「転倒」は目に見えない大きな後遺障害を残す
歩けるようになっても、「また転ぶかもしれない」という恐怖感が日常生活の自立を妨げる原因になります。
特に高齢者の場合は、一度転倒を経験すると「また痛い思いをするかもしれない」という目には見えない気持ちが大きな障壁となりがちです。骨折部分が治癒してきちんと歩けるようになっているにも関わらず、痛みや恐怖を理由に閉じこもりがちになったり、身支度や食事、掃除、洗濯などの身近な日課でさえ依存的になり家族や支援者を悩ませます。
転んだ経験がなくても「転倒恐怖感」が増すのはなぜ?
実際に転んで怪我をした経験がなくても、多くの高齢者が「転倒恐怖感」を感じています。病気や障害の有無に関わらず、年齢が高くなればなるほどその気持ちは強まる傾向にあります。一般的に、高齢になると筋肉量が減少するだけではなく、周囲の状況に応じた素早い筋収縮が困難になると言われています。同時に、危険を察知するのに必要な視知覚、身体が斜めになった時に姿勢を立て直す反射的な能力、判断スピードなどが全般的に衰えて行きます。身体が徐々に衰えていくなか、長年通い続けた場所や人混みのなかでバランスを崩しかけたり、ほんの少し身体を押されただけで荷物を落としてしまうなどの僅かな「ヒヤリ・ハット」の積み重ねが、言葉にならない恐怖や不安へと変わっていくのです。
また、目眩やふらつき、倦怠感を症状とする疾患や、安全な移動・歩行を阻む白内障、末梢神経障害、高血圧症や不眠症に用いる薬剤の副作用が影響していることも考えられます。心身ともに健康、体力も年齢相応という高齢者が、同年代の友人が転倒したのをきっかけに転倒恐怖感を抱くといったこともしばしばです。
「転倒恐怖感」を克服するためのアイディアと注意点
- 原因を明らかにし生活範囲を狭めない・拡大する工夫を
歩行時に突如現れる痛みが転倒恐怖感を強めていることもあります。
- 運動の数や量にばかり固執せず暮らしのなかで具体的な目標を持つ
- 過剰な期待・心配は逆効果
「また転ぶから一人で動かないで…」
本当の能力(できる・できない)に沿わない過剰な期待や心配は、本人の焦りや不安を煽ります。ふだん意識することはありませんが、私達が安全に歩行しようとする際、骨や筋肉、内臓だけではなく、全身のあらゆる感覚をフル稼働させています。人ごみや騒音が激しい場所を歩くのと同様に、周囲の余計な視線や声が集中力を妨げ不安を助長する恐れがあります。周囲で応援する家族や支援者は、できるだけ「マイペース」で取り組めるよう環境に配慮し成果を見守っていきましょう。