ときどき、すべてから逃げ出したくなる
――先が見えないのがつらいですよね。カオリ:ええ。すべて捨てて逃げ出したくなることもあります。去年だったかなあ、一度、新幹線に乗ってしまったことがあるんです。東京から静岡まで行って1泊して、母をひとりきりにして……。
だけどやっぱり気になって、すべてを捨てることはできなかった。帰ってきたら、家の中はめちゃくちゃ。母が手当たり次第に物を投げていて。
――お母さんは、話ができない?
カオリ:事故で脳をやられたみたいで、こっちが言っていることはわかるんですが、自分が言いたいことがうまく整理できないみたい。ちゃんとリハビリすればよかったけど、父とふたりだったので、私もなかなかそこまで手が回らなくて。支えれば歩けるんですが、私を頼るから、なかなかひとりで歩けるようにならない。
――日々、何を考えて生活していますか?
カオリ:日常生活を送るだけ手一杯。体が重くてもだるくても、仕事に行かなければ食べられない。頼る人もいないし、息抜きできるほどのお金もない。
自分が辞めたくて仕事を辞めたわけじゃないけど、もしこの先、母が死んでひとりになっても、おそらく正社員の道なんてないわけですよ。今度は私が生活保護を受けなくてはいけない。お先、真っ暗です。
――理不尽な人生だと思ったりします?
カオリ:思いますよ。結婚はおろか、恋愛すらできないんですから。私はもともと母とはあまり折り合いがよくなかった。それなのに、こんな人生を送るはめになるなんて。
ーーそれでも、なにか先に夢は抱けませんか。
カオリ:先に希望が見えたら、もう少しがんばれるような気もしますけどね、具体的に何がしたいとか思わない。今は、本音を言うと、母に早く死んでほしいと思う。そして、そう思うそばから、私は人間として終わってるとも思います……。
人間、どこでどうなるかわからない。ここでカオリさんが倒れたら、母娘共倒れである。大学を出て、意気揚々と社会人になり、生き生きと働いていた10年前の自分を、カオリさんは「もう忘れた。思い出したくもない」と吐き捨てるように言った。
励ます言葉も、慰める言葉もない。
■短期集中連載【アラフォーの“傷跡”。ずっと誰かに言いたかった】
次回は、自身の「性的願望」を持て余す女性のお話です。
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