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オートバイのABS義務化 その背景を検証

国土交通省が発表したオートバイへのABS義務化に関する法案。よくよく調べてみると、別に交通事故が増えているわけでもなく、むしろ減少しているほど。必要性の感じられないとの意見も出ているABS義務化という法案が作られた、その背景を検証してみました。

田中 宏亮

執筆者:田中 宏亮

バイクガイド

そもそもABSってどんなシステム?

腑に落ちないオートバイへのABS義務化について検証します

腑に落ちないオートバイへのABS義務化について検証します

すでに各方面で話題にのぼっていますが、国土交通省は2014年11月、2018年から二輪車へのアンチロックブレーキシステム(ABS)、コンバインドブレーキシステム(CBS)の装備を義務づける方針を固めたと発表しました。各方面で議論を呼んだこの法案について、改めて実状とその背景を見てみたいと思います。

まずは、ABSとはなんぞや?というところからおさらいします。
アンチロック・ブレーキ・システム (Wikipediaより)
急ブレーキあるいは低摩擦路でのブレーキ操作において、車輪のロックによる滑走発生を低減する装置。

クルマの場合、運転中に不測の事態が起こり、急ブレーキをかけなければならなくなったとします。その際、通常だと急激なストッピングパワーによってタイヤと路面のあいだに発生する摩擦係数が十分な大きさとならず、トルクがその摩擦係数以上となった際、タイヤがロックしてしまい、慣性の法則で車体がそのまま進行方向へと滑っていってしまいます。これにより、横転や横滑りが発生し、そのまま転倒したり追突するという事故を引き起こす危険性があるのです。

ABSは、ポンピングブレーキ(徐々にブレーキングし、滑りはじめたらまた少し緩めて踏み込んで安全に停止させる運転技術)をコンピュータ制御させたもの。つまり、ドライバーないしライダーがフルブレーキをかけてロックさせる瞬間、急激なブレーキングに対してコンピュータが反応し、“ブレーキをかけきらない”適度なパワーに制御しなおして徐々にスピードを落とし、車体が滑るのを防ぐとともに、衝突の際の衝撃緩和や危険回避運動の補助へとつなげるもの。

かなりざっくりとした説明とすると、以下のようになります。ブレーキングパワー最大値を10として考えます。
■ ABS機能が備わっていない場合
[1] 走行中、不測の事態が発生

[2] 10の力で、“瞬間的に”ブレーキをかける

[3] 乗用車(クルマorバイク)に最大値10のブレーキングが入力される

[4] 急激なブレーキングにより、タイヤと路面が摩擦を引き起こせずロック

[5] 結果、車体は止まれず、慣性の法則でそのまま滑っていってしまう

[6] 流されるままに横転または追突(衝撃は緩和されず、大きなダメージを負う)

■ ABS機能が備わっている場合
[1] 走行中、不測の事態が発生

[2] 10の力で、“瞬間的に”ブレーキをかける

[3] 入力された瞬間、ABSが作動し、10よりも劣るパワー
(たとえですが、7ないし8)に入力し直され、ブレーキング開始

[4] 適度なパワーでタイヤと路面が摩擦し、車体は徐々にスピードダウン

[5] 追突までに余裕ができるので、回避行動に移れる(うまくいけば、追突を避けられる)

[6] そのまま追突しても、スピードダウンしているのでダメージは小さい

ABS最大の目的は、危険回避のための余力を操る人に与えること。“止まる”のではなく“かわす”という点に危険回避の理論の軸があり、結果的に衝突回避または衝突時の衝撃をやわらげることにつなげるのです。不測の事態にありがちなパニックブレーキによるロックからドライバーないしライダーを守るため、また急激なブレーキングによるブレーキシステムの破綻から守るための装置、それがABSです。


腑に落ちない、突然の義務化法案

と、良いこと尽くしなイメージのABS機能。現代のクルマで備わっていないモデルはまずありませんし、ようやくオートバイも……というところですが、ちょっと待った!です。ABS機能を備えたオートバイは、今や各メーカーから何台も出ています。国産メーカーモデルには、ABS機能が備わったものと未装備のものが用意され、エンドユーザーに選ぶ権利があります(もちろんABS機能搭載モデルの方がやや割高です)。ハーレーダビッドソンのツーリングモデルやソフテイルにもABS機能が備わっているのです。

現行モデルには、ABS機能の有無で分かれているモデルも(写真はホンダ CTX700 D.C.T)

現行モデルには、ABS機能の有無で分かれているモデルも(写真はホンダ CTX700 D.C.T)

腑に落ちないのは、国土交通省による義務化という部分。各メーカーはそれぞれ安全なオートバイを出しているにもかかわらず、国が装備を強要するというところが「?」なのです。

論理的に考えれば、国からこうした動きが生まれるということは、その背景には「パニックブレーキによるオートバイの事故が多発している」などといった事案が多発しているもの。ところが、警視庁が発表している交通事故件数を見ていると、オートバイによる事故は年々減っているのです。

このように、都内および全国の交通事故件数は減っています

このように、都内および全国の交通事故件数は減っています

この結果に対して、警視庁は取り締まり活動や安全運転のための講習会など、その啓蒙活動による成果だとも言っています。確かに、結果につながっているのであれば、それは正当に評価されるべきでしょう。

義務化とはすなわち、国による指示。キツい言い方をすれば強制ということ。そこまでやるからには、それ相応の被害や事故が起こっているものと考えますが、少なくとも過去の報道や減少している事故件数を見る限り、強制されるどころか現状維持で十分なもの。義務化は、現状に対して矛盾しているわけです。となると、この義務化法案の出どころはどこ?ということになってしまいます。

また、ABS義務化は、メーカー各社にとってもまったく美味しくなく、またライダーにとっても小さくない弊害を生み出すのです。

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