どんな大物選手よりも、王氏が圧倒的一番人気なワケ
イチローの日米通算得点記録が大きく取り上げられた背景には、王貞治氏の偉大さも関係していた。
それは、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でのことだった。イチローが選手として参加し、王氏が監督を務め、日本での予選ラウンドを通過。アメリカでの第2ラウンドとして、エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイムでアメリカ、韓国、メキシコと戦った。
それぞれの試合前、相手チームの選手や球場を訪れていたメジャーリーガーたちが、次々に王氏のもとを来て、握手をし、サインを求め、一緒に写真を撮ったのだ。どんな大物選手よりも、王氏が圧倒的一番人気。日本人として誇らしく思った瞬間だった。
王氏が尊敬の眼差しで見つめられた理由は、とてもシンプル。それは、通算868本塁打という“誰よりも多くのホームランを放った男”だからである。
メジャーリーグのファンが球場に足を運ぶ理由
「ボールを遠くへ飛ばす」ことは、野球の永遠のテーマ。子どもの頃からそのテーマを追い続けて頂点に立ったのが、メジャーリーガーといっていい。ボールを遠くへ飛ばすことで手に入る称号がホームランであり、それはどんなホームランでもホームランであり、どの国やどの球場で打ってもホームランはホームランなのだ。王氏の記録が日本の狭い球場で作られたことで、メジャーとは比較はできないという人がいるが、実際にグラウンドに立ち、ホームランの価値を知っている選手たちにとって、ホームランに変わりはないのである。だからこそ、王氏のもとに来て、握手をし、サインを求め、一緒に写真を撮ったのである。
その当時、ヤンキースに在籍していた松井秀喜に対し、アレックス・ロドリゲスが「ヒデキ、王さんと食事をする機会を作ってくれよ」と懇願した。松井秀が理由を尋ねると、「ホームランを打つ極意を聞いてみたいんだ」と答えている。当時の時点ですでに429本塁打(2005年まで)を放っていたA・ロッドの貪欲さにも敬意を表するが、やはり、王氏への尊敬の念が感じ取れる出来事だった。
メジャーリーグのファンが球場に足を運ぶ理由は、2つあると言われている。それは“三振”と“ホームラン”を見にいくこと。ピッチャーが強打者からバッタバッタと三振を奪う醍醐味とここという時に胸のすくような一発を放つ瞬間を生で見られる感動。もちろん、他にも様々な要素はあるが、“ホームラン”がいくつになっても憧れであることは確かなようである。