の座布団が置かれています。

フロント前の寛ぎスペース。南部裂織の座布団が置かれています。


まず玄関入ってすぐのフロントやラウンジスペース。和を意識しつつも、とてもモダンで落ち着いた印象です。フロントを進んだ奥は「囲炉裏ラウンジ」と名付けられ、自由に寛げるスペースになっています。青森県のかたちをしたテーブルもあったりして、ちょっとユニーク。
写真に見えるカラフルな模様入りの座布団は、「南部裂織」というこの地方ならではの織物。江戸時代まで綿はなかなか手に入らない貴重な素材で、布や糸といったら麻が主流でした。温かい素材だった綿は端布まで大切にされ、最後には裂いて、織り込まれて使われたのです。だんだん時代が豊かになるとカラフルなものが作られるようになり、明治後半から青森の南部地方では裂織が女性達の間で盛んに作られました。現在は保存会が伝統的な技法を継承し、様々な織物が作られています。朝食を食べた時も、この南部裂織のマットが使われていました。手作りなのでひとつ一つに違った表情があり、味わいが感じられます。


お部屋では、青森の様々な工芸品と触れ合える

部屋の様子。ベッドの後ろの障子はねぶたの技法で作られています。

部屋の様子。ベッドの後ろの障子はねぶたの技法で作られています。


さて、ではいよいよ部屋のインテリアをご紹介します。
壁に使われている「ねぶた障子」は、ねぶた祭りで実際に絵を描いているねぶた師、竹浪比呂央さんが描いた作品。青森市には「竹浪比呂央ねぶた研究所」があります。研究所はアトリエになっており、見学することも可能。私が訪ねたときは、冬のイベントで使うという雪だるま型の灯りを作っていました。伝統的なねぶたはもちろん、モダンなアート作品のようなものも多く手掛けています。

こちらもねぶたの技法を用いた灯り。竹浪比呂央さんの「KAKERA」。

こちらもねぶたの技法を用いた灯り。竹浪比呂央さんの「KAKERA」。


ベッドサイドに置かれているランプも同じく竹浪比呂央さんの作品「KAKERA」。実際に運行したねぶた祭りの山車の和紙が使われています。ねぶた祭りは、終わってしまったら全部壊してしまうので、そのときに和紙部分を取っておいて再利用するそうです。ひとつひとつ絵柄が全て違うのも特徴的。構造自体も、ねぶたの制作技法に基づいて作られています。

こぎん刺しのベッドライナー。

こぎん刺しのベッドライナー。


ベッドの布団の上に掛けられたライナーは、「こぎん刺し」。江戸時代の頃から始まった、津軽地方に伝わる刺し子の技法です。南部裂織と同様に、津軽地方でも昔は綿が貴重だったため、藍に染めた麻布に、綿の糸を刺して、布の補強と防寒に役立てていました。それはいつしか女性たちの楽しみとなり、ひし形をベースとした多くの模様が作られました。地域によって刺し方に特徴があり、西こぎん、東こぎん、三縞こぎんの主に3種類に分けられます。模様のことは「モドコ」と呼ばれ、(魚の)ウロコ、猫の足、テコナ(蝶々)など自然の身近なものがモチーフとなっていることも多く、様々な種類があります。モドコを組み合せることで連続模様を作ることができ、その組み合せは無限にあります。現在は、色や素材も幅広くカラフルになり、北欧やメキシコを思わせるような色使いもあって、表情豊かなこぎん刺しが作られています。弘前には「弘前こぎん研究所」があり、伝統的こぎん刺しの保存と継承に努めています。

南部裂織のベッドライナー。

南部裂織のベッドライナー。


こぎん刺しの説明が長くなってしまいましたが、部屋によっては南部裂織を使っているところもありました。他に、「あおもり藍」という藍染めを使っている部屋もあります。

BUNACOのライト。

BUNACOのライト。木目の模様がきれいです。

BUNACOのティッシュケース。

BUNACOのティッシュケース。グッドデザイン賞を受賞。


ベッドサイドにあるフロアランプは「BUNACO(ブナコ)」と呼ばれる、特殊加工された薄いブナの木でできたもの。青森はブナ林が多く、日本一の蓄積量を誇ります。ブナの木をかつら剥きのような要領で約1mmに薄くスライスし、テープ状にカットしたものを巻き重ねることで、様々なかたちに成形していきます。作業は職人の手作りで、従来の技術ではできなかったかたちを表現することもできるそうです。木の自然で柔らかな質感を持ちながら、モダンでスタイリッシュな印象を与えます。普通の木素材で起こりがちな割れや歪みがなく、耐水性もあるので、お手入れも簡単です。ティッシュケースもブナコで、こちらは2009年にグッドデザイン賞を受賞しています。

津軽びいどろのフラワーベース。艶やかな色合い。

津軽びいどろのフラワーベース。艶やかな色合い。


幻想的なデザインのこのガラス器は、「津軽びいどろ」。宙吹きガラスのハンドメイドです。この模様は確か、弘前城の桜を表現していたかと。他にねぶた祭りを表現した鮮やかな色使いのものなども作っています。青森市に大きな工房があり、轟々燃えさかる炉を囲んで職人達が黙々とガラス作りの作業をしています。初めて訪れた時、その職人達のきびきびと無駄のないリズミカルな動きに感動しました。耐熱ガラスの宙吹きをすることや、ガラスの色が100色あることなど、他の工房ではできないような技術を多く持っており、日本で一番技術力の高い工房ではないかと思います。

