2014年に文化庁が実施した「国語に関する世論調査」によれば、1ヶ月に本を1冊も読まないと回答した人の割合は47.5%。読書は当たり前ではなくなり、だんだんと特別な体験になっているのかもしれません。

幅允孝さんは、そんな読書離れが進む時代において、カフェや企業、病院などの施設における本棚やライブラリーを通じて、思いがけない本との出会いを仕掛ける“ブックディレクター”として活動している人。読書のプロとも言える幅さんに、とっておきの良書と出会うコツを聞きました。

幅允孝さん

幅 允孝(はば よしたか)。有限会社 バッハ代表、ブックディレクター。TSUTAYA TOKYO ROPPONGI 店に並ぶ本棚のディレクションをきっかけに、カフェや企業、老人ホームなど、幅広い施設の選書を数多く手掛ける。2008年には「情熱大陸」(毎日放送)に出演するなど、書店だけでなく各方面からの注目を集め続けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、 』(2014年)など。2015年10月25日に発売の『飛ぶ教室 第43号』では、本号限りの編集長を務める。


「いいね」と言われる本を、人がいる場所に持っていきたい

――今回のインタビューでは、「良書との出会い方」ということをテーマに、本選びのプロである幅さんの経験を元にして語っていただきたいと思います。まずは、ブックディレクターという仕事をはじめたきっかけから教えて下さい。

幅允孝さん(以下、幅) 今は本と人が出会うための環境づくりを仕事にしているのですが、小さい頃から自分の好きなものを共有することにすごく興味があったんですね。小学校5・6年くらいのときに観た映画『ドラえもん のび太の大魔境』にめちゃめちゃ感動して、誰に頼まれたわけでもなく「のび太の大魔境最高新聞」なんてものを作ったりして(笑)。

カレンダーの裏に漫画やイラスト入りで書いて、当時は高かったカラーコピーを母親にお願いして、教室の後ろの掲示板に勝手に貼り付けていたのを覚えています。自分が好きなものを誰かが「いいね」と言ってくれると満たされる気がする。今の仕事をしているのも、ベースはそんなところにあるのかなと思います。

――大人になってからは、ずっと本に関わる仕事をされているんでしょうか。

 もともとは2002年ごろまで、青山ブックセンター 六本木店で働いていました。ただAmazonが出てきて、書店に来られる方がどんどん少なくなるのを日々目撃していたっていうのが、やっぱり自分にとって大きい体験ですね。今となっては笑い話なのですが、当時ダイヤルアップでインターネットを繋いでいた時代で、まさかあの遅いインターネットで買い物をするようになるなんて思いもよらず……。

――来店数が減って、売上以外では何か変化があったんですか?

幅 お客様の出入りがあると、立ち読みなども含めて少しずつ本に微熱のようなものがたまっていって、本屋全体に渦巻くエネルギーというのが大きくなる気がしていたんですけど、来店数が減っちゃうとすごく静かな、冷たい場所になってしまったように思えたんです。それで、なかなか人が書店に来てくれないんだったら、人がいる場所に本を持っていくしかないなあと考えはじめました。

それから書店をやめ、ジェイ・アイという編集プロダクションに就職したんですが、その会社でTSUTAYA TOKYO ROPPONGIの選書を担当し、企画を行いました。それがたまたま売れて話題になったということで、本屋やライブラリーを作りたいというご依頼がくるようになって、今年で法人化して10年になります。

本棚

幅さんの事務所には、やはり数多くの書籍が。『焚き火大全』の近くに『ジュージュー』、『たこやき』、『愛と憎しみの豚』が並んでいるのは、何となくニヤついてしまうおもしろみがある。


本ではなくアニメを語る女子高生から気付かされたこと

――「選書をする仕事」と聞いてもあまりピンと来ないというか……。どういったプロセスや哲学で本を選ばれているのか、教えていただけますか?

 僕らがやっているのは、その施設や本棚の利用者と、関心のありそうな本との結び目を探すこと。「結節点」と僕らは呼んでいるんですけど、その本棚を利用するような方々にインタビューをして、彼・彼女らが見たことも聞いたこともないような本を紹介しながら反応を探る、みたいなことです。

たとえば、女子高から依頼を受けて図書館に並べる本の選書を行ったときは、各学年5人ずつ集めてグループインタビューを行いました。これが結構大変で……村上春樹を持っていくと、読んだことある人が15人中1人しかいなくって、吉本ばななを持って行くと、作者自体を知っている人が0人という、ショッキングなことがありました(笑)。

本を説明する幅さん

利用者へのインタビューの際は、できるだけ相手がフラットに物事を言えるように気を使うそう。女子高の場合は、遠慮してしまうので先生を同席させなかった。

――作者や作品を知らない中で、関心のありそうな本を選んでいくというのはすごく難しそうな作業ですね。

 でも、自転車の本を持っていったときに、急に『弱虫ペダル』について熱く語り出す女の子がいたりする。あとは、アニメの『Fate』(※)というシリーズがあるんですけれど、それについて熱く語ってくれる子が2人くらいいたりとか。それを見て、今も昔も「物語を注入したい」という欲は変わらないなあと感じました。物語をデリバリーしてくれる先みたいなのがずいぶん多種多様になっているうえに、それを本に求めない人が増えているだけなんでしょうね。そのために結節点を探すのが必要なんだと思います。

ちなみにその現場で『Fate』が好きだという子に僕は読んでないと言ったら、「本屋なのに『Fate/Zero』を読んでないのはありえないと思います」とか怒られて……。ところが実際読んでみるとめちゃくちゃおもしろくて、ゲームも買ってアニメも見ました(笑)。なんでも勉強ですね。そのゲームの脚本を奈須きのこさんという方が書いているんですけど、実はその人を通じて本の世界を広げることができるんですよ。

――自分が興味を持っていたものが本とつながって、そこから世界が広がっていくんですね。

 そうですね。ゲーム脚本家やプロデューサーのインタビュー集『ゲームの流儀』という有名な本があって、その中で奈須さんが登場しています。読んでみると、綾辻行人さんの『十角館の殺人』が自分に与えた影響が大きかったとか、菊池秀行さんの『吸血鬼ハンターD』シリーズがすごい、といった話が載っている。女子高生たちはそんなことは全然知らずに、アニメイトに行って『Fate』のグッズを買い、作品への興味は閉じてしまっている。だから、そこから一歩踏み込んで作者に興味をもってもらったり、綾辻さんや菊池さんなど、いろんな方向に興味が広がっていってもらうのはすごくいいことなんじゃないかって思いました。

普通に『十角館の殺人』を持っていっても興味をもたないんですけれど、「あの『Fate』を作った人が人生で一番影響を受けたと言っている」と伝えると、ちょっと興味を持ってくれます。インタビューしながら、むこうの欲しいものとこっちがすすめたいものの距離を縮める、といったことをやりながら本を選んでいるつもりですね。

※『Fate』:奈須きのこが所属するTYPE-MOONから発売されたゲーム『Fate/staynight』から始まったシリーズ。これを原作としたアニメ、漫画などの派生作品も多数。