妄想や幻覚が現われるときは現実と非現実の境界が不明瞭になっています。その原因は実は脳内の神経生理学的な不調です
通常は、現実と非現実を間違えることはあまりないことです。統合失調症はときに周囲の人に理解されにくく、場合によっては悪い方向に誤解されてしまうかもしれません。
今回は統合失調症では具体的にどのようなことが誤解されやすいのか、また誤解を防ぐために知っておきたい基礎知識も詳しく解説します。
「幻覚」は遠いようで身近な現象です
もし見えるはずの無いものが見えたり、聞こえるはずのない声が聞こえたら、周囲の人にとってはそれが非現実なことは明らかでしょう。しかし、本人自身は現実のようにそれが見え、聞こえています。こうした幻覚は不思議な現象に思えるかもしれませんが、私たちがこの世で見たり、聞いたりしていることは、脳が視覚や聴覚を通じて自分の周りの世界を認識して作り出したイメージにほかなりません。場合によっては間違ったイメージが作り出される可能性もあり、それが幻覚なのです。
幻覚が起きやすいのは、脳内の神経伝達系、特にドーパミン系の機能に問題が生じたときです。幻覚はその内容、程度によっては大変な苦悩になる可能性があります。もし自分を罵る声が頭の中で鳴り響いていれば、眠る事も困難になるのではないでしょうか。至急、薬物療法によって脳内の不調に対処したいところです。
幻覚は統合失調症の症状の中では周囲が気付きやすい症状ですが、薬物療法による対処は比較的容易になっています。しかし、実は幻覚など周囲に目立ちやすい症状よりも、むしろ目立ちにくい症状の方がその深刻さを過小評価され、場合によっては誤解される可能性があります。
性格のように思えるが、実は深刻な症状である可能性も
顔にあまり表情が浮かばない。おいしい食事を食べても、あまりうれしそうにならない。活力があまりなく、やりたい事も特にないように見える。動作があまりきびきびとしていない……。こうしたことは時に周囲にネガティブな印象を与える可能性があります。そしてパーソナリティや生活態度に何か問題があるような印象を与えるかもしれませんが、実は統合失調症で現われる可能性のある症状です。
通常ならば顔に浮かぶはずの喜怒哀楽など、本来あるべき、あるいは見られるべきものが無いという意味から、こうした症状は「陰性症状」と呼ばれています。
陰性症状は妄想や幻覚などの「陽性症状」と比べて目立ちにくいですが、日常生活を送る上で何らかの問題を生みやすいことには変わりません。その内容と程度によっては、仕事が長続きしない、あるいは良好な対人関係を維持しにくくなる可能性もあります。
統合失調症の中にはパーソナリティや生活態度の問題と誤解される可能性もある、一見症状には見えにくい陰性症状もあること、そして、誤解は本人の心を深く傷つける可能性もあることはぜひ知っておいてください。
統合失調症に対するネガティブなイメージは通常間違いです!
統合失調症は脳内の神経生理学的な不調が原因の病気であること、薬物療法などによる治療法が効果的になっていることは今日、広く認知されてきていると思います。実際、こうした治療により、日々充実した生活を送られている方は少なくありません。しかし、依然として一昔前のように統合失調症は一般の病気と比べて何か違う病気のような、ネガティブなイメージがあるかもしれません。
具体的な内容としては、「症状はその人のパーソナリティを反映しているのではないか」「統合失調症を発症する人は知能(IQ)があまり高くないのではないか」あるいは「これから社会的に機能していくことは不可能なのではないか」といった印象があるかもしれません。
こうした強いネガティブなイメージは何らかのケースにもとづく場合もあるかもしれませんが、通常はかなり、あるいは完全に間違っていることはぜひ知っておきたい事です。
上の例でも、統合失調症の症状はその人のパーソナリティなどではなく、脳内の不調を反映していることをご説明しました。誰でも脳内の機能に不調が生じれば、同様の症状が現われる可能性があります。
また、統合失調症ではIQは通常正常範囲です。また、冒頭でも述べた通り、治療により充実した生活を送られている方は少なくありません。そのためには、いかに早く必要な治療を開始したかは重要な要素です。もし統合失調症と診断されると周囲の扱いが変わるのではないかといった意識が強くなっていたら、精神科(神経科)受診はかなり遅れてしまうかもしれません。
このようにネガティブなイメージは様々な問題を生み出す可能性があります。これを払拭していくためには、まず病気に対する理解を深めることが大切だと思います。
最後に繰り返しますが、統合失調症に対する強いネガティブなイメージは、通常間違いであることはどうか知っておいてください。