国内のネオクラシックバイクの帝王カワサキW800
個人的な話になりますが、私の現在の愛車はハーレー・ダビッドソンのスポーツスターXL1200Rというバイクです。購入時に迷ったバイクがトライアンフ(Triumph)のボンネビル、カワサキ(Kawasaki)のW650、そして現在の愛車XL1200Rでした。この3台はクラシック系のバイクです。細かい点こそ変更になっていますが、デザインのほとんどは変更されずにリリース当時の面影を残しています。最先端のデザインと性能を持ったバイクも魅力的ですが、一方で変わらないデザインと背伸びしすぎない性能は多くのライダーを虜にしてきました。
先日、紹介したカワサキ・エストレアもクラシックなバイクですが、これらのバイクの総称を「ネオクラシックバイク」と言います。国産車で歴史のあるネオクラシックバイクと言えば、ヤマハ(YAMAHA)のSR400、カワサキ(Kawasaki)のエストレアとW800でしょう。
3台の中で最も排気量が大きいW800の起源は1966年に登場したW1【ダブルワン】です。今でこそ「クラシック」と評されるカワサキのW800ですが、起源であるW1は当時国産車最高排気量を誇りカワサキのフラッグシップバイクでした。
そんな名車W1を髣髴させるバイクとして2002年によみがえったのが、W800の先代モデルであるW650。リリース当時は免許制度が変わり、教習所で大型自動二輪免許の取得が可能になっていました。それに伴い大型自動二輪市場も活性化し、W650も人気車両となりました。
2006年にはW650のスタイルはそのままに、排気量のみ399ccにダウンしたW400がリリースされました。
Wシリーズは固定ファンを抱えて人気を維持していましたが、2008年に排気ガスの規制が厳しくなり、多くの車両と同じくW650も排気ガス規制をクリアすることができず廃盤に。しかし多くのファンの人気に支えられ、2011年2月1日にWシリーズが持つクラシックなイメージそのままにW800がリリースされました。
燃料供給システムをアナログなキャブレターからコンピューター制御のインジェクションに変更し、排気量もW650の675ccから773ccにアップ。車体名もW800に変更されましたが、Wシリーズが持つクラシックデザインはきちんと継承されました。
本気で購入候補としても考えてたW650の後継機であるW800を、1週間通勤で乗り回せる喜びを噛み締めながら今回も試乗レポートをお届けします。
まずはW800の装備をチェック
前モデルのW650はアップハンドル仕様とローハンドル仕様が用意されていましたが、W800はハンドルポジションの選択はできず、W650のローハンドル仕様に近いポジションとなりました。幅も若干広めですが、ハンドルを最大まで切っても腕に余裕がありました。W800用のアップハンドルも販売されていますが、アップハンドルにするとポジションが直立になるため、小さめでもウインドスクリーンかメーターバイザーは追加したいところです。シート高はW650に比べて10mm低くなりました。身長165cmの私が座ってもまっすぐに足を下ろすことが可能で、片足はべったり、両足でもつま先立ちすることができました。車重は最終型のW650より5kg重い216kg。軽いといえる重量ではありませんが、近年のバイクは軽量化のためにプラスチックパーツを多用する傾向があります。しかしW800は、クラシックな雰囲気と質感を出すために金属パーツを多用しています。雰囲気演出のために必要な重量増といえるでしょう。
エンジンはシンプルな空冷並列2気筒エンジン。空冷エンジンの中でも造形が美しいといわれるW800のエンジンは、「ベヘルギア」というメカニズムを採用しています。エンジン右側に位置し、エンジンの構成部品のひとつであるベヘルギアは、他のバイクでは採用されることの少ないメカニズム。個性を引き立てているパーツといえます。独特なエンジン音ですので、ぜひ聴いてみてください。(本記事の最後でW800のエンジン音が確認できる動画のリンクを貼りました。)
タンクの左右には二ーパットを装備。運転中に自然とニーグリップができるので、実にしっくりときます。一方で金属パーツがクラシカルな雰囲気を漂わせるW800に、プラスチックのニーパットをわざわざつけなくてもいいかな……という印象も。タンクパッドを外してタンクラインをきれいにする加工をする業者もいるようですので、私のように気になる方は後から加工してみてはいかがでしょうか。
比較的振動が大きいバイクなので、ミラーにはしっかりと振動対策が施されており、ミラー気部分にはゴムが挟まっています。純正ミラー以外の製品に変更する際には、振動でバックミラーが醜くなることを覚悟した方がいいでしょう。
それでは実際に街中を走行してみたインプレッションをお届けします。
W800の走りはとてもスムーズで扱いやすい
