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ビッグデータ解析で糖尿病治療が先制医療の矢面に!

2012年に39兆円だった医療費が、団塊世代が75歳以上になる2025年には60兆円になると予測されています。働く世代が減り続ける中で、どうやって高齢社会を支えるかが喫緊の関心事です。そのため、病気のリスク因子や発症を早い段階でつかんで発病を防いだり、病期の進行を抑えたりする先制医療の話題が注目を集めています。

執筆者:河合 勝幸

指定されたかかりつけ医しか受診できないスペインの庶民は、予約が取れないと継続処方薬を自費で購入します。次回に箱の一部(写真)を切り取って持参するとやっと払い戻しが受けられる仕組み。保険証一枚でどこにでも受診できる日本は医療天国なのです。(写真は糖尿病とは関係ありません)

指定されたかかりつけ医しか受診できないスペインの庶民は、予約が取れないと継続処方薬を自費で購入します。次回に箱の一部(写真)を切り取って持参するとやっと払い戻しが受けられる仕組み。保険証一枚でどこにでも受診できる日本は医療天国なのです。(写真は糖尿病とは関係ありません)

2012年に39兆円だった医療費が、団塊世代が75歳以上になる2025年には60兆円になると予測されています。働く世代が減り続ける中で、どうやって高齢社会を支えるかが喫緊の関心事です。そのため、病気のリスク因子や発症を早い段階でつかんで発病を防いだり、病気の進行を抑えたりする「先制医療」の話題が注目を集めています。

先制医療が有効とみられるアルツハイマー病とともに、特に遺伝的に日本人に多い2型糖尿病は患者が950万人、その予備群が1100万人と膨大な人数ですから対策を急がねばなりません。

糖尿病は完治できない重い病気ですが、発見が早ければ運を天に任すような病気ではなく、マネージメントが可能なものです。私が2型糖尿病と診断された40年前はWHO(世界保健機関)が定めた世界共通の2型糖尿病の診断基準もなく、2~3種類のSU剤のみでヘモグロビンA1cもなく、もちろん血糖測定器があるわけもなく、尿の検査紙の変色に一喜一憂するばかりでした。

そんな時代でしたから糖尿病の診断はとても重いもので、人生を左右するような意味合いをもっていました。完治することがない1型・2型糖尿病は元来とてもプライベートなものなのです。

ところが、医療費抑制の大義名分のもとで、生活習慣の改善とその結果を官民一体となって求めてくる時代になると、他者が私生活にずかずかと入り込んでくる気配があります。

何らかの事情があって治療を中断すると、クリニックや保険組合からメールや電話、文書の郵送で矢の催促となる近未来が目前に迫っているようです。

糖尿病治療中断の理由を調べた研究の中で、医療費の負担の重さが危険な治療中断に結びついているケースがかなりありました。そもそも、新薬に切り換えたり、インスリンを導入するなどのケースを除いて、糖尿病治療に毎月通院する必要はないのです。私はインスリン治療の2型糖尿病ですが、3ヵ月に1度しか受診しません。ヘモグロビンA1cを毎月検査しても2ヵ月周期の体調変化しか捉えられないので、かえって自分で自分の体調変化の原因が分からないからです。

糖尿病治療費の負担がつらい人は、遠慮なくその旨を医師に伝えて隔月なり3ヵ月に1度の受診に切り換えてもらいましょう。かかりつけ医が制度化している欧州では、クリニックの収入増のために2型糖尿病の治療に毎月通院するなんて、そもそもありえない現象なのです。

糖尿病の自然史(Natural History)を知る

健常人が糖尿病を発症した場合、まず何の症状も表われない不顕性患者になり、その後高血糖や神経障害などの顕性患者になります。このように、治療の介入がない場合に病気が自然に経過する歴史を「自然史」といいます。

UKPDSという英国で行われた2型糖尿病の大規模試験で分かったことは、2型糖尿病と診断される時はインスリンを分泌するベータ細胞の機能が既に健常人の1/2以下に低下していることでした。私達はこの状態から治療をスタートさせるのです。2型糖尿病は診断時の10年以上前から発症していたと考えてもおかしくはないのです。英国では2型診断時に約20%の人に網膜症の症状がみられ、逆算すると5~6年前に眼底の異常が始まったと考えられています。

ですから、"軽い糖尿病"とか"境界型糖尿病"、"糖尿病気味"なんていう病はないのです。糖尿病は生涯付きまとうやっかいな病気です。

マスコミであまりにも安易に「糖尿病」と言われ過ぎるので、なんとなくありふれた病気のようになっていますが、最後には手に負えない程の激しい病気ですから覚悟を決めて治療に取り組まなくてはなりません。私が2型糖尿病を40年間コントロールしてきたのは、母親の病歴を知っているからです。

2型糖尿病の一次予防(先制医療)

糖尿病の予防はWHOによると3つの段階に分けられています。日常行動や生活環境のなかで発症のリスクを高める因子をできるだけ減らして、遺伝的に2型糖尿病になりやすい人を積極的に手助けして住民が糖尿病になることを阻止する活動です。治療から予防にシフトして先制医療を目指す今日の糖尿病対策が、まさしくこの一次予防の活動です。

各地方自治体がメタボ検診を奨励し、東京都足立区のように薬局でヘモグロビンA1cの簡易検査を受けられるようにしたところがあります。足立区民は個人で500円負担しますが、埼玉県の計画では検査費は無料とのことです。ただし、足立区では検査に立ち合った薬剤師が、糖尿病の可能性が高い人が医療機関を受診するまで連絡を取り続け、区民が医療機関を受診すれば1件につき500円が区から薬剤師会に支払われることになっています。

至り尽くせりのようですが、糖尿病は上記のようにとてもプライベートな問題ですから、採血も認められていない薬剤師という「部外者」が一般市民にどのような言動で関わってくるのか気になるところです。ちなみに、コメディカルで採血ができるのは看護師と検査技師だけです。

二次予防

二次予防は糖尿病と診断されてない患者を早期に発見し、早急かつ適切に治療することと定義されていますが、一般的には糖尿病の合併症予防を意味します。合併症予防には血糖コントロール不良の患者をいつまでも同一のクリニックが抱え込まないことが大切ですが、医師会が関与している会議ではこの議題が出ることがありません。患者はコントロール不良を「自分の責任」と思わないで、より積極的な治療を目指す医療機関を探すことが合併症予防に大切です。また、合併症予防には治療中断を避けることが何よりも大事です。

2015年2月14日の日経新聞によると、東芝は糖尿病の治療に取り組まず放置している人を診療報酬明細(レセプト)のデータ解析で特定し、企業の健康保険組合に提供してリスクの高い人に集中的に受診を働きかけるのを支援するとしています。2015年4月から全ての健保組合にデータを活用して健康改善を促す「データヘルス計画」の実践が義務づけられたのです。

医療保険者(健保組合)から組合員個人にこのようなコンタクトを取ることは認められているのですが、ここでもプライバシーをどう守るかがはっきりしてない気がします。糖尿病は会社での昇進や結婚問題にも影響を及ぼすものですから、なりふりかまわぬ医療費削減では人権侵害になりかねません。

三次予防

三次予防は、合併症がすでに発症して、さらに進行して脳や心臓、その他の臓器障害を起さないようにすることと定義されています。欧米における糖尿病患者の主な死因は心臓や脳の大血管病です。血糖コントロールとこれらの大血管病との関係がまだはっきりとは解明されていません。結局は一次予防、二次予防の振り出しに戻ってしまいます。
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