アラフォーの“傷跡” 大人になっても生きづらい私たち 第4回
――アラフォー世代の女性たちが背負ってきた人生や悩みを話してもらうノンフィクション連載。今回の主人公は、人間関係がうまくいかず転職を繰り返し、婚約も破棄し、人付き合いをあきらめてしまいつつある女性。彼女が前に進めない理由とは……?アラフォーの“傷跡” 大人になっても生きづらい私たち第4回
ある仕事で、関係者の女性と齟齬(そご)が生じたことがある。なぜそうなったのかを話し合おうとしたら、「私は言われた通りにやっただけです」と言い張り、話し合いに応じようとしない。こちらはを責めるつもりなどまったくなかった。だが、彼女は責められていると感じたのだろう。最初から予防線を張って、聞く耳をもたなかったため、まったく話し合いができず、他の関係者も困り果てていた。その後、彼女はすっかり落ち込んで会社を辞めてしまったという。強硬な予防線は自分を守るためではなかったのか。だったら仕事を続けるべきではないのか。不思議な思いにとらわれた。
上記のことを思い出したのは、今回話を聞いたナミエさん(41歳)に会ったのがきっかけだった。
ナミエさんは大学卒業後、大手企業に勤めたものの人間関係で悩み、3年で退社。その後、転職を繰り返したがやはり人間関係でつまずき、32歳のときに親戚の紹介で出会った人と婚約するも、挙式1ヶ月前に婚約破棄。現在は派遣で働いているが、「どうして私の人生は、こんなことになってしまったのか」と悶々としているという。
仕事が長続きしない
人間関係が原因で、職も転々としている。
ナミエ:他人から見たら些細なことかもしれないんですが、最初の会社で新人だったころ、先輩に「忙しかったら無理しなくていいからね」と言われたことがあるんです。ああ、この先輩は私の能力が低いと思ってるなと感じてしまって……。それ以来、その先輩が苦手になる。
――先輩は気遣ってくれただけじゃないんでしょうか。
ナミエ:そうなんですよね。でも、他の新人には「がんばってよ」って言ってたりする。私より彼女のほうが力があると思っているんだな、と。
――仕事内容にもよるでしょうけど。……って、こういう言い方をするとまた傷ついてしまうんでしょうね。
ナミエ:はい。今も、亀山さんが私を「神経過敏」と思ってるんだろうなと……。
――そこまで気にしていたら、人と会うのが苦痛でしょう?
ナミエ:そうですね。カウンセリングにかかって、「他人からの言葉の受け止め方」と「自分が受け止めたあとの思考の整理」に、偏りがあるとわかってはいるんです。頭ではわかっているけど、気持ちがついていかない。
――他の会社も同じような理由で辞めたんですか?
ナミエ:ええ。なんとか自分を変えようとして、みんなの輪に入っていこうとがんばったこともあるんです。だけど、誰かの噂をしている仲間に入るのは嫌だし、「そんなにその人のことが気になるなら、直接言ったほうがいいんじゃないですか」と言って総スカンを食ったこともあります。私は正しいことを言っているのにどうして、と落ち込みました。
――正論が受け入れられるとは限らないですもんね。
ナミエ:おかしいですよね。でも、みんな世の中そんなものだよと思ってるんでしょう?
――日常をスムーズに過ごすためには、適当にスルーすることも必要だから。
ナミエ:それができないと、いちいち落ち込むんですよね。みんな器用だなあと思います。
ほとんどはじめての恋愛で、結婚
カウンセリングを受けて自覚したところで、コントロールできない感受性。
ナミエ:もう仕事をするのも疲れたし、専業主婦の姉が子どもをふたり抱えてけっこう楽しそうに生きているので、そういう暮らしもいいなと思ったんです。
――親戚の紹介で出会った人と婚約までしたんですよね。
ナミエ:私のこういう性格も把握した上で、「今までつきあった女性と違う。話していて楽しい」と言ってくれたんです。私は学生時代に少しだけつきあったことがあるだけで、恋愛はほとんどせずに生きてきたので、こういう人がいるんだと感動して婚約しました。
――でも、ナミエさんから破棄した?
