革新的企業から安定成長企業へ
このようにアップルの原動力となったジョブス氏ですが、ご存じのように2011年に亡くなります。ジョブズ氏のいなくなったアップルは、もはや2~3年に一度のペースで世界を変えるような新製品を世に送り出すことはないでしょう。しかし、同社が世界でも有数のキャッシュリッチ企業であることには変わりありません。たとえば、2014年10-12月の3ヶ月間に、アップルは3兆9,400億円を超える営業キャッシュフローを本業から稼ぎ出しました。それに対して投資によって出て行った投資キャッシュフローは2兆5千億円弱となっていますが、このうちの2兆1,000億円が事業への投資ではなく、不要なお金を運用して置くための債券購入(国債・社債等)に充てられたものです。設備投資額は同期間に3,760億円ほどでしかなく、膨大な利益のごく一部という様子です。
同社がiPhoneを増産するために新たに工場を増設必要なく、生産は台湾のホンハイ社にアウトソーシングしており、基本的にアップルは設計・企画・販売のみを行うファブレス企業です。特に大きな買収を行っている訳でもなく、毎時間34,000台が粗利40%で売れるiPhoneによって生み出される膨大なお金が社内に溢れるばかりとなっています。 上のバランスシートでは、総資産30兆6,400億円のうち、現金は2兆3,000億円弱となっていますが、債券を中心とする保有金融資産は20兆円を超えます。そして今後も3ヶ月毎に2~3兆円のキャッシュフローが入ってくることになります。同社は株主還元策として、当四半期に9,360億円に相当する四半期配当や自社株買いに充てると発表しました。直近1年間だけで累計6兆6,000億円を超え、現CEOがこのようなキャピタルリターンプログラムを実施すると発表して以降、総額12兆円が株主還元策としてキャッシュアウトされました。これほどのキャッシュリッチ企業は世界に他になく、圧倒的な規模です。
このように、アップルは世界を変えるような新製品を世に送り出す革新的な企業ではなくなりましたが、その事を分かった上で現CEOは手厚い株主還元策を実施しています(ジョブズ氏時代はずっと無配)。そして、ジョブス氏が残した基盤を活かし、時計や電子支払い、電気自動車などで画期的な製品を発表していこうとしているところです。ダウに採用されたことは同社の成長がピークを過ぎたことを示唆しているというよりは、革新的な企業から優良な安定成長企業に変わったことを示唆している、というのが実態に合った表現だと思います。
参考:グローバルグロースレポート
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