同じ規模、間取り、設備でも異なる価格
住宅を取得するにあたって、皆さんが最も関心があることの一つに「価格」があると思われます。そして、一般的にハウスメーカー(大規模な住宅事業者)と、工務店(中小規模の事業者)では、総じて前者の方が価格が高いと、思われているのではないでしょうか。確かにその傾向がありますが、ではその理由は何なのでしょうか。それを理解することで、住宅価格の仕組みや、ハウスメーカーと工務店の性質、それぞれによる住宅取得の違いなどについてみえてくるはずです。まず、前提の話として、ハウスメーカーと工務店と一言でいっても様々です。工務店の中でもハウスメーカー並の取り組みをしている事業者もいますので、そのあたりはしっかりとご了解ください。
さて、ハウスメーカーと工務店が建てた同じような外観、面積、間取り、内装材、設備の住宅が2棟あるとします。この場合、2棟にはある程度の価格差が発生し、もちろんハウスメーカーの方が高くなるはずです。その理由は、大きく以下のような理由にまとめられます。
・住宅を構成する素材による価格差
・売上高や人員などの規模による価格差
・広告費や展示場出展などによる価格差
・アフターサービス・メンテナンス費用で生じる価格差
・販売戦略の違いに伴う価格差
住宅を構成する素材の違いとは
「住宅を構成する素材」として、例えば外装材があります。外装材には色々なものがありますが、近年の住宅によく採用されているサイディング外壁(工場で生産されたパネルなどを現場で取り付ける工法)で考えてみましょう。その中でも多種多様なものがあります。例えば、同じホワイト系の素材であっても、単に柄をプリントしたり型押しした薄いものから、タイルを貼り込んだもの、コンクリート系の重厚なものなどがあります。
大手のハウスメーカーですと、自ら外装材を開発し、生産しているケースもあります。この場合、地震や台風などに対する耐久性、経年劣化のしにくさなどについて、実験などを通じて裏付けを取っています。
もちろん、建材メーカーが開発、販売している一般的な外装材もそうなのですが、自社で詳細な検証をしているものの方がより信頼性が高いといえるのではないでしょうか。つまり、その信頼性という部分もコストの一部となっているわけです。
住宅価格に反映される様々な経費
ハウスメーカーと工務店の違いで最も分かりやすいのが、売上高や人員などの規模です。全国規模のハウスメーカーの場合、出張をはじめとした様々な経費が発生し、それも当然ながら最終的に売価に反映されます。一方、ある地域に限定して営業をしている工務店なら出張費の経費は極力抑えられますから、ハウスメーカーより価格が安くなるなるわけです。このほか、電話代など通信経費なども同様です。
このほかに自社のアピールに使われる広告費があります。大手のハウスメーカーは全国的にTVCMを打っていますが、この経費は膨大。工務店はそもそもTVCMすら打っていないケースもありますから、その分、住宅価格が抑えられるわけです。
私たちが住宅の検討をするにあたり訪れるのが住宅展示場ですが、これは基本的に大手ハウスメーカーの集客の場です。展示場にモデルハウスを設けているわけですが、その建設・運営の費用も価格に反映されます。
東京都墨田区にある住宅展示場の様子。建築費用だけで1億円を超える7階建てのモデルハウスもある。その出展費用も最終的には私たちの住宅価格に含まれると考えると、ちょっと複雑な気持ちにもなる(クリックすると拡大します)
工務店の中にも展示場に出展していたり、独自にモデルハウスを設けている場合がありますが、それほど多くはありませんし、ハウスメーカーのように一定期間で建て替えることも少ないですから、価格に反映される度合いは少なくなっています。
ハウスメーカーが見学施設を設けるわけ
ちなみに、工務店の場合はモデルハウスのほかに施工中の建物や完成した建物を集客の場とするケースが一般的。一方、ハウスメーカーはこれらのほかに、ショールーム、さらにはプレハブ系ハウスメーカーなら工場に見学のための施設も有する場合があります。このように集客の場や見学施設の開設や運営、維持にかかる人件費などを含めた費用もハウスメーカーと工務店の価格差として反映されます。とはいえ、「だからハウスメーカーの住宅が高い、良くない」というのは早合点のように思われます。
セキスイハイムの工場(埼玉県蓮田市)にある、住宅の耐風性能に関する体験施設の様子。このようなアトラクションにより、消費者の住まいづくりの疑問点を解消する取り組みをしているハウスメーカーもある(クリックすると拡大します)
