愛と嫉妬の音楽
『オテロ』は、シェークスピアの小説で、べネチアのモーロ人将校であるオテロの物語です。オテロは大変嫉妬深いため、愛する妻デスデモーナを疑って殺害してしまい、最後には自分も自殺します。オテロの悲劇は、複雑な心理と矛盾を抱えたオテロや他の登場人物を巡って展開していきます。作曲家ヴェルディは、マクベス、リゴレット、ドン・アルバロなどドラマチックな人物描写を得意としていましたので、オテロの複雑さに惹かれて作曲を手掛けたのかもしれません。
『アイーダ』で引退するはずが
実は、ヴェルディは、『アイーダ』でオペラの作曲を引退すると決めていました。『アイーダ』は、『オテロ』以前に、スエズ運河落成の記念に書かれた曲です。ヴェルディはもうお金を稼ぐ必要もなく、疲労しきっていたのです。編集者リコルディと、ヴェルディの友人が、ヴェルディに再びシェークスピアの作品でオペラを作曲するよう勧めたと言われています。ヴェルディは悩みましたが、最後には友人たちの提案を受け入れることにしました。台本作家のアッリーゴ・ボーイトの協力を得て、ヴェルディの才能は『アイーダ』で果てず、『オテロ』、『ファルスタッフ』へと注ぎ込まれるのです。
プラシド・ドミンゴのはまり役
オテロを歌う歌手は、テノールで、ドラマチックで力強い声を持っていなければいけません。オテロは非常に難しい役なので、現在の若手の歌手には荷が重いようです。プラシド・ドミンゴが歴代のオテロの中で一番のはまり役とされています。ドミンゴは、オテロの細部までを研究し尽くしていて、数えきれない程の公演に臨んでいるので、録音でも彼のオテロを楽しむことができます。
なかでも、カルロス・クライバー指揮、ミレッラ・フレーニとピエロ・カプッチルリと共演したバージョンが一番のお勧めです。録音自体は平均点ですが、音楽の解釈がとても豊かなのです。