ドミンゴ以前の『オテロ』
ドミンゴ以前には、マリオ・デル・モナコがオテロの声がオテロの理想でしたが、彼のオテロは、ヒステリックで暴力的でした。メトロポリタン歌劇場管弦楽団によるこのバージョンで、オテロの敵役であるイアーゴーとの掛け合いの場面には、鳥肌が立ちます。ヴェルディを歌わせたら右に出るものはいないと言われるレナード・ウォーレン は、イアーゴーのははまり役です。デスデモーナ役のビクトリア・デ・ロス・アンヘレスは、歴代のデスデモーナの中でも最高。録音自体も1958年にしては悪くありません。
ジョン・バルビローリ の指揮とディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ のイアーゴー、フィルハーモニア管弦楽団 のバージョンは、この3者のコンビネーションが素晴らしいのですが、残念なことに、肝心のオテロとデスデモーナ役があまり上手ではありません。オテロ役のジェームズ・マックラッケンは、イタリア語も下手で、ヒステリックな声で台無しになってしまっています。
デジタルレコーディングが好きな人には、チョン・ミュンフンの指揮で、ドミンゴのオテロのバージョンをお勧めします。ここでは、ドミンゴの声はバリトンに近くなっていますが、相変わらずの名声です。現代版としては、一番のお勧めです。
最後に、ガイド一番のお気に入りをご紹介します。トスカニーニ指揮、1947年のモノラル録音です。
指揮者と歌手達の力量が音の粗さなど全く気にさせません。トスカニーニの指揮は力強く、作品の最初から最後まで聴衆をしっかりと導いていきます。ラモン・ヴィナイは、オテロ役で今でも語り継がれている歌手です。ヴィナイは、暴力的で、嫉妬深く、絶望的なオテロの性格を完璧に表現しています。
ジュゼッペ・ヴァルデンゴもイアーゴー役で名を馳せており、明確な発音で、優雅にイアーゴーを歌いあげています。世界中の評論家に愛されているバージョンです。