介護

避難住民による助け合いが高齢者の介護を予防する

高齢者が「要介護状態」に陥る原因は病気やケガだけではありません。2011年3月に発生した東日本大震災では、地震や津波から一命は取り留めたものの、その後の避難生活の影響で要介護状態に至ったケースが多々みられました。専門職による支援が始まるまで時間がかかる場合もありますので、まずは身近にいる避難者同士で、高齢者が「自分から」「安全に動ける」よう配慮していくことが大切です。

執筆者:中山 奈保子

日常的な介護予防

大規模の自然災害では、それまで当たり前にあった日常が全て奪われてしまうことも少なくありません。

いつも元気に過ごしている高齢者でも、日常生活の何気ない変化により要介護状態が加速化してしまうケースが多々見られます。

家族や友人、可愛がっていたペットとの離別、引っ越し、家族間でのちょっとしたルールの変更など、高齢者が長年かけて築きあげてきた習慣がゆらぐ時、心と身体に大きなダメージを与えます。その典型例として大震災後の避難生活が挙げられます。

【参考】日常生活の急激な変化は、高齢者を要介護状態にする

混乱する災害発生直後の避難所と高齢者

大勢の住民が着の身着のまま一斉に逃げ込む避難所。2011年3月に発生した東日本大震災では、海から200メートル程離れた場所にあるガイドの自宅は2階の床まで津波が浸水。震災発生3日目、自宅からやっとの思いでたどり着いた避難施設では、寝床や荷物の置き場を確保しようと人が争うように行き交い、家族の安否がわかり歓喜に湧く姿もあれば、不安と悲しみのあまりに呆然と立ち尽くす人も見られました。

食糧や物資の配給がいつどこで行われるのか正しい情報が得られず、何度も間違った情報に惑わされました。電気が復旧しておらず、日が落ちれば辺りは真っ暗闇。朝まで後どの位?と思い時計を見ても、針は地震発生直後の時間で止まったままでした。足を屈めたまま小さな鞄を枕にして横になり、突然の大きな余震に何度も目が覚める…そんな日が何日も続いたのです。

そのような状況でも若い世代の大人や学生は、前に進もうと必死でした。もちろん、高齢でもリーダーとして活躍する人もいましたが、昼夜問わず狭い場所にただじっと座り込み「ただ周囲の指示を待つのみ」になっている高齢者も少なくありませんでした。

狭い場所に座ったまま・寝たままでいるとどうなるか?

避難所での介護予防

「自分より大変な人がいる…」といった気持ちから、困ったことを打ち明けられずにいる場合もあります。

同じ姿勢のまま長時間過ごすことで発症するエコノミークラス症候群が真っ先に心配されます。また、以前の記事でも紹介した「生活不活発病」により心身機能が低下し、あっという間に要介護状態に陥る可能性も大です。さらに、ボランティアによる支援が増え始めると、自分から動かなくても「やってもらえる」という依存的な生活から抜け出せなくなってしまう恐れもあります。

避難住民同士の助け合い
「どうして動けないでいるのかな?」という視点から

医者や看護師、保健師などの専門職やボランティアの支援を受けられるようになるまでの間、できるだけ早い段階から周囲の避難者がちょっとした配慮を行うだけで、その後の避難生活が大きく変化してきます。高齢者が安全に「自分から動ける」ようになるために、避難者同士でできることの例を以下に紹介します。

「いつも使っている杖やメガネ、補聴器を置き忘れてきた?」

ふだん歩く時に使っている杖やメガネ、補聴器を自宅に置き忘れて来てしまっているかもしれません。杖がないと歩けない、メガネがないと遠くまで見渡せない、補聴器がないと周囲の声や危険を察知できない。そのような理由で「自分から動く」気持ちを失っていることがあります。

■一時的な対処方法は?
杖がなくて歩けないでいる時は、丈夫な棒など杖の代わりになるものを準備します。杖の長さは、使用する人が立った状態で「腕を伸ばし手を下にまっすぐ降ろした状態で手首の高さとなる位置」もしくは「大腿骨の上側にある大転子(外側に触れる突起)の位置」を目安にします。もちろん、個人差がありますので、一度歩いてみて、高さや握り部分の太さを調整するようにします。

メガネや補聴器が手に入るまでは、やはり付き添いが必要になります。周囲の人が「移動するのに手助けが必要」ということがわかればお互い声をかけやすくなりますので、本人の了承が得られれば、目立つ場所に「歩くのに手助けが必要です」などと掲示しておくと良いでしょう。

「痛みがひどくて立ち上がれないでいる?」

避難所での介護予防

体調に合わせて、軽い運動や散歩を少しずつ取り入れ、運動不足を予防することが大切です。

もともと膝痛・腰痛がある場合や避難する途中で足腰を痛めてしまい、動けなくなっているケースもあります。その場合、低い床に座っているとなおさら立ち上がりにくくなってしまうため、椅子を準備するか、壁や手すりのある場所に移動してもらいます。痛みが強い場合は、しばらく安静を保ちますが、少しずつ動く時間を増やしていくことが重要です。

また、夜間の「寝る姿勢」に配慮しておくことも大切です。避難所では、狭い場所で足を伸ばせずにいたり、大切な物が入っている鞄を抱いたまま寝ているというケースが多々みられますが、節々の痛みを助長させる心配があります。足腰に問題を抱える人ほど、全身をリラックして眠れるようスペースを確保したいものです。

「行きたい場所が遠い?」

「トイレが遠くてまだ一度も行っていない」…ガイドが避難した震災発生3日目に出会ったお年寄りが、そのように話していたことを覚えています。確かにトイレは遠く、そこに至るまでの通路も人や荷物で塞がれています。電気が回復しておらず、日中はなんとか動けても夜間は全く前が見えない状況でしたので、まずはトイレに近い位置にいた避難者の方に理由を伝え、場所を空けてもらうようお願いしました。

避難所に、専門職の支援が入るまでには時間がかかる

加齢に伴い、新しい環境に適応していくために必要な脳機能、自律神経系の機能は徐々に低下していきます。じっと動かないでいる高齢者を見かけたら、ここで紹介したような視点で「自分から動けないでいる理由」を探り、できる範囲で必要な改善を図るよう、避難住民同士が力を合わせていくことが大切です。

また、車内などの狭い場所で長時間過ごしている場合も要注意です。筋力低下や歩行困難だけではなく、持病の悪化や呼吸困難、循環機能障害を引き起こす恐れがあります。そういった様子をみかけたら、声がけや注意を促すようにしましょう。

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