亀山早苗の恋愛コラム/連載:アラフォーの“傷跡”

「正しくないと気がすまない」41歳女性が抱える爆弾

家庭でも会社でも、周りの人たちのいいかげんさにイライラが募らせてしまい、軋轢を生んでしまう40代女性。「正しい」ことが必ずしも支持されるとは限らない多様な価値観の世の中、彼女のような人はどう考えるのか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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アラフォーの“傷跡” 大人になっても生きづらい私たち第7回

――アラフォー世代の女性たちが背負ってきた人生や悩みを話してもらうノンフィクション連載。女性ヴァイオリニストの過激な子育て論が大炎上したのが記憶に新しいが、「正しいものは正しい」と白黒をつけるためには人間関係の破綻も厭わない人もいる。
大人になっても生きづらい、今回の理由は?

大人になっても生きづらい、今回の理由は?

今回、話を聞いたのは、会社員のマユさん(41歳)。彼女は、会社でも家でも、いつも周りにイライラさせられていると語る。

「きちんとしないと気がすまない」というのは立派なことだが、それを人に押しつけると、とたんにうっとうしがられる。だが、本人は、「よかれと思って言っているのに、どうして人に嫌われなければならないのか」とイライラを募らせていく。

いいかげんでも生きづらい、きちんとしていても生きづらい。どうしたって生きづらい世の中なら、あまり肩に力を入れすぎなくてもいいのでは、と思ってしまうのだが……。

母と妹は、「身勝手で、家事もできないいいかげんな人間」

――マユさんは、実家にお住まいなんですよね。

マユ:ええ。5年前に父が亡くなって、今は母と妹と3人で住んでいます。妹は1回結婚したんだけど、3年足らずで戻ってきまして。片づけひとつできないから、離婚されて当然なんですけどね。

――辛辣ですね。

マユ:母も妹もいいかげんなんですよ。家ではいつも私が怒っている状態。

――いいかげんって、どういうふうに……?

マユ:私は仕事が忙しいので、基本的に家事は母がやっているんですが、家の中は片付いていないし、最近、体がきついからと料理もろくにしない。それでいて、友だちとせっせと旅行には行ってる。母もそろそろ70歳になりますから、好きなように暮らしてもいいとは思うけど、最低限の家事はやってよねと思うところもあって。こっちは食費を払ってるんだから。

――いっそ食費を払わずに、それぞれで食事をとるという手もありますよね。

マユ:まあね。でも母は、一緒に夕食をとりたがるんですよね。ほとんど出来合いのものばかりだけど!

――マユさんや妹さんは料理しないんですか?

マユ:私は週末はやりますよ。妹は無理。母と同じで、冷凍か出来合いのおそうざいかという人だから。私が作るとふたりとも喜んでくれるんですが、ときどき、「どうして私にばかりやらせるのよ」と思いますね。

――ふたりとも、マユさんが頼りなのかしら。

マユ:そう言いますけど、一方で、本当にふたりとも身勝手。妹はいい年して、適当なアルバイトしかしないし、男と外泊しては帰ってこないし、母はそんな妹に意見するわけでもないし……。どうしてあなたたちは、ちゃんと生きようとしないのって、私はいつも説教ばかりしています

会社の若い社員にも腹を立て、叱りつけてしまう

彼女独自の「正しさ」や「正義」の主張には、正直、窮屈さを感じてしまうのだが、本人は至って真剣だ。

彼女独自の「正しさ」や「正義」の主張には、正直、窮屈さを感じてしまうのだが、本人は至って真剣だ。

――会社でもそうなんですか?

マユ:そうですね。若い人たちって仕事がいいかげんだから、どうしても腹が立ってしまって。コピーの取り方ひとつとっても、頼んだほうの意図をきちんとくみ取らない。すべてそうですよね。仕事を頼まれて意図がわからなかったら、「なんのためにこれをするんですか」とひと言聞いてくれればいいのに、それをしないから、言われたことしかできない。そんなことだから、重要な仕事だと説明してもリアクションが薄い。なにより、仕事への熱意が感じられない! 

――わかりますが、それを直接言っちゃうんですね。

マユ:言いますよ。言わないとわからないでしょ。まあ、言ってもわからない人が大半だけど。

――周りからは怖がられてます?