ナミエ:はい。
――嫌なことを言われたとか?
ナミエ:専業主婦になるつもりだったのに、彼から「仕事は辞めるんだよね」と言われたとき、なぜかカチンときてしまって(笑)。「仕事はどうするの?」と言うならわかるんだけど、はなから辞めると決めつけられたことがちょっと……。私の人生なのに、どうしてこの人が決めるんだろうと不信感を抱いたんです。
――自分の気持ちをきちんと伝えました?
ナミエ:それが言えないんですよね、私。「辞める気ないけど」と言ってしまった。そうしたら、あちらは「仕事を辞めて家庭に入ってくれると聞いていた」と。話が違うというわけです。けっこういい家柄の人だったので、あちらの両親も怒っちゃったみたい。
――あと一歩踏み込んで話していれば誤解が解けたのに。
ナミエ:いつもそうなんですよね、私。だからそのときも、ああ、やっぱりうまくいかないんだなとあきらめが先に立ってしまった。
いつまでこの生活が続くのか不安
得意の英語を活かした仕事でも、人間関係が立ちはだかる。
ナミエ:はい。
――英語が堪能だと聞きましたけど、それを活かして何かできないかと考えたりしませんか?
ナミエ:英語ができる人なんていくらでもいますからね。前に英語塾で、子どもたちに英語を教えていたこともあるんです。でもクレーマーの親から、「あの先生は依怙贔屓(えこひいき)してる」と塾に連絡が入って。がんばっている子にはどうしてもこちらも熱が入るでしょう。それを依怙贔屓と言われたらやっていられません。
――それでやめちゃった?
ナミエ:今、話していて思ったけど、私には粘りが足りませんよね。ただ、粘ってがんばると、よけいヘンな方向に行って、最終的に立ち直れなくなりそうなので、いつでも早めに退散してしまう傾向はあると思います。
――この先、不安はありませんか?
ナミエ:不安だらけです。今は両親と一緒に生活しているし、まだ父が働いているのでなんとか経済的にはやっていけていますが、この先、両親のどちらかが倒れたら私が介護しなくてはいけなくなる。そのとき、私の人生は何だったんだろうと思うのは目に見えています。こんなはずじゃなかったのにね。人生、行き詰まっている感じがしますね。
目標を見つけるのが目標
趣味のベリーダンスについても、どこかあきらめ気味。
ナミエ:スポーツジムに通っているんですが、そこでベリーダンスやヨガをやったりするのは楽しいです。その場だけの友だちならたくさんいますし。発表会には出ませんが。
――出ればいいのに。
ナミエ:お金もかかるし……やはり、みんなでひとつの目標に向かって何かやるというのが苦手なんですよね。問題発言をしてジムに通えなくなるくらいなら、最初から発表会には出ないほうがいい。
――これからの目標は、何かありませんか?
ナミエ:目標ねえ……。目標を見つけるのが目標かもしれませんね。
あきらめ発言が目立つナミエさんだが、決して「やさぐれた」ように見える女性ではない。淡いグリーンのニットに白いパンツの彼女は、むしろ颯爽と見える。だからこそ、話の内容とのギャップが大きい。
大学卒業後、ずっとフリーランスとしてやってきた私には、ナミエさんの気持ちがわからなくもない。ひとりが気楽で、人と一緒にいるとどこか浮いているのではないかという恐怖感が、私自身にもずっとあったからだ。
ただ、私にはナミエさんのような繊細さはない。他人が何を言おうが、自分の好きなように生きればいいと開き直ってきたからだ。彼女の繊細さ、きめ細やかな感情が生きる仕事があるのではないか。きっとあるはず。そんな気がしてならなかった。
■【アラフォーの“傷跡” 大人になっても生きづらい私たち】連載
――次回もお楽しみに! 過去の連載はこちら。
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