受ける前に知っておきたい、予防接種の考え方

予防医学の観点からもワクチンは重要な役割を果たしています。しかし、最近では子宮頸癌予防ワクチン接種後の副反応報告などの報道もあり、ワクチン接種に対して否定的な考えをもつ方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はベネフィットとリスクの両方を踏まえて解説いたしますので、ワクチン接種の際の参考にしてください。

執筆者:村上 綾

画像を表示できません

ワクチン接種はベネフィットとリスクの理解を

ワクチンとは

ワクチンは滅菌した細菌やウイルス、その一部または弱毒化した毒素を体内に取り込み、免疫を作ることで感染性の疾病に対する抵抗力をつけるものです。

治療のために薬の副作用のリスクがあることは理解ができても、予防のための医療行為によって健康被害を受けるということは、あまり受け入れにくいと思います。もちろんベネフィットもありますが、健康な人にワクチンを接種するということは体にとっては侵襲行為なので、副反応のリスクは避けられないものです。

予防接種に関する規程が定められている予防接種法においては、あくまでも公的な強制力はない(努力義務)とされています。予防接種を受ける人がそのベネフィット(予防効果)とリスク(副反応)をきちんと理解することで、納得のいく医療を受けることが大切です。

ワクチンの有効性

ワクチンの有効性は臨床試験のプラセボ群の中で、もしワクチンを受けていれば病気にならなかったであろう者の割合(つまりワクチン接種群で減少した患者の割合)で評価することができます。

たとえばインフルエンザの場合、米国CDCによると健常者(65歳未満)で70~90%の有効率があったと報告されています。これは、インフルエンザにかかった人のうちワクチンを接種していればインフルエンザにかからなかったであろう人が70~90%という意味です。

「予防接種をしたのにインフルエンザにかかる」という場合もありますが、インフルエンザワクチンは流行型を予測して作ったもので、予測と一致しても100%の予防効果があるわけではないという理解が必要です。

インフルエンザワクチンは重症度を軽くするという意味でも重要で、感染性の高い条件にあたる老人入所施設では、死亡したひとのうち、80%がインフルエンザの予防接種をしていれば死亡を避けられたという予防効果が報告されています。

  • 小児の肺炎球菌感染症(有効性93.9~97.4)
  • 水痘(有効性80~85%)
  • おたふくかぜ(有効性75~100%) など

ワクチンの副反応

一方で副反応のリスクもあります。副反応には紛れ込み(実際にはワクチンが原因ではないけれど、たまたまワクチン接種後に起きた事象)の可能性もありますが、どの薬にも副作用があるようにワクチンにも副反応はあります。

■生ワクチン(麻疹、風疹、日本脳炎)による場合の副反応
アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の他、弱毒したウイルスによる感染症状がでます。麻疹ワクチンによる発熱、麻疹様発疹。日本脳炎による全身播種性BCG感染症など。

■不活化ワクチン、トキソイド(生ワクチン以外)による場合の副反応
アナフィラキシー、ADEM、蕁麻疹、発熱それに伴う熱性けいれん、脳症。ギランバレー症候群など。

子宮頸癌予防ワクチンの副反応報告にあったアナフィラキシー、ADEM、ギランバレー症候群は他のワクチンでも報告されている副反応で、ADEM、ギランバレー症候群は自然発生率と比較してもワクチン接種群の方が低く、因果関係は不明となっています。

また、30分以内に症状が改善する失神が多く報告されていますが、これには血管迷走神経が含まれていて、他の多くのワクチンが皮下注射、皮内注射であるのに対して子宮頸癌ワクチンは筋肉注射のため、痛みを強く感じるのは避けられません。血管迷走神経反射はストレスや強い痛みによっておこり、献血ルームでもよく見られる反応です。

ただワクチン接種が医療行為である以上、ワクチン接種を行う個人にとってメリットがデメリットより大きくなければなりません。子宮頸癌予防ワクチンの是非について議論がかわされている理由の一つには、感染による急性の致死率の可能性が他のワクチンのようには高くなく、ワクチンを接種しても継続的な検診は継続すべきなど、デメリットを強く感じることがあげられると思います。

リスクやベネフィットの大きさはそれぞれに感じ方が違うと思いますので、予防接種をする人がその病気の流行状況、病気になった場合の経過や重症度などを理解することが大切です。

ワクチンの分類

予防接種法に基づく定期接種は公衆衛生の見地から病気の発生を防ぐ意味合いが強いですが、個人にとってはそれがどんな意味をもつかを理解することで、ワクチン接種の意義が判断しやすくなるのではないかと思います。

予防接種法では、接種目的によりA類とB類に分類されています。

■A類疾病
目的:疾患の発生及び集団でのまん延を予防するため
※A類疾病に対する予防接種の対象者には、接種を受ける努力義務がある

集団予防を図る目的で予防接種を行う疾病や、個人にとって感染の可能性の高いものが分類されています。

  • 麻疹、風疹、百日咳、
  • ジフテリア 2類感染症(感染力、重篤度、危険性が高い)
  • 急性灰白髄炎(ポリオ)2類感染症
  • Hib感染症
  • 小児の肺炎球菌感染症
  • 水痘
  • おたふくかぜ

また、致死率が高いため、重大な社会的損失の防止を図る目的で予防接種を行う疾病も分類されています。

  • 日本脳炎 蚊の媒介により感染。7~10日の潜伏期を経て15%が死亡する。
  • 破傷風 致命率30%
  • ヒトパピローマウイルス 感染経路は性交渉。子宮頸癌のリスク因子。経過は慢性的。年間死亡者数2700人

■B類疾病
目的:個人の発病又はその重症化を防止し、併せてそのまん延を予防するため

個人予防目的に比重をおいている疾病が分類されています。

  • インフルエンザ 
  • 肺炎球菌感染症(成人)

各病気の流行状況など詳細については医療機関で詳しい情報が得られるのでそちらで確認してください。ワクチン接種に理解を深め、健康で衛生的な生活を送りましょう。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます