アラフォーの“傷跡” 大人になっても生きづらい私たち 第5回
――アラフォー世代の女性たちが背負ってきた人生や悩みを話してもらうノンフィクション連載。今回の主人公は、3回婚約破棄をした40歳のモエさん。いざとなると、結婚への恐怖感や嫌悪感にさいなまれてしまうのだそうだ。彼女の心の奥底にあるものとは。大人になっても生きづらい私たち、連載第5回。
実際、彼女を紹介してくれた共通の知り合いは、「モエは理想が高いというか、いざ結婚となると、急に不安になって難癖つけたがってるのよね……」と若干、厳しい反応を示していた。
だが、モエさんに会うとおっとりした印象の女性で、とても「難癖つける」タイプには見えない。その理由は彼女の過去にあった。
最初の彼は「マザコン男」
「長男の嫁は同居が当然」彼と彼の家族との距離感にも違和感が。
モエ:ええ。最初は25歳のとき。短大を出て就職した会社で知り合った3歳年上の人とつきあうようになって。プロポーズされたときはうれしかったんですけどね。
――何が原因で結婚をやめたんですか?
モエ:式場探しのときに、彼のお母さんがついてきたんですよね。そういうこともあるかと思ったんだけど、それ以来、何かというとお母さんが出てくる。私は別居するつもりだったのに、ある日突然、お母さんが「家を建て替えなくちゃ。早いほうがいいわよね」って。それで彼に、「どういうこと?」と聞いたら、「だってオレ、長男だよ。同居するのが当然でしょ」と。でも彼、下に妹と弟ふたりがいるんですよ。そんな大家族の中に入っていく勇気は、私にはありませんでした。
――彼は話し合いには応じてくれなかった?
モエ:長男の嫁は同居が当然と言い張って、全然、妥協点が見つからない。それで婚約破棄となりました。
次の彼との結婚話で、幼いころのトラウマが……
つきあって1ヶ月。婚姻届は書けなかった。
モエ:29歳のときでした。つきあってすぐ意気投合した人がいたんです。10歳年上だったけど、とても若く見えておもしろくて。つきあって1ヶ月で結婚という話が出たんですが、私は前のこともあるから慎重になってた。それでも彼の押しに負けて、一応、口約束で婚約したんですよ。確かにあのころは幸せでした。彼に会うために、前の婚約を破棄してよかったとさえ思った。
――でも結婚には至らなかった……。
モエ:彼は形式にこだわらない人だったので、とりあえずふたりで婚姻届を書いて出しちゃおうということになったんですね。だけど、いざとなったら、私は婚姻届を書くことができなかった。
――どうして?
モエ:急に「家庭をもつ」ことが怖くなったんです。実はうち、父親が浮気三昧で、いつも母が泣いているような家庭だった。私は一人っ子だから、ずっと母の愚痴のはけ口。小さい頃から、母との会話は愚痴を聞くだけ。あげく、「結婚なんかしないほうがいい」「あんただって、いずれはわかる。男はいつだって裏切るんだよ」と言われ続けて育ったんです。それが嫌で、短大に入ると同時に家を出てひとり暮らしを始めました。だけどいざ婚姻届を書こうとしたら、急に母の言葉が蘇ってきたんですよね。それで、「これを書くのはまだ早いような気がする」と彼に言ってしまったんです。
――彼はどんな反応でした?
