雑貨/ハンドクラフト・工芸

心地よい日本の器と工芸の店「雨晴」(東京・白金台)

白金台のメインストリート、プラチナ通り。白金台駅から歩くと、その道の一番奥のほうに静かにオープンした器や工芸を扱う店「雨晴(あまはれ)」。現代の日本人が本当に心地よい暮らしを作り手、売り手、使い手の三者が一緒に考えてつくるブランドとして誕生しました。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド

シンプルな和を象徴するエントランス

シンプルな和を象徴するエントランス


雨の日も晴れの日も心からくつろげる暮らしを提案

 古いヴィンテージマンションの1階入り口には、まるで日本を象徴するように、大きな松の木が飾られています。中に入ると、日本全国各地から集まった、器を中心とする工芸品がずらり。個人作家のものもあれば、職人の作ったものもあり、陶器、木工、金属、ガラスなど素材も様々。30件前後の作り手のものが集められています。店名の「雨晴(あまはれ)」とは、「雨の日も晴れの日も心からくつろげるくらし」がコンセプト。古来から、自然との関わりが上手だった日本人。日本の工芸品は自然に近いところで作られていることから、四季折々の季節や自然の風景に心を寄せ、心地よく暮らせることを願って名付けられました。ひし形が三つ重なっているロゴは、ひし形部分を雨粒、光の粒として表現し、作り手、売り手、使い手の3者が重なって、お互いに関わり合うという意味も込められています。

店内には全国各地から集まった器や工芸品が並ぶ。

店内には全国各地から集まった器や工芸品が並ぶ。


ディレクターである金子憲一さんは、元々インテリアが好きで、かつて日本の工芸などを紹介するインテリアショップで勤務していたことがありました。その時に南部鉄瓶と出会い、日本の工芸ってカッコいい!と新鮮な感動があったそうです。以来、本当にいいと思えるものをより多くの人と共有したいと思うようになったとか。
「自分の祖父母はべっ甲職人で、実際仕事場に行ったことはなかったんですけれど、祖父母がつくった作品や、べっ甲を彫る為に参考にしていた図録などを大人になってからあらためて見る機会があり、祖父母の偉大さを感じたことがあります。また父は骨董好きで茶道をやっていました。自分がこの道に入ったのは、そういう家族からの影響も少なからずあるかもしれないな、と思います」

そんな金子さんなので、店に並んでいる商品のひとつひとつには大いに思い入れがあります。「これは?」と聞くと、たくさんのストーリーを語ってくれます。実際に現地へ足を運んで、作り手と話をし、金子さんの目で選んできたものたち。人の手で作られたものを買うときの醍醐味とは、その背景を知ることだと思うのです。どんな人が、どんなところで、どんな思いで作っているのか?それらを少しでも知ることで、また違った表情が見えてきます。金子さんは、ものを選ぶ時の「決めごと」を作っていて、それがとても興味深かったのでご紹介します。

・その土地の風土や文化から生まれたもの
・その土地でしか創ることのできないもの
・その人にしか創ることができないもの
・佇まいが美しいもの
・情緒があるもの
・影も美しいもの
・次の世代に伝えるべきもの
・頭ではなく心でつかうもの
・心と心をつなぐもの
・人の笑顔を創るもの


自分自身でももの選びの指標にしたいと思ってしまう「決めごと」でした。最初にこの柱を作ったことによって、ブレなくもの選びができたそうです。今まで器店の取材などで、もの選びについて伺うことは何度かありましたが、「自分の好きなもの」と答える方も多く、こうやって明確にしている方は珍しいと思いました。といっても金子さんも個人的には直感的に惚れたらつい買ってしまうものもあるそうですが。


沖縄、石巻、有田、常滑、角館など全国各地の工芸品


沖縄・陶器工房undefined壹の器。

沖縄・陶器工房 壹の器。

実際に扱っている商品をいくつかご紹介します。まずは沖縄「陶器工房 壹」の器。沖縄というと、手描きの大らかで大胆な模様の入った器をイメージしてしまいますが、こちらはまたシンプルで違った印象。この窯元でも絵柄の付いた器も作ってはいるのですが、写真ものは壺屋焼(沖縄の壺屋地区や読谷村で作られる焼き物をいう)のルーツである、わくた焼の400年前の器を再現しつつ、現代の暮らしに合うものを作っています。沖縄の方言で碗を表すマカイや、ワンブー(太めの縁がある鉢)など、昔からある伝統的なかたちをベースに鮮やかな色合いの釉薬を施し、現代の食卓に使いやすいデザインになっています。

