起用人数はジーコ以降で最多
ハリルホジッチ監督のここまでの成績は、歴代の代表監督に比べても悪くない。ただ、欧州や南米の強豪との対戦がひとつもない一方で、ロシアW杯2次予選でシンガポールとホームで引き分けたり、カンボジアに苦戦を強いられたりしたことが、チームの印象を悪くしている。ハリルホジッチ監督指揮下でもっとも難しいゲームだったイラン戦も、アウェイで引き分けるのが精いっぱいだった。指揮官への批判的な意見は、「メンバーを固定している」とか「新しい選手を呼んでもすぐに使わない」といった選手起用に集約される。
興味深いデータがある。就任から11試合で、ジーコは31人の選手を起用した。オシムは38人で、岡田は31人である。ザッケローニは34人だ。では、「メンバーを固定している」と言われるハリルホジッチ監督は?
すでに41人の選手を、ピッチに送り出しているのだ。ジーコ以降の監督では最多である。ならばなぜ、「メンバーを固定している」との印象を抱かれてしまうのか?
41人のうち27人までが、就任直後の2試合で起用されているからである。加えて、海外クラブ所属選手を招集できなかった8月の東アジアカップで、国内クラブ所属選手を日本代表にデビューさせたことで、起用人数を稼いだところもある。
ロシアW杯2次予選の首位決戦だった10月8日のシリア戦は、ブラジルW杯の登録メンバーが11人の先発のうち9人を占めた。「新しい選手をテストしたのは最初だけで、結局はこれまでと同じメンバーに頼るのか」という印象が、どうしても拭えないのである。
選手選考にクラブの結果が必ずしも反映されない
ハリルホジッチ監督への不満の種は、もうひとつある。所属クラブで結果を残している選手が、必ずしも招集されていないのだ。分かりやすいのは大久保嘉人(33歳)だろう。
J1リーグの得点ランキングで首位を快走し、今年もまた得点王に接近する彼を、ハリルホジッチ監督は一度も招集していない。同4位の豊田陽平(30歳・サガン鳥栖)もチャンスを与えられていない。今季のJ1でブレイクした武藤雄樹(26歳・浦和レッズ)も、東アジアカップのみの招集に止まっている。
クラブで結果を残している選手は、欧州にもいる。
オランダ・エールディビジですでに5ゴールをあげているハーフナー・マイク(28歳・デンハーグ)が、ハリルホジッチ監督のリストには含まれていない。所属クラブで結果を残している選手が置き去りにされるこうした現状も、「これまでと同じメンバーが頼りなのか」という印象を強めている要因なのだろう。
ブラジルW杯以前からチームの中軸を担ってきた長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)は、18年のロシアW杯を34歳で迎える。1986年生まれの本田圭佑(ACミラン/イタリア)、岡崎慎司(レスター/イングランド)、長友佑都(インテル・ミラノ/イタリア)らも、ロシアW杯開幕時は31歳か32歳だ。チーム全体を見渡しても、このままの顔ぶれなら30歳を超えた選手が一気に増える。現時点での実力に疑いの余地はないとしても、3年後の彼らが漠然とした不安を抱かせるのは否定できない。
現状では未来図を描きにくいハリルジャパン
ハリルホジッチ監督に似た立場で、日本代表の未来を託されたのはオシムだった。監督就任時点では十分に戦力と成り得る経験豊富な選手を、オシムは限られた人数しか招集しなかった。欧州でプレーしているからといって無条件で選ばず、新しい選手を意欲的に呼び寄せた。J1リーグの得点ランキング上位に名を連ねる選手は、ほぼ漏れなくテストした。世代交代を進めながら日本らしいサッカーを目ざし、チームを底上げしていったのである。選手の選考と起用が分かりやすく、たとえ負けても周囲を納得させることができていた。
ハリルホジッチ監督の選手起用からは、結果が求められる公式戦は実績重視で、テストマッチは新戦力にもチャンスを与えるとのスタンスが読み取れる。イラン戦では長友や岡崎をスタメンから外し、将来性のある選手を抜擢した。
ただ、テストは限定的なのである。年齢を理由に選ばれていないベテランがいるものの、世代交代に前のめりでもない。オシムほど若手にチャンスを与えていない。周囲からすると、チームの未来図を描きにくいのだ。
11月にはシンガポール、カンボジアとのW杯2次予選がある。いずれもアウェイゲームで、勝利を取り逃すことのできない戦いだ。そうは言っても、彼我の実力には大きな開きがある。経験豊富な海外組に寄りかからなくても、十分に勝利は見込める。また、勝利しなければならない。
結果とテストの両立を目ざすことのできる相手だが、果たして指揮官の決断は──。