「レベル2」の火口周辺規制の意味
首都圏に居住する住民にとって最も身近な温泉地のひとつである箱根。自分自身も年に数回は必ず足を運び、周辺の登山道も何度となく回っています。火口近くの駐車場はいつも観光客の車で一杯。芦ノ湖からのロープーウェィも完備され、日本の活火山の中でも最も観光地化された特異な場所と言えるでしょう。それゆえに噴火警戒レベルの引き上げには慎重を期したと思われますが、やはり気象庁も御嶽山の教訓を受けて「万が一」に備えて連休中にも関わらず「レベル2」と呼ばれる火口周辺規制に踏み切りました。
火山性地震とは他の地震とは異なり、マグマの上昇や熱せられた地下水の移動などにより発生しますが、今回はその発生回数が異常値と呼ばれるほど多発して、水蒸気爆発と呼ばれる現象の可能性が高まったと考えられています。これは数百年に一度の確率で発生します。活火山では、この先に溶岩を伴う大規模噴火という現象も存在しますが、これは数千年に一度の確率で発生するもので、さらに明らかな前兆現象が見られることが多く、現時点ではその可能性は極めて低いものと伝えられています。
水蒸気爆発が起きると
それでは水蒸気爆発が発生したとき、箱根町ではどのような被害が予測されるのでしょうか。直接的な被害としては噴石によるもの。箱根町では火口から700mの範囲で影響を受けるとしていますが、水蒸気爆発が大きい場合には火口から1.5kmまで到達する可能性も示されています。大涌谷の火口から直線で2kmから3knのエリアには多くの別荘や観光地が存在しますが、箱根町では噴石が届く範囲とは想定されていません。これに対し「火山れき」と呼ばれる、風に飛ばされるような小さな石は広範囲に広がる可能性があります。(浅間山の噴火時には4km地点でも噴石が確認された)
また大涌谷では、水蒸気爆発に伴い、火口の北側斜面に火砕サージ(火山灰を含む高速の風)が発生します。これは家屋や樹木をなぎ倒す破壊力を持っています。大涌谷ではほぼ火口付近にとどまると予測され、別荘地域に到達することはないとされています。危惧されるのは、熱泥流や土石流などの二次的な災害。火口からの水蒸気が湧きだした熱水が泥流とともに周辺に流れ出したり、火山灰などが周辺に降り積もり、降雨が発生したりすると、周辺にある大湧沢や蛇骨川などの渓流沿いの広範囲に被害が及ぶ可能性があります。
噴火時の対処方法
万が一、活火山周辺にいて噴火警報が発令された場合は、もちろん火口からの距離を置く退避方法が基本になりますが、逃げる間もなく自分の周囲に噴石や火山れきが降ってくるような状況になった場合はコンクリート製の屋内へとすぐに避難します。阿蘇山や浅間山の火口周辺には火山弾を防ぐ避難シェルターなどが設置されていますが、活火山の火口周辺に行く場合はそのような避難場所があるかどうか事前に確認しておくべきでしょう。(大涌谷周辺にはシェルターは設置されていない)
御嶽山の噴火発生時には有毒性のガスを含む高熱の火砕サージによる被害が発生していますが、噴煙は山麓の形状に沿いつつ、低地に向かって下降する傾向がありますので、沢(谷状になっている底の部分)に降りずに、可能であれば、なるべく稜線にあたる峰沿いに避難する方がリスクを低く保てると思われます。また噴煙は風の影響も大きく受けますので、避難時には風向と共に噴煙の進行方向も目視しながら噴煙に巻かれないように避難方向を考えましょう。
被害の可能性をどう考えるか
御嶽山の災害の発生事例にも見られるように、噴火予測は極めて困難で、いつ、どんな規模で発生するかは火山学者などの専門家でも正確には分かりません。御嶽山の災害の記憶がまだ新しいかと思いますが、登山客のいない時期に同規模の水蒸気爆発があった際には被害が発生していませんでした。この例からも火山の被災リスクは火口からの距離に反比例するのは誰にでもわかること。ただし火口付近には火山性地震が頻繁に起きていない平常時においても、火山性の有毒ガスの発生など、一定のリスクは常に存在しています。
一方で、国内には多くの活火山が存在し、九州の桜島や阿蘇山など、常に活発な火山活動を起こしつつも、周辺の住民はその恵みを享受して、一定の距離をおきつつ共に生活しています。東日本大震災の影響で、日本全国の活火山が活発化しているという説を唱える研究者もいますが、富士山を含めて、火山立国とも言えるこの日本において、火山活動は避けられない自然現象とも言えるでしょう。火山性地震はいずれ終息するもの。リスクを正しく認識した上で、発災時の対応をすれば被害に遭うことはありません。公開されている情報を入手して、安全と考えられる範囲で温泉や観光を存分に楽しみましょう。