医師として考える「腫瘍マーカー検査」のデメリット・不完全性
血液検査で調べればがんの早期発見は可能なのでしょうか? 腫瘍マーカーがおすすめのオプションと言えるかは、少し考えてみる必要があります
腫瘍マーカー検査といえば、「血液検査で簡単にがんの可能性がわかる」といううたい文句で健康診断のオプションとして行われていることも多いようです。しかし、多くの医師が健康診断での腫瘍マーカー検査は推奨していないという事実はあまり知られていません。
今回は、医師が「腫瘍マーカー」を推奨しない理由を解説します。
理由1「偽陰性」……早期がんでは数値が上昇しない
ほとんどの腫瘍マーカーは早期がんでは上昇しません。逆に進行がんでも上昇しないこともあるので注意が必要です。通常よく用いられるのは、「抗がん剤治療や放射線治療での効果判定」や「腫瘍マーカーの高いがんの術後の経過観察」を目的とした場合です。例外的に、肝がんリスクが高い肝炎ウイルス陽性の方には、臓器特異性が高いAFPやPIVKA-IIといった腫瘍マーカーを用いて肝がんの有無を確認することはあります。しかし、健康診断で有効といえる腫瘍マーカーはほぼ皆無で、あるとすれば、前立腺がんのPSA測定ぐらいといえるでしょう。
理由2「疑陽性」……がん以外の良性の疾患でも上昇する
腫瘍マーカーはがん以外の原因でも上昇することがあります。例えば、大腸がんや肺がんなどで上昇するとされるCEAは、高齢者や喫煙、糖尿病、慢性肝炎などでも上昇することがあります。膵がん、大腸がんなどで上昇するCA19-9は、胆管炎を併発した場合や急性・慢性膵炎、胃炎、急性・慢性肝炎、肝硬変、子宮内膜症や卵巣嚢腫などの良性婦人科疾患、気管支炎、気管支嚢胞、肺結核、10~20代の女性や妊婦、糖尿病などでも上昇することがあります。
腫瘍マーカーとは、がん細胞またはがんに対するからだの反応によって作られ、血液や尿、組織などで増加している物質のことです。しかし、がん細胞だけでなく、正常細胞でもつくられますので、健常な人の体内にもわずかに存在します。悪性腫瘍だけでなく、良性の疾患でも上昇することがあるのです。
理由3「検査漬け」……腫瘍マーカーが関与する臓器は多種多様
全身検査をするはめになりかねません
調べていくには、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査、CT検査とほぼフルコースで検査をしなければなりません。そして、「検査はひと通りしましたが、明らかながんはありませんでした」と医師から告げられることも少なくはないのです。
理由4「がんの恐怖」……見えないがんの恐怖におびえる日々
全身の検査を受けても異常なし。「疑陽性」の可能性が高いけど、「もしかしたら」という気持ちをぬぐいきれない受診者も少なくはありません。「がんが隠れているかもしれないから定期的に検査をしてほしい」と数カ月ごとに検査を希望される方もいます。腫瘍マーカーを測定したがために、がんにおびえる不安な日々を送らざるを得ない人も存在します。理由5「おいしいのは医療機関」……一回の検査で二度おいしい
腫瘍マーカーは、病気以外で測定すると自費です。けっして安い検査ではありません。そして、異常値が出た場合は再度受診して、全身をくまなく検査させられ、高い医療費を払わないといけないことになります。腫瘍マーカーが上昇してがんが見つかることもありますが、多くはすでに進行がんです。健康診断での腫瘍マーカー測定は、高い検査費用に対して効果はあまり望めないのではないでしょうか。健康診断でオプションの腫瘍マーカーを付けるぐらいなら、直接観察できる「内視鏡検査」や「超音波検査」など他の検査を追加した方がよいと考えます。