マユ:上司に言われたことがあるんです。「たとえ正しいことでも、周りが受け入れてくれるとは限らない」って。でも私、それは納得できないですね。正しいことを受け入れられない周りが悪いでしょ?

グレーゾーンを認めることができず、恋人にも「不誠実さを感じる」

恋愛にも、「正しいか、正しくないか」を持ち込んでしまう。

恋愛にも、「正しいか、正しくないか」を持ち込んでしまう。

――そうですけど、世の中、白と黒だけじゃないとも思います。

マユ:本来、白と黒であるべきだと思います。いいか悪いか、それだけでしょ。グレーゾーンを認めないと器が小さいみたいに言われるのは心外です。

――マユさんは、結婚しようと思ったこと、ありますか?

マユ:ありますよ。2回くらい。でもやっぱり相手の不誠実さが目について、結婚には至らなかった。

――つきあう相手にも正義を求めてしまうんですか。

マユ:そうですね。正しいことをしてほしいです。

――たとえば?

マユ:つきあっているなら、毎日、きちんと連絡をくれること。私のことを第一に考えてくれること。友だちと飲みに行ったり遊びに行ったりするのもいいけど、ちゃんと誰とどこへ行くのかも教えてほしいし、帰ったら帰ったと連絡してほしい。

――それは、きついですね……。

マユ:そうですか。つきあっているなら当然じゃない?

――マユさん自身は、そうしているんですか。

マユ:もちろんです。でも相手は、「そこまでしなくてもいいよ」って言うんですよね。そう言われると、私のことを好きじゃないのかも、と疑ってしまいます。

――というか、彼にとっての正義とマユさんの正義が違うということなのでは?

マユ:いえ、私のほうが正しいはずです、それに関しては。だって、どこにいるのかわからなかったら相手が心配するでしょう? 人に心配させないのが大人のありようだと思います。

どうして「正しさ」のために闘い続けなければいけないのか?

――自分自身が、つらくなることはありませんか?

マユ:いつもつらいです(笑)。周りのいいかげんさに、私は合わせることはできない。でもきっと、周りも私には合わせられない。そうなると多勢に無勢で、私が悪いみたいになってしまう。だからこそ、私は闘い続けなければいけないのかなとも思っています。

――そもそも、そこで闘う意味があるのかな、と思ったりしません? 法にひっかかるようなことなら正義が通るべきというのもわかりますが、日常生活の中では、それほどがんばらなくてもいいのではないかとも思うんです。

マユ:でもそうしたら、世の中がめちゃくちゃになっていく。せめて私の周りだけでも、きちんとした倫理観と道徳観を失ってはいけないと思うんです。最近、不倫なんかも容認する人たちがいて、ものすごく不快です。小さなことから是正していかなければいけないと思うんですよね。

――それでマユさんは、日々楽しいですか?

マユ:楽しいとか楽しくないで人は生きているわけじゃないと思います。そういう風潮も、とてもイヤ。人は正しく生きていくべきだと思う。結婚もしてないくせに、と陰口を叩かれることもありますよ。それもわかってますけど、結婚ってある意味、鈍感にならないと続けていけないような気がするんです。他人との生活ですから。


常に心に時限爆弾を抱えているようなもので、自身はつらくないのだろうか。

常に心に時限爆弾を抱えているようなもので、自身はつらくないのだろうか。

マユさんとは、どこまでいっても、なかなか話が噛み合わない。共通の知り合いによると、これでも以前よりは丸くなったということだが、正義の御旗を振りかざしてしまうのは昔かららしい。今回のインタビューに際しても、「正しいことの正しさ」をきちんと伝えなければと事前に張り切っていたらしい。

彼女から見れば私などは天敵のようなもので、余計なお世話かもしれないが、もうちょっと肩の力を抜いて生きてもいいのではないかとも思ってしまう。「正しい」というのも彼女の価値観によるもので、ひょっとしたらそれは「独善」と言われてしまうものかもしれない、という視点を持つことはできないのだろうか。「正義」を「正義である」と言いきれない世の中は、こういう人にとっては生きづらいのだろうけれど……。


■【アラフォーの“傷跡”。大人になっても生きづらい私たち】連載中
――次回もお楽しみに! 過去の連載はこちら。

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