介護職側がよかれと思ってしたことでも……
在宅介護のサービスはおもに利用者の自宅という密室で提供されます。加えて第三者の目が入る機会もほとんどないため、利用者と介護職が「危険な関係」に陥りやすいともいえます。ここでは介護福祉士国家試験の模擬問題から、在宅介護の現場における利用者と介護職が陥りやすい危険な関係について考えます。
【事例】
Aさん(97歳、女性、要介護5)は、12年ほど前に脳卒中を発症。その後、右半身麻痺と会話も困難となる失語症となりました。
介助があれば食事も可能ですが、最近はむせることも多く、肺炎のおそれもあります。医師は入院して胃ろう(胃から直接栄養を注入する)を設置することをすすめましたが、同居する長女(72歳)は自宅で最期を迎えることを望んでいます。
そのため、訪問看護、介護福祉士(ヘルパー)による訪問介護を利用して終末期のケアをすることになりました。
現在、Aさんは日中でも寝ていることが多くなり、長女の声かけに対する反応もなくなっています。
介護福祉士とAさんの長女との関わりに関する以下の記述のうち、最も適切なものを一つ選びなさい。
1 栄養士による栄養指導を勧める
2 医療機関の緊急連絡先を確認する
3 疲れた様子の長女に簡単な食事を用意する
4 長女から不安だと相談を受けた際は、その気持ちを打ち消すように励ます
5 長女から外出の希望があったら、Aさんに付き添っているよう促す
(参考:『介護福祉士国家試験模擬問題集2015』 中央法規出版 2014年より筆者が一部改変)
1は×。終末期には栄養を摂ることより本人が希望するものを提供することを優先させます。
2は○。急に容体の変化に備えて、医療機関の緊急連絡先を確認しておくことは大切です。ちなみに、自宅で介護をしているお宅に伺うと電話機の周辺の壁などに医療機関などの緊急連絡先を書いたメモや関係機関の担当者の名刺を貼っているケースが多く見受けられます。
3は×。疲れた様子の長女に同情するのは理解できますが、訪問介護で行う生活援助は家族のための食事づくりは含まれていないためNGです。
4は×。ご本人の不安な気持ちを打ち消すのでなく、ありのままに受け止めて寄り添う姿勢が望まれます。
5は×。介護福祉士(ヘルパー)が家族の行動を制限するような発言をすることは、職務の範囲を超えています。また、さらに母親と離れる時間をもつことは、介護で疲弊していると思われる長女にとって気分転換になるかもしれません。
上記の回答で実際に介護職が陥りやすい行為のひとつが3のパターンではないでしょうか。家族のことを思うあまり、つい行ってしまいがちな行為といえます。
「危険な関係」に陥らないために
家族に対してのみならず、本来してはならない行為をしていた介護職に遭遇したことがあります。自宅で採れたという柿を利用者宅に「おみやげ」として持参するほか、利用者宅で堂々とお茶とお菓子を頂き、お客様のようなもてなしを受けていたこともありました。
本来行うべきサービス以外のやりとりをする「危険な関係」は後々トラブルに発展しかねないので要注意です。過剰なサービスを行うことで、利用者・家族と、サービスを提供するスタッフという関係性が曖昧になることもあります。
私が取材したなかで、利用者が「以前ヘルパーさんにあげた○○をすべて返してほしい」と事業所に苦情を訴えてきた方がいて、トラブルになった事例もありました。
こうした関係に陥らないためには、利用者や家族が「真に望んでいることはなにか」を常に考えて行動することではないでしょうか。
利用者や家族から「よく思われたい」という自分の気持ちから生じる行為だと思いますが、後々トラブルに発展するかもしれないことを考えると、利用者・家族からはそれは「望まれない行為」なのです。
利用者や家族から信頼を得る一番の近道は、「まず自分がするべき業務をしっかりと行う」こと。そうすれば、自分中心に会話をしたり、サービスが疎かになることもないはずです。
介護職にとって大事なことは、自分の能力、性格、価値観などを理解する「自己覚知」であることは以前のコミュニケーションに関する記事でも述べているとおりです。
最期が近づいている母親に対してもう十二分に頑張っている長女に対して励ます(4の回答)、あるいは付き添うそうように促す(5の回答)も、介護職が「まず自分の思いありき」に陥っている対応です。
模擬問題を通じて、ぜひ日頃のご自身の業務について振り返りを行ってほしいと思います。
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