腎臓を守る検査が2つあります。アルブミン尿とeGFRです。
実は、残念ながら糖尿病治療に精通している内科医は意外と少ないのです。日本だけでなく、欧米でも内分泌科医の絶対的な不足に直面しています。だから、こうして日本糖尿病対策推進会議が患者に直接呼びかけて注意を喚起しているのでしょう。未治療なら糖尿病を発症したときから10~15年で糖尿病腎症、25年以内に半数の人が末期腎不全になるカウントダウンが始まっているのですから、自分の腎臓を守る義務は患者自身にあるのです。
私達はもっと糖尿病のことを知らなくてはなりません。ここでは腎機能を調べる検査値として、eGFR(イー・ジー・エフ・アール、推算糸球体濾過値)と微量アルブミン尿を取り上げます。eGFR値が65と計算された腎臓は、健常人を100としたとき、約65%機能していると推定されます。
糖尿病腎症の病期と症状
生命を守る腎臓はかなりの予備能力があります。尿を生成する基本単位はネフロン(腎単位)とよばれ、球状の腎小体(糸球体とボーマンのう)と尿細管で構成されています。このネフロンが左右の腎臓にそれぞれ約100万個ありますが、実際に働いているのは10%(10万個)にすぎず、残りの90%は長い人生の予備として休んでいます。だから病気や腎移植用に片方を摘出しても日常生活に支障がないのですが、逆に腎不全で腎機能が相当低下してもなかなか症状が現れません。ですから、症状のない第1期(腎症前期)や第2期(早期腎症)の段階に適切な治療を行うことで腎症の進行を抑えることが重要です。その管理目標がeGFRと微量アルブミン尿なのです。体は腎臓の中の糸球体(しきゅうたい)によって血液を濾過して血液中の老廃物や不要な物質を尿中に排出して血液を正常に保っていますが、この糸球体の毛細血管が高血糖で障害が起きた状態を糖尿病腎症と呼びます。糖尿病腎症の治療は病期によって異なりますが、通常は次のような病期分類が使われています。
糖尿病腎症は必ずしも第1期から順次第5期まで進行するものではありません。やむを得ない遺伝素因もありますが血糖コントロール、食事やタバコなどの、生活習慣の見直し、高血圧症の改善で進行を抑えることも可能ですし、第3期以降は直線的に透析導入へ進む場合もあります。いずれにしても傷んだ腎臓は元には戻りません。
■第1期(腎症前期)
正常アルブミン尿(30mg/gクレアチニン未満)で、血液検査や尿検査ではほとんど異常が認められない時期です。症状はほとんどありません。糖尿病と診断されればこの病期ですから血糖コントロールに務めること。高血圧があれば食塩相当量6g/日未満。
eGFR ≧90。
なお、アルブミンやクレアチニンの簡単な説明は後述します。
■第2期(早期腎症期)
通常の検尿ではたんぱく尿は陰性ですが、尿中に30~299mg/gクレアチニンの微量のアルブミンというタンパク質が漏れ始めた時期です。自覚症状はほとんどありませんが、血圧が高くなることが多く、第1選択薬としてACE阻害薬やARBが処方されます。これらの降圧薬は毛細血管内の血圧を下げて腎臓を守る効果があるのです。厳格な血糖コントロールが求められますが、この時期に適切な治療を行えば、第1期と同じように腎症の進行を高い確率で抑えることができます。
eGFR 60~89。
■第3期(顕性腎症期)
アルブミンが300mg/gクレアチニン以上尿中に出てくると、尿タンパク値として0.5g/gクレアチニン以上に相当しますから通常の試験紙で検出できる顕著なタンパク尿になります。腎臓の機能が一応50%以上(eGFR≧50)保たれていて、血液検査では腎臓の機能異常が認められない第3期A(顕性腎症前期)と、持続性タンパク尿が1g/日以上になって腎臓の機能が正常の50%未満(eGFR<50)に低下している第3期B(顕性腎症後期)に分けられます。尿中のタンパク質が増えてくると、血液中のタンパク質(主にアルブミン)が不足するようになります。その結果、水分が血管から漏れ出るようになって足などにむくみがみられるようになります。いわゆるネフローゼ症候群です。
食事療法として減塩はもちろんのこと、「タンパク質制限食」が重要になりますから炭水化物と脂質を増やすという、従来の食事療法と正反対のものになります。私達は遅くとも尿中アルブミン排泄量が300mg/gクレアチニンを超えるようになったら腎臓専門医に定期的に受診して食事療法や服薬の指導を受けるべきです。
治療の指標がアルブミン尿から腎機能のeGFR(推算糸球体濾過量)に替わります。eGFRの急激な低下が人工透析のリスクに直結しているのです。
eGFR 30~59。
■第4期(腎不全期)
腎臓の機能が著しく低下し、腎臓の糸球体で血液が十分に濾過されず血清クレアチニンの値が上昇して腎不全になります。自覚症状としてむくみのほかに、動悸(どうき)、息切れなどの心不全症状や、皮膚のかゆみ、体のだるさ、夜間の手足の痛み、貧血、低血糖などがでてきます。この時期の治療目的は人工透析の導入を少しでも遅らせることになります。
eGFR 15~29。
■第5期(透析療法期)
生存のため血液の人工透析や腎臓移植が必要になります。心臓や脳の血管障害や感染症を合併することが多い糖尿病患者が透析を行っても予後はよくなく、5年生存率は約50%しかありません。
eGFR 15未満。