注文住宅/家づくりを始める前に・心構え・トレンド

家づくりは、なつかしい時間をつくること

家族での旅行、団らんなど思い出はたくさん。印象として大きいのは、家の中ですごすことが多い人生、やはり家の中での出来事という人が多いのではないでしょうか。そう考えると、家づくりは「なつかしい時間をつくること」とも言えます。

佐川 旭

執筆者:佐川 旭

家を建てるガイド

時間はためておくことができません

多くの人が一生懸命生きて、その日その日を充実したいと思い、さまざまなことを考え目的に向かって行動しています。時間は止まってもくれず、ためておくこともできません。

人生を歩んでいく思い出や経験は積み重なり、それが記憶となって、時にはなつかしい時間となっていきます。

家族での旅行、団らんなど思い出はたくさん。印象として大きいのは、家の中ですごす時間が長い人生、やはり家の中での出来事という人が多いのではないでしょうか。そう考えると、家づくりは「なつかしい時間をつくること」とも言えます。

とどまっているものを耕す作業

人間の生活の中枢をなしてきて、それぞれが時間をかけて育ててきたのが記憶です。人は記憶によって育てられ、記憶によって導かれて自分にとって大切なものを手に入れてきました。

そう考えるとまず第一に、自分がこれまで住んできた住まいの歴史をひもとく必要があります。

ただ単に過去のなつかしいものばかりではなく、きちんと自分の心の中にとどまっているものがあるはずです。そのとどまっているものを現代の技術や方法で掘り起こし耕すことです。その耕し方は自分自身や信頼できる人との協働作業で、実りあるものになるはずです。

日々の記憶を大切に育てる

家をつくることは言ってみれば家族の記憶を書き込むことです。楽しさ、うれしさ、悲しさ、そして驚きなどを書き込むことによって自分をつくりあげる記憶となるのです。

記憶というのは覚えているというのではなく、自ら見つけ出すことです。人間は忘れる生き物なので記憶の断片を拾い集め、そしてジグソーパズルのピースをはめるようにまとめる作業をすることです。

ただ近年、考える力や感じる力をパソコンの記憶に頼っている様にも感じます。自分を確かなものにしていくことは、日々の記憶を大切に育てていくこと。家づくりを通してあらためて意識していきたいポイントです。


受け止める力が大切

一方、受信についてはどうでしょうか?情報社会の中では誰もが気軽に発信できるようになりました。情報産業というのはある意味「発信産業」と言っていいのかも知れません。したがって誰もが発信する力を引き出すことに力を注ぎます。

しかし受信する力は発信する力に比べるとやや衰えているようにも感じます。家づくりもさまざまな発信を受け、それに対して受信していかなければならない作業がいくつもあります。

どのような心構えや受信の仕方がいいのかを確認しながら考えていくことも大切です。

暮らし方の哲学

一般に人間は働いてお金をため、そのお金を使って何かを手に入れます。日々の活力は常に「何かを手に入れようとすること」かも知れません。しかし、手に入れた瞬間から活力は衰退していくように思います。つまり手に入れたものをどう使うかという使い方の哲学が乏しいのです。

住まいにも同じようなことがいえます。手に入れるまではいろいろ調べたり一生懸命ですが、その後の住み方にはあまり気がまわりません。心のあり様が育つには、やはり住み方がとても重要です。

時代は手に入れるだけの文化から、使い方(暮らし方)の哲学をもつ文化への転換が必要なのです。そうすることで思い出が記憶となり心の中にとどまるものが生まれてくるでしょう。

古きものから学び未来に振れていく力を知る

新しい本も大切ですが古い本の中にも今もって新しく、現代を生きる我々にたくさんの示唆を与えてくれます。

家づくりと直接の関係はありませんが、大佛次郎(おさらぎ じろう)の「日附のある文章(創元社1951年)」の巻頭に、樹を植えるという一節があります。「生活の幸福」について書かれ、今から64年前の文章です。樹を通して家族の共感力や死生観を表現しているのだろうと思いを巡らせます。
「もっと人が木を植える習慣が出来たら、この世は更に楽しいものに成るように思う。更に私は、人が死んだら墓碑として、好きだった木を植えるようにしたら、とまで考える。石塔ではなく、木は成長するし、繁って行く。死んだ人に代って生きて行くのである。木が枯れるのは何十年か先であろう。花の咲く木を選んだりしたら、墓地がこれまでと違い、如何ばかり明るくなることだろうか。
赤ん坊が生れた限り、必ず、一本の樹を親たちが植える。人それぞれのトオテム・ポールのように。そんなことにも空想は及ぶ。場所は都市がその為に地面を提供するのである。恋人同士は、あなたの木は何ですかと尋ねることもできれば、恋人の木の下へ連れ立って憩いに行くことも出来る。そんな風にする習慣が出来たら、墓地のみならず、人間の住む土地が、どれほど美しく変貌することであろうか?」
引用『大佛次郎「日附のある文章(創元社1951年)』

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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