雄勝石のプレート。独特な表情がある。

雄勝石のプレート。独特な表情がある。


石巻雄勝町で採れる雄勝石(おがついし)でできたプレート。雄勝石は硯に良いといわれています。伊達政宗が愛用していたそうで、日本人の黒髪に例えられるような漆黒の美しさが特徴。東京駅の屋根もこの雄勝石でできているのだそうです。震災後、一時期途絶えてしまった雄勝硯。雄勝石は今もたくさんあって採取はできるそうですが、津波で大きな被害を受けたために、現地へ行くのが相当困難で、あまり多くは作れないそうです。なだらかに凹凸のある表面は、職人がパンと割ったときの割れ目。自然にできたもので、何も手を加えていないのだそうです。この味わいのある表情がプロの料理人に人気だとか。フレンチレストランなどでも使われています。

陶芸家・岡晋吾さんがプロデュースした有田製窯の器

陶芸家・岡晋吾さんがプロデュースした有田製窯の器


こちらは有田焼ですが、古陶のような佇まい。元は有田で作陶し、現在唐津で活動している陶芸家・岡晋吾さんがプロデュースした、有田製窯の器のシリーズ「古白磁」。有田製窯は有田でも最大規模の工房で、きりっとモダンな器が多いのですが、こちらは素朴で自然な風合いがあり、人の手跡のようなものが感じられる器です。400年前の古典的モチーフをベースとしており、陶芸家が窯元をプロデュースするというのも珍しいパターンだと思います。

陽景窯の急須

陽景窯の急須


器以外の食卓周りの道具も色々あり、こちらは常滑の陽景窯の急須。急須業界のエルメスと言ってもいい完成されたかたちで、他では一般売りされていない急須です。職人さん一人で作っているそうで、持ちやすさ、バランス、水切れの良さなど、どれを取っても非の打ちどころがなく、常滑の産地の窯元さんでさえ絶賛するという急須です。煎茶道の先生などに愛用されている方が多いそうです。

藤木伝四郎商店の茶筒

藤木伝四郎商店の茶筒


秋田・角館、藤木伝四郎商店の茶筒。山桜の樹皮でできており、情緒ある自然な木目が美しい。フタをすると模様がピタリと合うさまも素晴らしい。外国人に圧倒的人気だという商品です。

陶芸家・寺田鉄平さんの瀬戸焼。棚はshimoo design。

陶芸家・寺田鉄平さんの瀬戸焼。


陶芸家・寺田鉄平さんによる、瀬戸焼の手びねりの花瓶。瀬戸というと織部とか、絵柄のあるイメージなのですが、こちらは土器のような質感です。炭化焼締めという、ワラを詰めて酸素を少なくした状態で焼く技法だそう(備前などで使われる方法)。素朴な削り跡が面白く、また大ぶりな器なのでどうしても焼いているときに割れることもあり、ちょっとヒビが入ってしまった器に金継ぎを施していたりすることもユニークです。

唐津焼の酒器

唐津焼の酒器


秋田杉工芸の徳利。

秋田杉工芸の徳利。


能作の鋳物でできた片口やちろり。

能作の鋳物でできた片口やちろり。


松徳硝子「うすはり」の徳利やお猪口。

うすはりでおなじみの松徳硝子の徳利やお猪口。


金子さんの個人的趣味もあるのか?酒器が多いのもこの店の特徴かもしれません。佐賀の唐津焼、秋田・大館工芸社の秋田杉工芸、富山・能作の鋳物、東京墨田・松徳硝子など、全国津々浦々から、様々な素材のものが集まっていて目移りします。この器が並ぶ風景を見ながら一杯飲めそうなくらいです。

企画展「桜の景色盆栽と花見酒」を開催


景色盆栽のある風景。

景色盆栽のある風景。


そして、そんな酒好きさんにも朗報。2016年2月12日(金)~3月13日(日)までは「桜の景色盆栽と花見酒」を開催中。期間中の3月6日(日)には、盆栽のプロで今回の作品展示もされている、品品・小林健二さんによる、“お酒を飲みながら盆栽を作る”ワークショップも開催されます(こちらは満員御礼)。ご興味ある方は、ぜひ訪ねてみて下さい。

景色盆栽。

景色盆栽。


雨晴
東京都港区白金台5-5-2
03-3280-0766
11:00~19:30 水休
http://www.amahare.jp
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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