住まいづくりは、思考・選択・決断の連続作業
一般に野球で1000本ノックと言えば、バッターボックスからコーチなどの打者役がその場でボールを打ち、それを捕球し速やかにホームベースまで戻す、この一連の動作をノック1本とし、これを1000回続けることです。とても大変で1000本としたのは、おそらく終わりなく延々と続けることに対する比喩なのでしょう。実は住まいづくりにも同じようなことが言えます。1000本まではいかなくとも700~800ぐらいの質問を受けます。それについて考え、選択し判断をしていかなければなりません。住まいづくりはまさに思考の連続作業なのです。
例えば、どんな思考がありますか?
まずはじめに建物をイメージする際、洋風か和風か、それともそれ以外の外観が好きなのかを見て歩いたりします。そして構造は、木造か鉄骨か鉄筋コンクリートにするかを決めます。さらに工法は木造の場合だと、在来、2×4、プレハブのどれにするか決めなくてはなりません。当然決める判断には、予算はもちろん何を大事にしているかによって変わってきます。他には、配置計画、間取り計画、キッチン、浴室、トイレなどの設備機器、床や壁や天井の仕上げ材、照明といった具合に、次から次へとサンプルなどを見ながら、あるいは自分のイメージだけで決めていかなければなりません。これがおそらく、700~800くらいの項目があるということです。
住まいづくりは夫婦研修の場と考える
このように、住まいづくりは自分が培ってきた価値観やこれからの人生に対して、いくつもの質問状を受けとることです。したがって、野球のノックで始めは元気よく軽快なリズムで動いていても長く続くと鈍るように、住まいづくりも途中になると、前に選んだものと今度選ぶものとが、どういうバランスになるかイメージしづらくなるのです。そしてあれこれ迷い時間もかかり「エイッ」と決めても、実際の製品がきたらイメージと違うということが起きてくるのです。さらに夫婦と言っても人生初めての住まいづくりです。これまで見てきたもの、人生観は必ずしも一致しません。したがってその会話も意見を出し歩みよりながら努力することが大切です。
まさに研修の場です。でもそれで良いのです。決まった正解はありません。さまざまなアドバイスを受けながら二人で決めていけば良いのです。
研修を喜びに変えていく
仮に自分達の選んだもので失敗や悔いが残ったとします。しかし大切なことは、それに費やした時間、夫婦で行ったショールームなどで、これらがあとで想い出深い記憶として残っていくことです。それが住まいを「選ぶ」ことでは得られない、「つくる」喜びなのです。住んで10年くらいつと、住まいづくり中に現場で対立した人間関係も笑い話になるかも知れません。人生を豊かにしていくことはそうした小さな喜びを積み重ねていくことではないでしょうか。
ガイド佐川旭のメッセージ
家は商品ではありません。商品ではないので家は買うものではないのです。パンフレットやカタログで、家族の団らんやバーベキューなどいかにも楽しそうな写真があります。ついその楽しさも含めて購入できそうな錯覚に陥ることがあります。しかしそうではなく、家は自分達でつくりあげていかなければならないのです。商品化された家はついそうした生活が手に入ると勘違いをするのです。これは単にハウスメーカーの商品を言っているのではありません。
家族をつくるということは、手間をかけながらひとつひとつ自分達の身の丈に合った生活をつくっていくということです。それらを含めて住まいづくりは、家族観、教育観、倫理観など、まさにあらゆるノックを受けて完成していくのです。
「人は一生の間に家を三回建てる」ということわざは、単に難しさや不満感、不具合のことではないのです。年齢と共に家族観や倫理観も変わり、それに伴い間取りも変わっていくからだと私は思います。
それだけ、家づくりは人を成長させてくれるのです。
これだけ多くの質問状を受けることは人生でそんなにあるものではありません。
単に買ってはもったいないのです。この機会をしっかりと活かしてみてはいかがでしょうか。