旧花街、下谷根岸町にある「蒲焼割烹 根ぎし宮川」
鶯谷駅南口を出て根岸方面へ歩く、かつては下谷根岸町と呼ばれた旧花街である。当時は東京の東側が繁華街であった。上野駅の東側は仏具店が並び、いわゆる見世二階で食べさせるうなぎ屋がたくさんあった。このころの事情は、宮川曼魚(みやがわまんぎょ)の「深川のうなぎ」(住吉書店1953年)を読むとよくわかる。この界隈には古い街並みも一部残っており、正岡子規が生涯の晩年を過ごした家「子規庵」や下谷まで足を延ばせば、一葉記念館などもあるので東京レトロ文学散策をしてみても面白いかもしれない。
「つきじ宮川本廛」で修業し根岸で暖簾分け創業
「蒲焼割烹 根ぎし宮川」は初代が「つきじ宮川本廛(つきじみやがわほんてん)」で修業し、1941年(昭和16年)に暖簾分けとして料亭の街、根岸で創業した。当時は芸者を座敷にあげて楽しむお客様で賑わったという。2001年から鶯谷駅から徒歩3分の現在の場所で、「蒲焼割烹 根ぎし宮川」として営業を続け、2017年5月建替えリニューアルオープンをした。時代の流れとともに粋な遊びは廃れていくが、上野から浅草の界隈には寺がたくさんあり、現在は冠婚葬祭や法事、会社の懇親会などで利用されているのだそうだ。
2017年の店舗建替えリニューアルでは、特にバリアフリー化を中心に行い、明るく和風モダンな内装の一階はテーブル席で、二階は少人数でも細かく仕切ることができる座敷席がある。そしてお座敷のテーブル席にしたことで年配のお客様に喜ばれているという。
伝統的な関東風、バランスの良いうな重
メニューにはうな重・蒲焼・白焼きはもちろんのこと、「うまき」や「うざく」などの一品料理、うなぎ料理と天ぷらを楽しめるコース料理もある。うな重は5.5pから6pサイズにこだわり、蒲焼がお重に入った時の見た目の美しさにもこだわる。皮は薄く程よい脂ののり、身はフワッとトロッとした食感が楽しめる。タレは辛め醤油系、ややコクのあるタレだ。蒲焼とタレ、ご飯のバランスが良く、くどすぎず、あっさりしすぎないうな重だ。山椒の入れ物の蓋を開けると、独特の香りが広がる。山椒も時期によって産地を替えるのだそうだ。しっかりしたお出汁の肝吸いには、プリッとした食感のやや大ぶりの肝が入る。三代目店主によると、蒲焼に合う日本酒のラインナップや、日本酒に合うちょっとした一品メニューも考案中とのことだ。
うなぎを食べる文化を守りたい!
三代目店主とお話をさせていただき、特に印象に残ったのは、うなぎを食べる文化を守りたい!という強いメッセージだ。近年の鰻をとりまく環境を考えると「このままだとうなぎを食べる文化が衰退していってしまう」という危機感を強く持つようになったのだそうだ。そして「少しでも多くの方にうなぎを食べて頂きたい。根ぎし宮川じゃなくても良いんです、少しでもうなぎを食べていただける方が増えれば、それで十分なんです」と。そこで、「年1度うなぎを召し上がる方に年2回召し上がっていただく」ための運動を、業界を盛り上げるため、あちこちでプレゼンを行っているのだそうだ。このような活動はぜひ応援したい、自分もそんなメッセージを伝えていきたいと感じさせられた。
■蒲焼割烹 根ぎし宮川
住所:東京都台東区根岸1-1-35
電話番号:03-3842-4141
営業時間:11:00~21:00(定休日:火曜日)
地図:Yahoo!地図情報
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