深い深い海底、進まない封じ込め
事故発生以来、BPは最終措置として現在の油井の近くに2本井戸を掘り、掘削穴に向けて泥水やセメントを注入して油井を封鎖する作戦を取っていますが、作業が終わるのが8月の予定です。それまでの暫定措置として何度も流出を封じ込めるための作業を実行していますが、とにかく海の底深くなので作業が極めて難しく、まだ成功にはいたっていません。パイプの破損部分にコンクリートのふたをかぶせて、ふたに付けたチューブから原油を吸い取る方法は失敗。事故時に作動しなかった噴出防止装置を潜水艇で手動で作動しようとした作業も失敗しました。
BPは5月26日から、これまでで最大規模の封じ込め作戦である「トップキル」作戦を実行。「トップキル」作戦は海底にある油井に大量の泥を注ぎ、最終的にはセメントで泥を固めて流出を防ぐ方法です。
しかし、3日間「トップキル」を実行した後、BPは「作戦失敗」と発表。延べ3万バレルの泥水をポンプで最大毎分80バレルの勢いで注入したものの、油とガスの流出力がそれより強く、抑えることができなかったことが失敗の理由です。「トップキル」作戦が失敗したため、BPは次の作戦準備にかかりました。
これから行われる予定の作戦としては、深海ロボットを使って流出しているパイプを切り取り、防噴装置上部にあるLMRPという装置にキャップをして、そこから海上に停泊している掘削船まで原油とガスを吸い上げる「LMRP」作戦などがあります。
誰がこの責任を取るのか?
史上最悪となった原油流出事故に対して、一体誰がその責任を取るのでしょうか? 推定被害額は、最終的にいくらになるのか見当もつきません。流出は現在でも続いており、それがいつ止まるのか分からない限り、最終的な被害の規模もわかりません。5月末時点ですでに被害額は、数百億ドル(数兆円)にも達すると見込まれています。現地の原油掘削に関わっている企業は、主に以下の4社。5月11日にアメリカ上院で公聴会が開かれ、4社の内3社のトップが呼び出され、事故原因について話し合われました。
■BP
現地における油田採掘権を持つ、イギリスの石油メジャー。事故後の封じ込め作業は主にBPが指揮。公聴会では、「採掘施設の運営・点検を担当しているトランスオーシャンに事故の責任がある」(CNN)と主張。
■トランスオーシャン
スイスに本社を置く、世界最大の海底掘削機メーカー。事故が起こった採掘施設であるDHの運営と点検を担当。公聴会では、「油井を支えるコンクリート構造に問題があった。設置時にそれらを考慮していれば事故は起こらなかった」(CNN)と、自社の責任はないことを主張。
■ハリバートン
アメリカの石油や天然ガスの生産設備メーカー。DHの設置工事を担当した。公聴会では、「うちはBPの指示に従っただけであり、事故の責任はない」(CNN)と主張。
■現代重工業
韓国の作業機器メーカー。DH自体を最初に製造したのは、現代重工業と発表されています。DHは製造後にR&Bファルコンにという会社に売られ、その後R&Bファルコン自体が、トランスオーシャンに買収されました。公聴会には呼ばれませんでしたが、事故の責任について問われた際には「製造後10年以上が過ぎ、アフターサービス期間も終わっている。うちには関係ない」と主張。
結局のところ、どの企業も「うちの責任ではない。他社の責任だ」と主張して、責任になすりつけ合いを展開しているだけ。数兆円とも見られる天文学的な賠償額がかかってくるので、どこも自社の責任だけはなんとかして逃れたいと思っているのが現状です。