前回に引き続き、今回は、今シーズンの女子シングルとアイスダンスで、私自身がいいなあと感じた演技をご紹介します。
まず女子シングルから。
エリザベータ・トゥクタミシェワ選手(ロシア)
ヨーロッパ選手権 ショートプログラム『ボレロ』
キレのあるジャンプやかわいらしい笑顔だけでなく、よく動く手首でも魅せます。今シーズンの彼女のショートプログラムでは、ヨーロッパ選手権のものが身体も動いていて圧倒的なのですが、個人的に好きなのはグランプリファイナルのもの。終盤、ビールマンスピン(最後から2つめのスピン)のあと、ジャッジにアピールしながら進む1歩1歩が、音楽とぴったり。素敵です。ヨーロッパ選手権ではプログラムの構成を変えてしまったので、もうあの動きは見られなさそうなのが少し寂しいのですが、世界選手権ではショートプログラムにトリプルアクセルを入れる予定というのも、また楽しみです。
エレーナ・ラジオノワ選手
グランプリファイナル フリー『ピアノ協奏曲第3番』
『悲しみの三重奏曲第2番』
約半年ぶりに彼女の姿を見た昨年10月のジャパンオープンでは、「なんて手足が伸びて、大きくなったんだろう」と昨シーズンとは全然違うスタイルに成長したことに驚きましたが、細くて長くて両腕がひらひらとよく動くスタイルにすっかり慣れたいま、この15歳(現在は16歳)の彼女の演技は、「フィギュアスケートは楽しい」のだということを思い出させてくれます。演技終盤には苦しそうなところもありますが、絶対に諦めないメンタルの強さをそこここに感じさせる演技。オフアイスではいつも笑顔で元気いっぱいの少女ですが、スケートの演技に関しては負けない気持ちがものすごく強いことが伝わってくる、そのギャップも心地よい4分間です。
ジジュン・リー(李子君)選手(中国)
四大陸選手権 フリー『ムーン・リバー』
スケートの才能に恵まれながら、試合本番でなかなか満足のできる演技を見せられないできた彼女でしたが、18歳になって身体の成長も安定したのか、かなりコンスタントにミスの少ない演技を見せることができるようになってきました。そんな印象を漠然と持っていたところでのこのフリー。彼女の伸びやかでふんわりとしたスケーティングと、『ムーン・リバー』の柔らかな音楽が相乗して、夢のような世界を作り上げます。後半少し冗長な印象を否めませんが、それでも、この大舞台でノーミスの演技ができたことに感激している彼女を見ると、涙を誘われます。
宮原知子選手
全日本選手権 フリー『ミス・サイゴン』
リンクに出てきたときには小柄な印象を与えたのに、冒頭に3回転+2回転+2回転を跳んでから最後まで4分間ずっと攻めて攻めて強い気持ちで押し続けることで、最後には観客たちを、ものすごく大きなものを見たような思いにしてしまう『ミス・サイゴン』。3回転+3回転を入れずに、2回転アクセル+3回転トウループを後半に2度配するなど、スタミナと強い気持ちが求められる構成を、16歳の宮原選手が滑り抜いた演技でした。
本郷理華選手
四大陸選手権 ショートプログラム『海賊』
今シーズン大ブレイク中の本郷選手は、試合を経るごとに表情に強さや輝きが見られるようになってきました。今シーズン本格的にシニアに上がり、自分がどのくらい評価してもらえるのかわからなかった秋から、グランプリファイナル出場、全日本選手権銀メダル獲得を経て、この演技からは、十分な自信と手ごたえを持っていることがうかがえます。ダイナミックで躍動的な『海賊』は彼女にぴったりで、気持ちがいい。頭にぐるぐる巻いているきらきらやコスチュームもとても素敵です。
村上佳菜子選手
NHK杯 フリー『オペラ座の怪人』
ショートプログラムでも同じ『オペラ座の怪人』を使っていますが、ショートでは女性のクリスティーヌに、フリーでは男性の怪人に扮しています。ショート3 位で臨んだこのフリーには、「すごく行きたい」と言い続けてきたグランプリファイナル進出がかかっていました。終盤にきれいに決めた3回転サルコウ+2回転ループ+2回転ループが0点になった(前に跳んだループが2回転だったことから、「2回転ジャンプは、2度まで」というルールに抵触した)ために得点は伸びず、結果としては総合4位でした。
が、中盤の3回転フリップで転倒後に次のジャンプでも同じ3回転フリップ+2回転トウループを成功させたり、プログラム全体を通してスピードもありパワフルだったりと、彼女の強さをもしかしたら初めて見せた演技だったのではないかと感じました。