住宅取得や住まいづくりは大変複雑で、分かりづらいもの。特に注文住宅の場合は何もないところから、いちいち確認しながら行わねばなりません。その時に、モデルハウスをはじめとする施設があるのはとても便利です。比較、検討や体験がしやすいからです。
つまり、見方を変えると、ハウスメーカーは施設を充実させることで、消費者により安心、納得して住まいづくりに取り組んでもらえるように努力、配慮しているわけです。このあたりの事情は、住宅価格を難解にしている側面だと思われます。
災害時に質の差が明確になるアフターサービス
もう一つ、住宅価格の中で理解がしづらいのがアフターサービスなどに関する費用です。住宅の価格は一般的に新築時の引き渡し価格で判断されがちですが、そもそも消費者と住宅事業者の関係は、引き渡しまでより、引き渡し後の方が圧倒的に長いのです。現在の住宅は基本的に、構造(スケルトン)だけなら、少なくとも60年は住み続けられるように建てられています。それまでに、どんなアフターサービスが受けられるのかあるいはどれくらいメンテナンス費用がかかるか、という点にも注目したいものです。
さて、アフターサービスについては、大手のハウスメーカーでは専門のスタッフを数多く確保しています。当然ながら住宅の価格にその人件費や事務所、光熱費、通信費などの運営費用も含まれます。
一方、工務店の場合は新築工事で付き合いのある大工や職人に依頼するなど、特に専門スタッフを配置していないケースもあります。これは営業地域が限定されているからできることで、要するに小回りのきくアフターサービスを展開している事業者があるわけです。
熊本地震での熊本県益城町の様子(2016年5月撮影)。右手にみえる住宅は瓦が落ちているが、ブルーシートによる応急措置が施されていない。このような対応の早さにも住宅事業者の差が現れる(クリックすると拡大します)
こうみると、工務店の方が良さそうですが、例えば東日本大震災のような大きな災害時の対応という側面でみると状況が変わってきます。地域の工務店の場合、自らも被災者になってしまい、顧客への対応どころではなくなってしまうこともあり得るからです。
ハウスメーカーの場合は、全国にアフターサービスの部門があり、スタッフも数多くいますから、その点は柔軟に対応できますし、実際に東日本大震災や熊本地震などの大規模災害では全国からアフターサービススタッフが応援に駆けつけていました。
災害時には私たちは不安になるものです。ましてや、地震などで住まいに被害受けた方々は大変でしょう。その時に、住宅再建へ向けた何らかの相談をできる相手がいるというのは心強いもの。アフターサービスに関する価格についてはそうした見方もできるのです。
気をつけたい! 「ウチならより安くできますよ」
メンテナンスについても同じような考え方ができます。現在、住宅事業者のほとんどが長期保証を掲げていますが、将来的に事業継続が難しいような事業者なら、長期にわたる点検・維持管理を期待するのは難しいのです。要するに、将来的に事業継続ができる健全な経営を可能にするコストも住宅価格には含まれているというであり、住宅取得を目指す方々はこのような点にもしっかりとチェックして頂きたいと思います。
最後に販売戦略の違いに伴う価格差ですが、近年のハウスメーカーは高級住宅路線にシフトしており、そのため工務店との価格差は大きくなりつつあります。これは、ハウスメーカーがZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に先導的に取り組んでいることなどを、背景として指摘できます。
ところで、ハウスメーカーと工務店だけでなく、ハウスメーカーの間でも価格差が生じることについて、以下のような話をよく耳にします。他社が作成した設計図を見て、「これならウチはもっと安くできますよ」という感じです。
これは設計やデザインに関する手間(人件費など)が省けるわけですから、見せられた事業者からすれば儲けもので、当然より安く建築できるわけです。いわば後出しジャンケンのようなものです。
工法の違いから、すべて同じように建てられることは決してないのです。このような行為をする中には、提案力に自信をもっていない、たちの悪い事業者がいるため、建築を依頼するのは避けた方が良いと思われます。また、このような行為が事業者間で行われていることも、消費者の住宅価格に関する判断を難しくしていると、私には感じられます。