こんな器でお酒を飲みたいですね。

玉川堂の器たち。


燕三条地域には、刃物やステンレス加工など、様々な金属の工場があります。金属加工と聞くと、何やら専門的な機械などを想像して、ちょっと近寄りがたいイメージもありますが、最近は「工場の祭典」というオープンファクトリーイベントも開催され、各工場を見学したり、金属で何かを作ってみるワークショップを開催したりして人気を呼んでいます。実際に金属加工を体感できることが幅広い層に注目され、親しみを持てる雰囲気が増してきました。ナイフやカトラリー、調理器具など、燕三条で作られているものは、普段身の回りで使っている日常的な道具も多いです。

玉川堂建物内部。入ってすぐの畳部屋から庭が眺められます。

玉川堂建物内部。入ってすぐの部屋から庭が眺められます。


ちゃぶ台に火鉢・・・落ち着く。玉川堂の使い込まれたやかんもさりげなく。

ちゃぶ台に火鉢・・・落ち着く空間。玉川堂の使い込まれたやかんもさりげなく。


さて、玉川堂の創業は1816年。金属の町の中でもなかなかの老舗です。JRの燕駅からも近い、工房を訪ねてみました。明治末期に建てられたという大変趣のある日本家屋で、文化庁の登録有形文化財に登録されているそうです。ちょっと緊張しつつ門をくぐり、中へ入ってみると、まずは広いお座敷があって、ちゃぶ台に火鉢に、ほっと寛げるような、趣味の良い小さなお庭がありました。古き良き日本の穏やかな風景がそのまま目の前に現れて、一気に気持ちがほぐれます。
そして奥のほうから、トンカントンカン……と小気味の良い音が響いています。

大勢でトンカン。最近は女性の職人志望者も増えているそうです。

大勢でトンカン。最近は女性の職人志望者も増えているそうです。


廊下をそのまま進んでいくと、奥の部屋は作業場でした。畳敷きの大部屋に、たくさんの職人さんがそれぞれの持ち場で、ひたすら銅板を叩いていました。トンカントンカン……叩く音が止めどなくずっと続くのですが、それはうるさい音というのとはまた少し違っていて、一定のリズムがあり、オーケストラのパーカッションがリハーサルでもしているような、またはどこか遠い国の民族音楽を聞いているような、程よい調和のある音に感じました。

このようにひたすら銅を打ち起こすことによって徐々に形が作られ、叩くほどに硬く丈夫になっていきます。時々火炉にかけて熱する“焼き鈍し(やきなまし)”をし、微細な形の調節を行います。銅は叩いて伸ばすのではなく、打ち絞って立体にしていきます。「何回叩くのですか?」とよく聞かれるそうですが、もう何千回、何万回と叩き続け、とても数えられるレベルではないそうです。

かたちが出来たら、最後は艶だし用の小さな金鎚で丁寧に叩いて肌を整え、表面をきれいにします。そして玉川堂独自開発の技法により着色し、他にはない唯一の色彩に仕上げます。これらの工程は、この工房で誰でも見学することが可能です。トンカン叩いている迫力の大部屋は特に必見。しばらく作業に見入ってしまいます。

「やかんが出来上がるまで」をご説明頂きました。

「やかんが出来上がるまで」をご説明頂きました。1枚の銅板がこのように立体になるのだから驚きます。


道具のひとつ、鳥口(鉄の棒)。各工程で使うものが違うため、たくさんの種類があります。

道具のひとつ、鳥口(鉄の棒)。各工程で使うものが違うため、たくさんの種類があります。


鳥口をこの木の台の穴に差して固定します。年季入ってます!

鳥口をこの木の台の穴に差して固定し、そこに銅器を乗せて叩きます。年季入ってます。道具萌えします。


玉川堂青山店は2014年の8月にオープンしました。東京メトロ表参道の駅から徒歩3分の骨董通り沿いにあります。本店以外では初の直営店になります。催事などで東京には何度も出店していたそうですが、作る現場をリアルに知っている人間が直接商品について伝えたい、自分たちの手からお客様へ届けたい、という想いからオープンに至りました。

新しい青山店のエントランス。

新しい青山店のエントランス。


エントランスの壁は本物の銅製です。今はピカピカですが、だんだんと鈍い輝きに変わっていくのも楽しみだそうです。

エントランスの壁は本物の銅製です。今はピカピカですが、だんだんと鈍い輝きに変わっていくのも楽しみだそうです。


キラキラとしたスタイリッシュなエントランスは一瞬「ん?宝石店かな?あ、でも暖簾があるから和菓子屋さんかな?」などとも思ってしまうのですが、この扉回りの壁は実際に銅でできており、施された模様は「大鎚目」を表現したものです。