モエ:ものすごくがっかりした顔をしていました。「オレのことが信用できないんだね」って。そのとき、なぜか、急に思い出したんですよ。父が愛人の家に行くとき、私の手を引いて行ったことがあったなあって。母へのアリバイ作りだったのだろうと思うんですが、知らないお姉さんの家にいっしょに行って、父に「モエはあっちで遊んでいなさい」と言われた。ひとりで遊ぶのに飽きたので、父のところへ行こうと思ったけど、父とお姉さんは鍵のかかる部屋にいた。ドンドンとドアを叩いても開けてくれなくて……そんな遠い記憶が蘇った。それまで私は、その記憶を封印していたんです。
――嫌な思い出を、脳が封じ込めちゃったんですね。
モエ:そういうことなんでしょうね。いざ自分が結婚しようと考えたとき、思っていた以上に、当時、父からも母からも傷つけられていたことに気づいた。彼は、結婚できないならつきあっていてもしょうがないと去っていったけど、しかたがないなと思った。そのとき、私は結婚には向いてないんだと思いました。
今度は離婚前提の不倫で、傷つけられた記憶がよみがえる
父親の浮気現場でのいやな思い出がトラウマに。
モエ:34歳のとき、離婚を前提に妻と別居をしているという7歳年上の男性と知り合って、つきあうことになりました。調停から裁判になって、ようやく元の妻と離婚したのが2年後。そのあとに結婚を申し込まれたんです。でも、ふと、「離婚前から別の女性とつきあうような男でいいのか」と。別の女性って、つまり私自身のことなんですが……。妙な矛盾に気づいてしまったら、もう結婚なんてできませんよね。
――そもそも、結婚のイメージがよくないわけですしね。
モエ:たぶん、彼も周りの友だちも、私の気持ちは理解できないと思います。親のことを話しても、「そういう人はたくさんいるよ。でもみんな、自分の家庭は円満にやってるよ」って言われてしまう。でも、自分では、どうしようもないんです。
不仲だった両親は今は和解している。それも、彼女には受け入れられない。
モエ:父の悪口ばかり言っていた母は、5年前に脳梗塞で倒れました。そうしたらあんなに不仲だった父が、びっくりするほど献身的に介護していて。それも、ものすごく腹立たしいんですよね。私の思いなんて、ふたりとも無視して、自分たちのことしか考えてない。あのころ、ふたりがどんなに私を傷つけたか……。
――おそらく、ご両親は細かいことは覚えてないんじゃないでしょうか。
モエ:でしょうね。だから頭に来るんです。私の生涯を台無しにしておいて覚えてないってどういうことよって。
――ご両親が今はいい状態なのだから、モエさんも結婚する勇気がわいてくるということはないんですか?
モエ:ないですねえ。というか、「いざ」となると、どうしても過去が邪魔をしてしまう。
――幸せになるのが怖いのかしら。
モエ:確かに、心のどこかで「私なんか幸せになっていいはずがない」という思いがあります。それに、結婚して幸せなんていうのは、ほんの一瞬のことだと思うんですよね。3度目の彼には、「人間不信なの?」と言われました。そうかもしれません。一生、幸せとは縁遠いでしょうね。
――そんな……。まだまだこれからですよ。
モエ:40歳ですもん。まだまだこれから、ということはないと思います。
インタビューを終えて
モエさんは、おっとりと話すので決して好戦的な印象はなかったのだが、文字にするとかなりキツイことを言っているとわかる。彼女の傷の大きさは彼女にしかわからないのだろう。思い起こせば、私も過去に「二股をかけられていた」ことがあった。大人になって初めてつきあった相手で、半年ほどたったとき、共通の知り合いから「あいつとつきあってるんだって? あいつ、長いこと別の女と同棲してるよ」と聞かされ、へなへなと体の力が抜けたっけ……。まだ純情だった私は、速攻で別れたのだった。だからといって、次から男性に対して不信感を抱くようになったかといえばそんなこともない。むしろ、好きになったら一直線という直情径行型から抜けられないタイプだったように思う。恋愛観と過去の経験は必ずしも結びつくとは限らないのではないか。
ただ、モエさんが3度も婚約破棄をしたということは、彼女と結婚したいと思う男性が3度も現れたということ。きっとこの先も、また現れるのではないだろうか。
モエさんの両親の状況が変わった今。今度こそ、彼女がどういう決断を下すのかに関心がある。
■【アラフォーの“傷跡”。大人になっても生きづらい私たち】連載
――次回もお楽しみに! 過去の連載はこちら。
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