病院の紹介状は何のためにある?
現在何に困っているのかをじっくりお話しましょう
紹介された医師が最も知りたいことは、前任の医師が「どういった病気を考えて、どういう治療をおこなったか」ということです。データや画像はその補助にすぎません。経過やご本人の説明からある程度の推測は可能ですが、紹介状があった方がはっきりしますし、患者さんが医師の意図を誤解していることも少なからずあります。
人の体のことをビジネスに例えるのはなんですが、誤解を恐れずわかりやすく言えば、紹介状は「プロジェクトの引き継ぎ」だと思っていただければいいと思います。
たとえば会社でプロジェクトの担当者が変わる場合にまったく引き継ぎがなかったら、仕事は継続できるかもしれませんが、結構困りますよね。同じことの繰り返しや検討違いもでてくるかもしれません。そのプロジェクトが長期間であればあっただけ、また複雑であればあるほど引き継ぎは大変になります。それを解消する一助が紹介状だと思っていただければよいと思います。
自分の体という大事なものがかかっていますから、できるだけスムーズに話を進行させたいですよね。
ちなみに「『かかっている友人の紹介』とか『テレビを見ての紹介』は紹介状の代わりにならないんですか?」という質問もよく受けますが、前述の通り、紹介状=引き継ぎですので、もちろん代わりにはなりません。
後医は名医
「後医は名医」という医師の間では有名なことわざがあります。「同じ患者さんを診察しても、後から診た医師(後医)の方が正確な診断・治療ができるので名医に見えてしまう」というもので、医師同士では自戒をこめてよく使われるフレーズです。例えば、まずあるお医者さん(前医)にかかってAという病気を疑って治療したが良くならず、次のお医者さん(後医)にかかったらBという病気ではないかといわれて良くなったという場合、患者さんには自分の病気を治してくれたのは後医なので、後医が名医に見えるという話です。
ですが、この場合前医と後医では情報量が違うことにお気づきになったでしょうか。後医は「前医でAという病気を疑って治療したが良くならなかった」という非常に貴重な情報が追加された上で診断できる、という好条件になっています。
ある経過で「よくなった」も「よくならなかった」も、診断・治療にとってはどちらも非常に重要な情報です。紹介状はその貴重な情報が詰まっているので、ぜひ持参するようにしましょう。
【追記】
2016年、厚生労働省は病院の役割分担をさらに明確にして、大病院が重症者の治療に専念できるように、紹介状なしで大病院を受診する患者さんに窓口で5000円の追加負担を求める方針としました。いまでも一定以上の規模の病院で追加料金を任意で課すことができますが、今後は対象となる病院を絞った上で金額を一律、義務化することになります。なお近くに診療所がない地方や救急の場合などは対象から外されます。