職人が銅器を作るとき、まずは大鎚で数回トントントン、と叩いて大まかな面を作ります。そこからだんだんと面を細かく緻密に叩いていくことで際が立っていきます。最初に叩く大鎚の目は、職人各々の個性があって、その人だけの形であり、同じものは作れません。職人ひとりひとりの手の跡が感じられ、そこから生まれる器であることを表現したいという想いから、このような模様がデザインされました。暖簾に描かれたマークにも、その想いが現れています。

すっきりと商品が並ぶ店内。工房の様子をムービーで流し、制作風景も感じることができます。

すっきりと商品が並ぶ店内。工房の様子をムービーで流し、制作風景も感じることができます。


青山店と本店だけで展開される大鎚目の器のシリーズもあります。太陽をイメージした輝かしい金色の「陽 HI」、月をイメージした濃艶のいぶし色「月 TSUKI」、そして海をイメージしたダークブルーで玉川堂を代表する紫金色とも呼ばれる「海 UMI」の3色。急須や茶壺、片口、ぐい呑み、タンブラーなど、現在は各13種類の銅器があります。

直営店限定の「陽」「月」「海」です。

直営店限定の「陽」「月」「海」です。


銅の器は職人が銅板を金鎚で何度も打って作りますが、商品が出来上がっても、そこで終わりではありません。多くの大量生産品は、人の手に渡り、使うことで次第に色褪せ、枯れていきますが、手作りの銅器は、時とともにその魅力を増していきます。段々と色や質感が変化し、より手に馴染みやすく、その人らしい味わいの刻まれた器となっていきます。

玉川堂では「打つ、時を打つ」という言葉で、銅器の魅力を表現しています。正直、決して気軽に買えるような安い器ではないのですが、日々使って器と共に過ごし、趣の深い器へと育てる楽しみがある、そして次の世代へと受け継いでいく、と考えたら案外リーズナブルなのかもしれません。店内には、40年以上経ったというやかんがさり気なく置かれていますが、その堂々たる風格には銅器の本領を見ることが出来ます。

新品のやかん(左)と40年を超えたやかん(右)。

新品のやかん(左)と40年を超えたやかん(右)。明らかに風格が違います。


また、銅は水やお茶、お酒などの液体の味をまあるくまろやかなものにする、とよく言われています。実際どうなんだろう??と思っていましたが、やはり気になる、一度使ってみたい、と悶々としていたところ、「玉川堂の器でお酒を呑んでみよう」という機会を2度ほど頂きました。そのとき一緒にいた方々の感想をそのまま書くと、「びっくりするほど丸くなる」「硬いお酒が和らぐ」「まろやかで、口当たりが良い」「燗酒の手に伝わる温度感がいい」などなどでした。ジャーナリストやソムリエ、陶芸家など、食や器のプロと呼べる人達から好評な意見が出ましたが、あまり器に興味がなかったような若い男性が感動して、「頑張って働いて、お金ができたら買いに行きます!」と言っていたのは印象的でした。

人の手で丁寧に打ち込められた器は、手作業ならではの微妙な揺らぎがあるようで、その些細な配慮のせいか、手に沿うような自然な触感で、金属なのにふっくら柔らかな口当たりを感じました。やはり実際に使ってみて分かることが多々あります。今後もそのような機会を作っていきたいとのことなので、まずは一度使い心地を体験してみるのもいいかと思います。

違素材とのコラボも。こちらは鋳物技術を駆使したステンレスと融合。花器やワインクーラーとして活用できるオブジェのような工芸品。

違素材とのコラボも。こちらは鋳物技術を駆使したステンレスと融合。花器やワインクーラーとして活用できるオブジェのような工芸品。


銅なのであまり壊れることはないですが、やかんの空焚きをしてしまったとか、うっかり落っことして凹んでしまった、など器の不具合があった場合、玉川堂ではメンテナンスにも応じてもらえます。修理しながら使う、ものを大切に扱う、という日本本来の文化を、銅を通して感じてもらえたらと思っているそうです。そうやって直しながら、少しずつ年を取っていくことで、器にも一層愛着が湧いてくるのではないかと思います。

シンクに何気なく置いてあったたらいも40年選手。

本店のシンクに何気なく置いてあった、たらいも40年選手。この堂々とした味わいたるや。



玉川堂 青山店
東京都港区南青山5丁目11-5 住友南青山ビル1階
03-5778-3020
11:00~20:00 火休

本店(工房とショールーム)
新潟県燕市中央通り2丁目2-21
0256-62-2015
8:30~17:30 日祝休(予約に応じて開店)
工房見学可(予約不要)。
店舗ショールームでは、web掲載以外の製品も多数揃っている。
http://www.gyokusendo.com/


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