今年のテーマとプログラムの構成
2014年の日本公衆衛生学会は「連携と協働:理念から実現に向けて」がメインテーマでした。こうした学会の紹介記事は、主に公衆衛生関連の専門誌が取り上げます、一般誌にはあまり出てきません。また、仮に紹介されても、学会長講演や特別講演、鼎談、メインシンポジウムが中心となり、どうしても堅苦しい記事になってしまいます。そこで、今回はこれから保健師を目指す人のため、私なりの視点で見た学会というものを、ご紹介していこうと思います。
日本公衆衛生学会の概要で少し触れていますが、学会のプログラムには次のようなものがあります。
- 学会長講演
- 教育講演
- 鼎談
- シンポジウム
- 一般演題(口演)
- 一般演題(示説)
- 自由集会
一般演題(示説)は、畳一枚分ほどのボードにポスターと呼ばれる資料を貼り付け、発表者が3分で解説。2分で質疑応答を受けるスタイルで発表が行われます。演者も聴衆も立ったままで、次々に発表が移動していくので、かなり忙しい感じです。
最後の自由集会は夜に行われるもので、テーマを公表し、それを聞きたい、共にディスカッションしたい有志を募って行われるものです。自由というだけあり、お茶菓子をいただきながら、和やかなムードになることが多いです。
演者は大学関係者が多い
ちなみに、私が学会で楽しみにしているのは、現場からのレポートです。つまり、保健師として実際に活動している方々の報告で何かおもしろいものがないかと探します。しかし、実際はそういった現場発の発表は少なめです。なぜなら、学会は平日の昼間(近年は水曜から金曜日)に行われるため、現場の保健師が参加したいと思っても、上司の許可を得て仕事を休んで参加するしかないからです。また、遠方に行くことが多いので、日帰りが難しい。仮にOKが出ても仕事(出張扱い)として認めてもらえる可能性は少なく、有給を取り、交通費や宿泊費も自腹で参加するしなければならないことも影響しているかもしれません。
なので、各プログラムで発表する方々は大学関係者で、目的、分析方法、結果、考察という段階をしっかり踏んだ研究や調査報告が目立ちました。こうした発表は、今後保健師として論文も書きたいと思っている方には参考になると思います。
興味をひいた発表
そんな中から私が興味を持ったプログラムはというと、一般口演(示説)で熊本県熊本市の健康づくり推進課が発表していたCKD対策の費用対効果と、なぜ、この地に人工透析者が多いのかという話でした。ご存知のように、熊本市は「政令指定都市における人口10万人当たりの人工透析実施件数」ではワースト1なので、熱心なCKD対策を行っています。それだけに、どのくらいの効果が出たのか、そして、なぜ患者が多いのかの結論部分はとても興味があったからです。結論から書きますと、効果として出ていたのは、対策を取り始めた平成21から25年にかけて、新規の人工透析者数は295人から260人と、35人分の減少がありました。気になる費用対効果として、およそ4億2000万円という数値も発表されていました。
なぜ患者が多いのかについては、明確な原因が見当たらないこと。熊本市はとても医療機関が充実していることから、ひとつの考察として「透析者を受け入れる環境が整っているため」との話が出ていました。つまり「にわとりが先か、たまごが先か」と同じものですね。この考察には、聴いていた方々から様々な意見が出ていましたが、私は今後のさらなる調査の参考になるものだと感じました。
より深い交流ができる自由集会
自由集会は初日に「保健師による生存権を護る活動について考えよう」という、森永ヒ素ミルク事件に関連した恒久救済をテーマにしたもの。2日目は「PDCAサイクルをまわす『個』から『地域』へ広がる保健師活動」に参加しています。どちらもテーマについての話があってから、参加者がグループディスカッションしていくスタイルで、ただ聴くだけでなく、自分も参加しているなと実感できるものです。ディスカッションをした方々とは集会終了後に名刺交換をして交流も深められますから、皆さんが参加するときは、ぜひとも大量の名刺を持参することをおすすめします。
ほか、シンポジウムでは大学関係者だけでなく、一般企業からの演者が2名入っていた「日本人の長寿を考える『健康な食事』で、健康増進と産業振興の真の協働は可能か」を聴きました。興味深かったのは、タニタの社長やローソンの社長補佐が演者となり、企業としての意見を語ってくれたことです。プレゼンも面白く、実践的で引き込まれるような話は、聴衆をぐっとひきつけていたように感じました。
最近は特定健診などで、地域と職域の連携も叫ばれていますので、これを機に、より多くの企業が地域と結びついてくれれば、一層の健康事業が進められるのではないでしょうか。