スキー場での事故はこれまでも問題になっていますが、また悲惨な事故が起こってしまいました。2016年2月2日に広島県のスキー場で起こった衝突事故で12歳の女児が死亡されました。死因は大動脈解離による心タンポナーデであることが発表されています。

以下は朝日新聞デジタルからの引用です。

死因は胸強打による心タンポナーデ スキー場で女児死亡

朝日新聞デジタル 2月3日(水)13時19分配信

広島県北広島町の芸北国際スキー場で、町立芸北小6年の近藤江里菜さん(12)がスノーボードの男性(38)=長崎県佐世保市=と衝突して死亡した事故 で、県警は3日、死因は外傷性大動脈解離による「心タンポナーデ」と発表した。胸を強く打って大動脈が破裂し、血液が漏れて心臓が圧迫されたという。

県警などによると、男性は首の骨が折れ、四肢まひの重傷。ターンした際に近藤さんの左側からぶつかったという。近藤さんは2日午前、学校のスキー教室の最後の自由滑走中、10人余りのグループの先頭を滑っていた。県警は目撃者から話を聞き、当時の状況を調べている。

朝日新聞社

残念としか言いようのない、悲しい事故です。今後の再発予防はもちろんのこと、万一起こったときに迅速に対処できるよう、スキーやスノーボードをする人は普段から準備をする義務があるでしょう。

その一助とするために、今回の事故で直接死因となった「心タンポナーデ」について考えてみましょう。

心タンポナーデとは

心臓の周りに心膜という袋状の構造物があります。

心膜

心膜は心臓を包む膜です

この心膜の内側に心臓はあります。袋に包まれた形だとイメージしてください。

通常、心膜と心臓の間にはわずかな量の水があり、心嚢水(しんのうすい)と呼びます。これが心膜と心臓がこすれて擦り減らないように、潤滑油としての役割を果たしています。

ところが何らかの原因でこの水が異常に増えたり、水のかわりに血液が入りこんだとき、「心膜+異常に多い水または血液」で心臓を圧迫し、心臓は動きにくくなるのです。

この状態を心タンポナーデと呼び、重症になると血圧が出にくくなり死に至ることさえあります。

心タンポナーデが起こったときの症状は?

タンポナーデ

心タンポナーデの姿

脈が速くなり血圧が下がります。健康人の脈拍は通常60-80前後のことが多いですが、心タンポナーデの状態では100以上になることもよくあります。血圧は年齢にもよりますが、通常100-130/60-80前後のことが多く、これが90/60以下になることもあります。

手足が冷たくなったり尿の量が減ったりします。

動けば息苦しくなったり、重症になればじっとしていても苦しくなることが多いです。

心タンポナーデがさらに悪化すると血圧が出なくなり、意識がなくなり死に至ります。

今回のスキー場事故で心タンポナーデになった原因は?

報道で伝えられている限りでは、女児は大動脈解離、つまり大動脈の壁が内外に裂けてその隙間に血液が入り込み、その血液が大動脈の壁の外側、つまり心膜と心臓大動脈の間に出てタンポナーデになったようです。

タンポナーデ

大動脈の損傷によってタンポナーデが起こることがあります

けがで大動脈が裂けたり解離したりするのはときどきあり得ることです。交通事故などで見受けられます。

今回のスキー場事故では女児と男性はかなりのスピードで体ごと衝突したと伝えられています。もし女児の左胸と男性の頭が激突したのであれば、女児の大動脈が解離しても不思議はありません。実際男性は脊髄を損傷したようで、それは背骨が折れるなどの強烈なちからが脳や上半身などにかかったことを意味します。

飛行機の離着陸時の墜落でかろうじて即死を免れた乗客がまもなく死亡される原因のひとつがこの大動脈の損傷です。解離の場合も、ちぎれて大出血する場合もあります。多くは、胸壁に固定されている背中側と固定なく多少ともぶらぶらしている前側の境目付近で大動脈よく裂けるのです。

今回のスキー場事故はこうした飛行機事故を想起させるほど強烈な力でお二人が衝突されたのでしょう。痛ましく残念なことです。

こうした悲劇を防ぐためには

スキー場

日常生活では考えられないほどのスピードで滑走するスキーやスノーボード。身近なスポーツだからと安心してしまいますが、思わぬ大事故につながります

当然とはいえ、「安全運転」です。ご自分の力量を踏まえてその範囲内でのスピードでスキーやスノーボードを楽しんで頂きたいものです。

ただ不運にも衝突する瞬間、せめて胸や頭でぶつかるのは避けて欲しいと個人的には思います。腕や脚なら骨折してもいのちは助かることが多いからです。それと進路変更ができないのであればせめて早めに転倒するなどしていただければ……などと素人考えながら思ってしまいます。それほど今回の事故は残念でした。

こうした事故が起こってしまったら

緊急で救急車を呼ぶのは言うまでもありません。

現場で直ちにやれることは頭を床につくほど下げ、意識がなければただちに蘇生救命処置の準備です。脈拍または呼吸がなければ心マッサージなどの蘇生救命処置を行います。今回のような激しい衝突では役に立たないかもしれませんが、有効なこともあります。

おわりに

今回のような悲惨な事故が二度と起こらないように、安全運転でスキーやスノーボードを楽しみましょう。心タンポナーデのような怖いことが起こり得ることは、どこか頭の片隅に置いておきたいものです。

最後に亡くなった女児のご冥福と重症の男性の早いご回復を祈ります。


■参考サイト
心臓外科手術情報WEB
心臓や心膜、タンポナーデ、大動脈解離などの情報が得られます

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