エンジンをかけると、独特のW800サウンドを奏で始めます。早速アクセルを開けて走り出すと意外なほどにスムーズに加速していきます。800ccも排気量があるバイクなので、パワフルな走り出しかと思いきや、とても扱いやすい印象です。少しエンジンを回してみると、心地よい振動が体に伝わってきます。高速道路も走ってみたところ100km/h巡航を余裕でこなすことができますが、気が付くと80km/hぐらいで巡航していました。80km/h巡航がもっとも気持ちよく走ることができる速度域なのかもしれません。振動も少なく、いつまでも走っていられそうな気持ちよさです。またW800は車重があるため、横風にも強く、海の上にかかる橋を走っていても強い風に耐えやすくなっています。
街中での走行では、エンジンがとにかく滑らか。シルキーに加速するため、2速を使った低速コーナーで多少ラフにアクセルを操作してもスムーズに加速します。ギアを一度5速まで上げてしまえば頻繁にギアチェンジする必要もなく、速度が下がった状態でアクセルオンしてもギクシャクしません。
コーナリング性能も悪くはありません。乗り手が曲がろうと動作をすれば、きちんと答えてくれる車体です。最近のバイクはとても乗りやすくできていて、コーナリング時に曲がる挙動をバイクが助けてくれている印象があります。一方W800は助けてくれるでもなく、乗り手の要求に忠実に対応してくれる印象です。W800できれいにコーナーワークができるライダーは、他のバイクでも同様でしょう。
ただしスポーツ走行するには、ブレーキ性能が若干弱いような印象も受けました。特にリアのドラムブレーキは効きがあまい感じがあり、ガンガン走って急ブレーキをかけてコーナリングする、というよりは余裕を持った走りを楽しみたい車両です。
W800は過不足なく乗り手に従順な1台
1週間乗ってみて最も感じたことは、W800の性能には過不足がないということ。ちょうど良い車重、ちょうど良いエンジンパワー、ちょうど良いコーナリング性能。とにかくバランスの良い車両なのです。乗り手に負荷がない加減速の性能や乗り手に忠実なコーナリング性能は、何年経っても安心。休日の朝に洗車をして、200kmぐらいのショートツーリングに出かけるのにも最高の1台です。多少の車重は安定感につながり、慣れてしまえばそんなに苦労する重さでもありません。
先代のW1を知る知人に話を聞いたところ、最先端バイクだったW1は官能的ではあるものの、今の規制には絶対に通らない爆音のマフラーと、当時最大排気量だったエンジンで扱いやすいとはいえない車両だったと語りました。
時を越え、W1の面影を残しながら現代によみがえったカワサキのWシリーズ。時代に合わせてチューニングされたW800は、リターンライダーが増加している現代のご時勢にピッタリの1台ではないでしょうか?
W800をちょっとカスタムするなら
最近のスペシャルエディションやブラックエディションは、車両の各部をブラックアウトしています。ブラックアウトした車体ならブラックのリアキャリアがおすすめ。クラシックなW800はクロームメッキを多用しているモデルのため、リアキャリアもメッキのものを選ぶと統一感が出ます。
リアキャリアを装着したくないなら、サドルバッグサポートとサドルバッグの組み合わせもおすすめ。バッグサポートは左右があるので、購入するときには気をつけましょう。また黒いサドルバッグサポートは、キジマからリリースされています。
特にアップハンなどにカスタムするなら、メーターバイザー程度はつけておかないと風圧を受けてしまい高速道路では辛いかもしれません。W800は非常に完成されたデザインなので、あまりゴチャゴチャとつけるのはおすすめできません。実用性に富んだパーツを数点つけるのがおすすめです。
W800用の定番マフラーと言えば、アールズギアのワイバンクラシックです。純正に比べて重低音の効いた音質ながら、音量は大きすぎず、W800ユーザーの心を掴んでいます。素材にはステンレスを採用し、クロームメッキで仕上げています。錆に強く劣化にくいのも魅力的。ちなみにW800には黒を基調にしたブラックエディションがラインナップされている年式がありますが、黒のマフラーが良い場合はノジマエンジニアリングから販売されています。
W800は排気ガス規制の関係でカタログ落ちしましたが2019年復活予定です!
多くのバイクモデル同様に、W800も新しい排気ガス規制に対応できず、2016年のファイナルエディションのリリース後しばらくカタログ落ちしていました。しかしカワサキは2018年11月にW800を復活させ、STREETとCAFEという2つのバリエーションで2019年春に販売する予定と発表しました。 こちらがW800STREET。フロントタイヤのサイズが変更され、18インチに。さらにヘッドライトにはLEDタイプが採用されています。W800STREETにはタンクパッドも装備されていません。さらにリアがディスクブレーキ化されています。 こちらはW800CAFE。アルミのビキニカウルが特徴的。タンクパッドも装着されています。ハンドルは低い位置に構えるスワローハンドルを採用。シートもカフェレーサーらしい形状に変更されています。排気ガス規制をクリアし、タイヤのインチ数、さらにリアブレーキがディスクになったことで走った印象も大きく変わるのではないでしょうか? 販売されたらすぐに試乗してみたいですね!