不倫に罪悪感を持つ男性のお話
しかたない。そう思って10年、我慢し続けてきた。
もちろん、不倫はいいことではない。刑法には触れないが、離婚する際の重大な要因とはなる。
民法第770条によれば、夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる、とあり、そのひとつに、「配偶者に不貞な行為があったとき」と書かれている。
この場合の「不貞な行為」とは、性交渉のことだ。プラトニックラブはこの中には入らない。通常、不貞な行為が一回だけでは、離婚提起には当たらないとされてきたが、今では一回だけでも不貞な行為に当たるという判例もある。しかし、こういう場合はどうなんだろうかと思うような話を聞いた。
38歳の男性 Kさんは、同い年の女性と結婚して12年になる。息子と娘は、11歳と10歳。妻は娘を妊娠した10年前から、セックスを拒みはじめた。
残業は控え、家事を手伝う。いい夫、いい父親であろうとした。
なのに……である。彼はその後、ずっと妻にセックスを拒否され続けた。
「何度も、どうしてなのか、僕のことが嫌いになったのかと尋ねた。だけど妻は、『あなたのことはお父さんとして尊敬している。だけどセックスはしたくない』の一点張り。つきあっているころは、そんなふうに言ったこともなかったし、彼女から誘ってくることも多かったのに……。でも、母親としての自覚がそうさせるのかなと思って、強要はしませんでした、もちろん」
彼はどうしていたのかというと、ときどきバスルームでひとりでしていたとか。風俗に行ったこともあるが、どうしても馴染めなかったため、一度でやめた。
もちろん、ほかの女性と恋愛などする気もなかった。子どもたちがかわいい。妻も、彼につっけんどんにするわけではない。セックスさえ持ち出さなければ、ごく普通の「仲良し夫婦」だ。
これでいい……と彼はずっと思っていた。心の奥深くで、とても寂しいものを感じてはいたが。
出会ってしまった
仕事では上司と部下。踏み込まないようにしていた。
「ある日、仕事が一段落したとき、彼女から『たまには食事に行きませんか?』と誘われたんです。ずっとふたりでチームとして仕事をしてきましたから、本当は僕から誘うのが当然なんだけど、彼女への思いが募りそうで怖かった。ただ、彼女から言われたら断るわけにもいかない。『ちょうど誘おうと思っていたんだけど、僕から誘うと強要になりそうで……』と冗談交じりに言いました。すると彼女は、『課長から誘われたら、“喜んで”って答えましたよ』と。仕事では非常にまじめですが、そんな軽口も言える女性でした」
そして、食事に行った。彼は過去の人生になかったほど楽しい時間を過ごしたという。あまりにおおげさな、と思うが、そうではないらしい。
「僕の感覚では、今までのどんな女性とのデートより楽しかった。妻には申し訳ないけれど、それが本音です」
食事が終わって、軽くお酒を飲みにバーへ。少し酔った彼女があまりに愛おしくて、彼は「ふたりきりになりたい」という言葉を必死に飲み込んで、早めに彼女と駅で別れた。
その後も、ときどき彼女と食事をしたり、お酒を飲んだりするようになった。だが、いつも彼は乱れまいと決めていた。
男として求められて
不倫という一線を越えた夜。
「課長は私のことが嫌いなんですか」
「好きだからこうして一緒にいる」
「じゃあ、ホテルに連れていってください。私、離婚してなんて言いません」
「僕はきみの人生に責任がもてない」
「私の人生は私が責任をとります」
そこまで言われて、恋しい女性を振り切れる男がいるだろうか?
彼は彼女をタクシーに乗せてホテルへと急いだ。素晴らしい時間があった。
だが今、彼は悩んでいる。
「妻を裏切ったことへの罪悪感もあるし、彼女に対して無責任なことをしたという思いもある。だけど、彼女とのセックスは素晴らしかったし、話しているだけで楽しくて心が弾む。もっと一緒にいたいのも事実。2度目を彼女が待っているのはわかっている。今はお互いに仕事が忙しくてむずかしいけれど、あと1ヶ月くらいの間に誘わなかったら、彼女との仲もそれきりになると思うんです。彼女とはつきあいたい。だけど、それは自滅への第一歩かもしれない。どうしたらいいかわからないんです」
彼はうっすらと目に涙をためている。本当に苦しいのだろう。表情が歪んでいた。
私には、彼を非難することはできない。妻に男として認められない男性が、他の女性に男として求められたら、誰でもこうなるのかもしれない。不倫はいけないとわかっていても断罪できないのは、こういった背景が誰にでもあるからだ。
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