「守高攻低」からの脱却
今年はリオ五輪が開催される前年なので、現時点で22歳以下の選手によってチームが編成されている。手倉森誠監督(47歳)率いるチームが、アンダー22(U-22)日本代表と呼ばれるのはこのためだ。
今年3月に開催されたリオ五輪アジア1次予選当時、チームは「守高攻低」とでもいうべき状況に直面していた。ゴールキーパー、ディフェンダー、ボランチに所属クラブでポジションをつかんでいる選手が並ぶ一方で、攻撃的なポジションには所属クラブで定位置をつかみ切れない選手が多かったからである。
およそ7か月を経て、状況は変わりつつある。アタッカー陣のなかにも、所属クラブで出場機会を増やしている選手が増えているのだ。
国内外で出場機会を増やす若手FWたち
チームの得点源となってきた攻撃的ミッドフィールダー中島翔哉(21歳・FC東京)は、J1リーグ第1ステージでわずか2試合の出場に止まった。しかし、第2ステージではすでに消化した14試合のうち8試合に出場している。中島と並ぶ得点源のフォワード鈴木武蔵(21歳)は、8月にJ2リーグの水戸ホーリーホックへ期限付き移籍した。所属元のJ1リーグ・アルビレックス新潟で、コンスタントな出場がかなわなかったからだ。現在はケガで戦線離脱しているものの、新天地ではゲームに絡むことができている。
ヨーロッパからも頼もしいニュースが届いている。
オーストリア1部リーグのレッドブル・ザルツブルクに在籍する南野拓実(20歳)は、リーグ戦で得点ランキング2位の7ゴールを記録している。移籍2シーズン目で、がっちりと定位置をつかんでいるのだ。スイス・スーパーリーグで3シーズン目を過ごすフォワード久保裕也(21歳)も、しっかりとゲームに絡んでいる。
また、Jリーグ所属選手で日本代表が編成された8月の東アジアカップで、U-22日本代表からキャプテンの遠藤航(22歳・湘南ベルマーレ)、フォワードの浅野拓磨(20歳・サンフレッチェ広島)が招集された。遠藤は9月のW杯予選でもメンバーに名を連ね、本田圭佑(29歳・ACミラン/イタリア)らの海外組とも公式戦でプレーした。10月には南野が日本代表に招集された。
「与えられた環境で結果を残す」
個人の経験値は高まっているが、チームの強化は時間との戦いだ。3月の五輪1次予選後の活動は、7月、8月、9月に一度ずつ集合しているが、総活動日数はわずか10日間(!)である。テストマッチは7月のU-22コスタリカ代表戦だけだ。右肩上がりに成長しろ、と言うほうが無理なスケジュールだろう。
時間が少ないからと言って、ラグビー日本代表のような猛練習をするわけにもいかない。リーグ戦の合間を縫ってのキャンプだけに、過剰に選手を追い込むことはできないのだ。
9月のトレーニングキャンプでは、J3リーグに参戦するJリーグ・アンダー22選抜にU-22日本代表の選手が招集され、手倉森監督がコーチの肩書で采配をふるった。ところが、FC町田ゼルビアに0対1で敗れてしまった。さかのぼれば8月のトレーニングキャンプでも、J2リーグの京都サンガに敗戦を喫している。そうした状況から、「五輪最終予選は大丈夫なのか?」という不安が、チームの頭上に垂れ込めている。
FC町田ゼルビアは、J2昇格を争っている。彼らにとっては負けられない一戦だ。ホームスタジアムに詰めかけたファン・サポーターの後押しもあった。
対するU-22日本代表は、様々な制約に縛られていた。キャプテンの遠藤とJ2リーグに所属する選手が参加できず、招集されたメンバーのなかにも出場時間に制限のある選手がいた。その結果として、試合途中に選手を入れ替え、ゲームの流れを変えることができなかった。
それだけに、手倉森監督は結果を気にしていなかった。選手たちには「勝ち負けはもちろん大切だが、いまはシーズン中だ。ケガだけはしないように」と指示していた。J3リーグという実戦ではあったものの、練習の延長と言ってもいい位置づけだったのである。
強化スケジュールが限られていることについても、指揮官は悲観的にとらえていない。
「それは代表チームの宿命と言ってもいいもので、我々は与えられた時間のなかでチームを強化し、結果を残していくことに集中するだけです」
手倉森監督のもとでチームは一体感を高めている
来年1月のアジア最終予選へ向けて、対戦相手の分析も進んでいる。10月には湾岸諸国が参加した大会を手倉森監督と秋葉忠宏コーチ(40歳)が視察し、最終予選で同グループになったサウジアラビアらの情報を収集した。「いい視察ができましたよ」と、手倉森監督は語る。最終予選突破への自信を問われると、ニヤリと音がするような笑みを浮かべた。
「選手たちもその気になっています」
厳しいスケジュールを乗り越え、6大会連続の出場権を獲得するために。手倉森監督のもとで、チームは一体感を高めている。