シート選びで乗り方が大きく変わる
かなりエッジのきいたキャラクターゆえ、ミドルクラス仕様ながら取り回しに気を使うF 800 GS。シート高も880mmと、G 650 GSやF 700 GSと比べても非常に高いです。身長157cmの女性と身長165cmの男性に跨がってみてもらいましたが、どちらもバイクに乗り馴れている人ながら「まったく足が届かない。車体を起こせる気がしない」と、スタンドをはらうことなく白旗をあげられました。身長174cmの私でも、信号待ちの際にちょっと気を抜くとバランスを失いかける高さ。悪く言えば万人受けしない、良く言えば明確な用途のみ追求したモデルと言えるでしょう。足つきを良くするための方法としては、「前後サスペンションを短くする」、「シートを薄いもの(肉抜きしたもの)にする」などがあります。このノーマルシート、横から見るとかなり薄い仕様ではあるのですが、海外モデルにありがちな「股間部分が幅広い」、「四角形なので角が立っている」という傾向が見られました。そこで、国産メーカーのシートと比較してみることに。
ご覧のとおり、真横から見たシルエットだと国産メーカー製品の方があきらかに高い。「これじゃあ逆効果じゃないか」と思われるところですが、ただ薄くするのではない“足つき性向上の本質”を狙ったつくりによるものなのです。
真上から見たそれぞれのシルエットを比較すると、その狙いが浮き彫りに。股間部分の幅が広く角張ったノーマルシートに対し、国産シートのそれはアールを描いた細い仕様です。狙いとは、バイクにまたがった際に足がまっすぐ下に降ろせることにあります。
断面が角ばっていると、内股に角があたり、長い時間ツーリングするほどに違和感が増し、車体を支えるためのニーグリップがしづらいという弊害が生まれます。一方シルエットが丸いことで角のあたりはなくなり、ラインに沿ってニーグリップできるようになるのです。しっかりと高さが設けられている(厚みがある)=ライダーの体を受け止めつつ衝撃を吸収する役目もはたすというわけ。実際に国産シートを装着して試乗したところ、非常にニーグリップしやすい。いや、違和感なく車体をホールドできるという印象でした。
男性 170.7cm/女性 158.0cmという日本人の平均身長に対し、ドイツ人のそれは男性 181.0cm/女性 168.0cmと10cm単位で異なります。BMWバイクのサイズ感が大きいのはそこに起因するもので、まるでノーマルシートが悪いように聞こえたかもしれませんが、そうではありません。海外バイクそのものが大柄な人を想定して作られているものなので、大柄な海外バイクに乗るにはきめ細やかな日本人の考え方が入った製品選びも大事ということなのです。
このステップ位置も然りで、ちょうど足を降ろしたところでふくらはぎに干渉してきます。上背のある人ならばやや前方に足が着けるでしょうけど、一般的には違和感とも言える場所。これはBMWだけではなく、ハーレーなどにも見られる傾向なのです。特に停車時、足を降ろす際にズボンの裾が引っかかる可能性を考えると、あまりよろしくないところ。私が本モデルのオーナーになるなら、この位置はなんとかしたいと思うでしょう。
得意分野をオフロードとする強いキャラクターの持ち主、F 800 GS。G 650 GS、F 700 GS、そしてR 1200 GSとそれぞれの個性を比較したうえでこのモデルを選ばれたなら、あとは自分のサイズ感にあった仕様にしてやるだけで、いつまでもともに走り続けられるかけがえのない相棒となることでしょう。
[BMW Motorrad F 800 GS SPECIFICATIONS]
全長/2,300mm
全幅(ミラー含む)/945mm
全高(ミラー除く)/1,350mm
シート高(空車時)/880mm
空車重量(燃料満タン時)/224kg
エンジン/4ストローク並列2気筒エンジン
排気量/798cc
ホイールベース/1,590mm
フロントタイヤ/90/90-21 54V
リアタイヤ/150/70-17 69V
タンク容量/約16L
メーカー希望小売価格(消費税込)/139万9,000円(2015年4月現在)