J1の上位がチームの7割を占める
ハリルホジッチ監督(63歳)が選んだ23人のメンバーは、ほぼ予想どおりと言っていい。第1ステージ優勝の浦和レッズから5人、同2位のFC東京から4人、同3位のサンフレッチェ広島から2人、同4位のガンバ大阪から5人と、上位4チームだけで17人を占める。全体の7割以上だ。
残る6人は名古屋グランパスから2人、川崎フロンターレ、鹿島アントラーズ、湘南ベルマーレから、それぞれひとりずつ選出されている。さらに、J2リーグのセレッソ大阪から、昨夏のブラジルW杯に出場した山口蛍(24歳)がピックアップされた。
ハリルホジッチ監督が選んだ23人は、J1リーグ第1ステージで10位以内のチームの選手だ。11位以下からは、ひとりも選出されていない。結果を残しているチームで、存在感を発揮する選手を集めたわけである。
「走れるチーム」から選ばれたのはごく少数に
Jリーグは今年から、公式ホームページ上でJ1リーグ各クラブの走行距離をデータ化している。ここで言う走行距離とは、運動量と考えてもらっても構わない。走行距離の読み取りかたは様々だ。
走行距離の多いチームは、攻撃にも守備にも多くの選手が絡む。相手のボールに対して複数の選手がプレッシャーをかけ、マイボールにしたらパスコースをできるだけ多く作ろうとする。奪ったボールをすぐに前線へ蹴り込み、ひとりかふたりのフォワードに得点を委ねるような攻撃はしない。チャンスがあればそういった攻めも選ぶが、基本的には全員で攻め、全員で守るというサッカーである。
サッカーは足でボールを扱いながら、相手チームと得点数を競い合うスポーツだ。走ることは目的ではなく、勝つための手段である。走行距離が相手より多くなくても、勝負に勝つことはできる。
ただ、対世界という視点に立つと、我々日本人は「走る」ことの重要性を噛み締めるべきである。日本人選手は技術に優れると言われるが、日本人より体格に優れる外国人選手は、足の長さや筋肉の質が違う。
分かりやすいのはブラックアフリカの国々だ。日本人同士では予想もできない角度から、足がボールに伸びてくる。世界的に高いと言われる日本人のテクニックが、身体能力によって封じられてしまうことがあるのだ。身長差や身体の強さによって、技術をねじ伏せられることもある。
走行距離を問うのは、もはや世界的な傾向だ。昨夏のブラジルW杯で優勝したドイツの国内リーグ『ブンデスリーガ』でも、走ることを前提とした攻防が繰り広げられている。
そこで、J1リーグの走行距離である。
今回のメンバーに最多6人を送り込むガンバの走行距離は、J1リーグ18チーム中15位だ。浦和は11位、FC東京は13位、広島は12位である。
その一方で、平均走行距離でトップ5を形成する湘南、松本山雅FC、ベガルタ仙台、横浜F・マリノス、アルビレックス新潟からは、東アジアカップのメンバーにひとりしか選ばれていない。湘南の遠藤航(22歳)だけだ。
トップ10まで対象を広げても、ひとりしか加えることができない。平均走行距離が6位の鹿島アントラーズから、柴崎岳(23歳)が23人に名を連ねるだけだ。
J1リーグで「走っているチーム」から、ほとんど選ばれていないのである。
「いつでも、どこでも、どのようにでも走れるチーム」に
走行距離や運動量にまつわる議論には、「単純に距離を評価するのではなく、いつ、どこで、誰が、どのように走るのか」に着目するべきだ、との意見がつきまとう。ワールドカップで優勝するには、約1か月で7試合を戦い抜かなければならない。五輪の男子サッカーで表彰台へ上がるには、約20日で6試合を消化しなければならない。どちらも激しい消耗戦だ。1試合のなかで、あるいは大会を通して、走る量に強弱をつけなければ目的は達成できないとの考えは成り立つ。
僕個人は少し違う。
「いつ、どこで、どのように走るのか」を無視するつもりはないが、「いつでも、どこでも、誰でも、どのようにでも走れる」チーム作りを、Jリーグ各クラブは目ざしていくべきではないかと思うのだ。「技術に優れる選手」ではなく、「走りながらの技術に優れる選手」を、育てていく。それこそが、日本サッカーが世界のトップクラスと肩を並べるための前提条件である、と。
ハリルホジッチ監督が、東アジアカップでどのようなサッカーをするのかは分からない。日本代表経験の少ない選手を多く招集しているから、おそらくはテストの意味合いを持った選手起用をしていくのだろう。
選手の組み合わせやシステムに関わらず、ハリルホジッチ監督には「走る」ことを選手に求めてほしい。日本サッカーが進むべき方向性は、日本代表から示していってほしいのである。