八幡馬。赤と黒のセットで。

八幡馬。赤と黒のセットで。


部屋に飾られている「八幡馬(やわたうま)」は、八戸を中心に南部地方で愛されている郷土玩具。歴史は古く、700~750年前に京方面から旅して流れ着いた木工師が、余暇に作っていた木彫りの馬がルーツといわれています。やがて近隣の農民達に伝わり、農閑期の副業として作られるようになりました。南部一の宮「櫛引八幡宮(くしびきはちまんぐう)」のお祭りで参拝者にお土産として売られるようになります。境内では、かつて流鏑馬(やぶさめ)の技を競うような儀式もあったそうです。(この神社を訪ねると、鳥居の横に大きな石造りの八幡馬があります。)子供達の玩具として親しまれていましたが、今日では結婚、卒業、出産などの縁起の良いお祝い品として贈られ、白地にピンクやブルーなど、モダンでユニークなデザインのものも作られています。八戸にある観光・交流複合施設「八戸ポータルミュージアム はっち」へ行くと、入り口には200頭を超えるたくさんの八幡馬が並んでいて、圧巻の見応えです。

八戸焼の茶器セット。

八戸焼の茶器セット。


部屋でお茶を飲むときに利用できる茶器は「八戸焼」です。この窯元、私もここへ来るまで知らなかったのですが、江戸時代末期頃まで、八戸市内の蟹沢山中で焼き物が作られていたそうです。八戸焼は一旦途絶えてしまった幻の焼き物なのですが、昭和50年に窯元初代・渡辺昭山氏によって再興されました。渡辺氏は元々佐渡の窯元の長男で、小山富士夫著の「江戸時代の日本の諸窯」をはじめとする数冊の著書によって八戸焼の存在を知り、調査を進めていました。八戸で窯を開業した年に偶然窯跡を見つけ、そこで出土された陶片などを参考に、独自の八戸焼を作り上げたそうです。緑色の釉薬は、青森の自然のブナ林、また三陸の海草の色とも称されます。青森屋では、オリジナルで作ってもらった、りんごをイメージした薄いピンク色の「りんご型」の器もあります。

(※全ての部屋が同じではないので、部屋によって装飾は様々です。)


青森の工芸品を手作り体験

1Fの廊下には、りんごのねぶたがずらりと下がってお祭り気分。

1Fの廊下には、りんごのねぶたがずらりと下がってお祭り気分。

津軽塗の箸を研ぎ出して作ります。

津軽塗の箸を研ぎ出して作ります。


さて、館内1Fにある「あおもり工房~かだるべ~」では、青森の様々な工芸品作りを体験することができます。季節によって作るものが変わりますが、私が訪ねたときは、津軽塗の箸と金魚ねぷた作りの体験ができました。津軽塗は弘前を中心に作られている漆器で、江戸時代中期頃から作られていたようです。この時期は政情が安定し、全国各地で地域産業が保護され、美術、工芸が発展した時期でもありました。津軽塗の特徴は堅牢で実用性に富むことと同時に、優美な模様を持つこと。「研ぎ出し変わり塗り」という技法で、幾重にも塗り重ねられた漆を平滑に研ぎ出し、複雑で美しい模様を表現します。体験できるのはこの研ぎ出し作業で、漆器作りの全工程の中ではほんの一部の体験ですが、研磨紙でひたすら研ぐのはなかなか繊細で大変な作業です。模様がきれいに浮き上がってきたときには達成感があります。最後はプロの職人が仕上げて、後日郵送してくれます。

金魚ねぶた作り。色を塗る作業。

金魚ねぷた作り。色を塗る作業。

完成しました。

完成しました。


金魚ねぷたは、現在ねぶた祭りなどで作られる巨大なねぶたの原型ともいえる、提灯くらいの小さなものです。幻の金魚「津軽錦」をモチーフとしているという説があり、この金魚は「幸福をもたらす金魚」として昔から親しまれていたそうです。ウロコや顔を塗る作業を体験できるのですが、塗り方に特徴があり、ウロコ部分はじわっと滲ませてグラデーション状にします。なかなかコツがいりますが、慣れてくると楽しくなってきます。難しいところは既に絵付けされているので、初心者でもあまり失敗せずに体験できます。できあがった金魚はちょっとすっとぼけた顔をしていて、なかなか可愛いです。

このように、青森の工芸品は本当に魅力的なものが多く、それぞれ時代は違っても、その背景はしっかりと生活に根ざしたものが多いようです。そのせいか、ホテルのようなちょっと特別感のある空間でも、普段の家の中でも、どちらにも違和感なく馴染むように思います。ホテルに宿泊することで、青森の工芸文化に少しでも触れることができ、興味を持つきっかけを与えてもらえるのは、とても嬉しい試みだと思いました。こちらへ泊まった時は、お部屋のインテリアにもぜひ目を向けてみて下さい。


撮影:川しまゆうこ(一部江澤)

星野リゾート 青森屋
青森県三沢市字古間木山56
TEL 050-3786-0022(8:00~21:00)
http://noresoreaomoriya.jp/
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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